作品タイトル不明
弟子入り志願者と教師合格者
正面のソファーに座ってもらい、一先ず紅茶を淹れた。
ふわりと優しい香りが広がり、一気に室内が華やかになった気がする。
「お菓子がなくてごめんなさい」
「あ、いえ! そんな気にしないでください!」
恐縮しながら紅茶の入ったコップを手にするエライザ。可愛い。
熱かったのか、口を付けてすぐにビクリとしている。可愛い。
「……それで、何故エライザさんが私に弟子入りを?」
改めて確認すると、エライザは居住まいを正してこちらを見る。
「……以前、お話をしたかもしれませんが、私は魔法陣の研究をしています」
そう前置きしてから、エライザは自身の研究について語る。
「ドワーフの国では、魔術師になれる人材が少ない傾向にあります。もしかしたら、アオイ先生ならば平等に魔術師になる機会を与えることが出来るかもしれませんが、現状では改善の見通しはついていません。しかし、魔力は皆持っているのです。だから、魔法陣を復活することが出来れば、ドワーフの国でも皆が魔術を使えるようになるかもしれません」
「……確かに、魔法陣があれば後はイメージと魔力操作さえ出来れば魔術は発動しますね。ですが、今でも魔石に魔力を込めればそれなりの効果を持つ道具はあるのでは?」
「それは遺跡から出土する古代の魔術具とかではなくて、灯りや火を点けるのに使っている火の魔石とかのことですよね? あれは生活を支える便利な道具ですが、魔術ほどの利便性や応用性はありません。それに、魔術の研究が遅れたままでは、やはり国力に差が出てしまいます。私は、祖国であるグランサンズをもっと豊かにしたいのです」
エライザは意志の篭った目で私を見つめ、真摯に国の為と語った。
その意思と想いは、どうにも無視出来そうにない。
私は微笑み、頷いた。
「……わかりました。では、微力ながら私が魔法陣について教えます。ただし、私も魔法陣は十年かけて学びました。簡単では無いと、覚悟はしておいてください」
そう告げると、エライザは輝くような笑顔になり「はい!」と返事をしたのだった。
「これは……」
「私の記憶では、こんな建物は無かったかと思いますが……」
建物を見て、ストラスとスペイサイドが疑問を口にする。その疑問に、シェンリーが首を傾げる。
「アオイ先生が建てたんじゃないですか?」
その言葉に、皆が私を見た。
「はい、昨日」
答えると、沈黙が場を支配した。
どうやら納得してもらえたらしい。安心した私は扉の前へ移動した。
「何事もなかったように先に進むな!」
「アオイさん!? 一晩でこんなの作ったんですか!?」
ストラスとエライザに驚かれ、私は眉根を寄せる。二人はどうも私を問題児のように扱うから困る。失礼な話だ。
「きちんと、学長の許可はいただいています」
「そういう話では……」
がっくりと肩を落とす二人を横目に、フェルターが肩を竦める。
「……いつものことだ」
そう言ったフェルターに、ロックスが頷く。
「確かにな。もうそろそろ慣れてきたぞ」
そんな会話をする二人にスペイサイドが諦観を込めて呟く。
「……今回のはまた別種の技術だから驚いているのです。昔は魔術による建築などもあったようですが、今は石の魔術でブロックを作り、それを並べて灰溶剤にて固めていくのが主流です。魔術無しで建てるより早くはありますが、それでも一日でこんな建物を建造するには至りません」
解説するスペイサイドにフォアが首を左右に振る。
「……この技術も興味深いが、今は先日の続きを学ぶことが先決だ。授業後、時間を割いてもらえるならば各々質問すると良い」
そう言ったフォアに微笑み、私は丁度良いと思い、扉を順番に開けてもらうことにした。
「すみませんが、皆さん。順番に扉を開け閉めしてもらえますか?」
お願いすると皆は顔を見合わせたが、すぐにストラスが扉の取っ手を握った。
直後、取っ手を起点として扉が薄い光に包まれる。
「な、なんだ……?」
驚くストラスに、私は頷いて答えた。
「上級魔術を余裕をもって使えるほどの魔力量を持つ人でないと、この扉は開きません。仕組みは単純です。取手を握ると魔力の濃度を測ることが出来ます。一定の魔力を感知するとフックが掛かるだけの簡易的な施錠がされます」
「……単純、なのか? いや、それだけ聞けば単純かもしれんが」
「まぁ、今は中にどうぞ」
首を捻るストラスの背中を押して扉を開けさせる。すると、一番に入室したストラスの魔力を吸い、一部の壁が淡く発光する。
室内は通気口と排水用の穴がある程度で、ほぼ四角い箱である。
ただ、外からの光と魔力による灯りに包まれ、さほど薄暗いとは感じない。
「……何もない?」
アイルが無意識に呟いた。中を見回す皆の気持ちを代弁したかのような台詞に思わず笑う。
「ここは攻撃魔術の実験場です。竜の 息吹(ブレス) のような広範囲で極大威力の魔術は対応外ですが、通常の上級魔術なら問題ありません」
そう告げてから、私は電撃の魔術を放つ。
「 雷閃撃(ライジング) 」
建物の奥に向けていた手のひらの先に白い球が浮かび上がる。五本の指から白い球に向けて電気の線が走った。白い球は瞬く間に大きくなり、やがてボウリングの球ほどになった。
そして、弾丸のように白い球が射出される。周囲に青白い電撃の跡を残して、白い球は部屋の奥に飛ぶ。
耳に突き刺さるような轟音と建物の壁が爆発する破壊音が響き渡った。
皆が耳を押さえて顔を顰め、目の前の景色に唖然とする。
「……穴が空いたぞ」
ロックスが呟いた。その言葉に、コートが慌てながら穴の空いた壁を指差す。
「あ、えっと、強靭な防壁であっても、雷の魔術なら貫通する、という……?」
そう言うコートに、私は首を左右に振って否定する。
「ただの厚さ一メートルほどの壁です。氷や石のような物理的破壊力のある魔術ならば貫通は可能でしょう。ただし、この建物は上級未満の魔術では破壊することは不可能です」
私の言葉に、誰もが疑問を持つだろう。
だが、やがて砕けた岩がふわりと浮かび上がり、穴を埋めていくのを見て、私の言葉の意味を理解した。
「な、直っていく……」
シェンリーの言葉の後、エライザが興奮した様子で私に駆け寄ってきた。
「こ、これも魔法陣の力ですか!? 確か、ブッシュミルズ皇国にある遺跡にはそのような機能がある建物が……」
「落ち着いてください。建物のことはまた次回に。今は、ここで電撃の魔術の実習を行います」
テンションの高いエライザに手のひらを見せて落ち着けながら、私は皆にそう告げた。
ここならば、学院に被害は出ない。
「先日教えた電撃の魔術に、指向性を持たせます。今回の詠唱と魔力の操作を覚えたら、皆さんは電撃の魔術を覚えたと言えるでしょう。さぁ、バンバン撃ちますよ」
私はそう言って、授業を始めた。
授業が終わる頃には、威力に差異はあれど、皆が電撃の魔術を覚えることが出来た。授業終了後も、皆は満足そうに顔を見合わせて新しい魔術について語り合っている。
私の周りにも、シェンリーとディーンが質問しにきていた。
二人の話を聞いている私に、ふらりとフォアが歩いてくる。
何か話したそうな雰囲気に気が付き、私は二人に静かにしてもらい、フォアに向き直った。
フォアは険しい顔で私を見下ろし、静かに口を開く。
「……良い授業だった。どうやら、私の思い違いだったらしい」
そう言ったフォアに、思わず微笑む。
「それでは、授業を続けても?」
「……お願いしよう。そして、出来ることなら私も参加させて欲しい」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、フォアは軽く会釈をして踵を返し、去っていった。
こうして、私はようやく上級教員の一人であるフォア・ペルノ・ローゼズに認められたのだった。