作品タイトル不明
【別視点】フォア吃驚
【フォア】
魔術の腕は間違いない。
それは、噂を聞けば分かる。風の魔術も火の魔術も一流だろう。そして、水の魔術まで。
私も他の魔術は使えるが、自信を持っていえるのは水の魔術だけだ。
だからこそ、アオイ・コーノミナトの傲りが仕方がないものと理解出来る。あの若さで、魔術師のトップに並び立っているのだ。誰でも、自らを特別な人間と思い、何でもできるのだと勘違いするだろう。
しかし、それは間違いだ。
私とて同じ過去を持っている身だ。貴族ではあるが、吹けば飛ぶような領地の子爵家に生まれ、父も母も魔術師では無い。
たまたま魔術の才能があり学院に通うことが出来たが、その後は悲惨なものだった。
誰よりも魔術を深く理解する為に必死に勉強し、鍛錬を重ね、研究をやり尽くした。
そうやって、気が付けば学院の主席になり、そのまま教員の道が拓けたのだ。自分の努力は間違っていなかった。同じような努力をさせれば、誰もが一流の魔術師になる筈だ。それを成し遂げれば、私はメイプルリーフ聖皇国出身の教師の中で初めて上級教員になれるに違いない。
そして、数年間を無駄にした。家の事情もあり、結果を出そうと必死だった。だが、焦れば焦るほど、悪い結果に結びついていく。
最後にはブッシュミルズ皇国の公爵家の子息を怒らせ、あわや学院を追い出されるところだった。
そんな私も、十年経てば落ち着くことができた。誰でも分かる内容でなくば生徒には分からないのだ。
猿でも分かるように学ばせ、学院にいる間に一つ二つ上級魔術を使えるようになれば満点とする。そのやり方をしている内に、私は上級教員となり、家は伯爵へと陞爵までしたのだ。
アオイ・コーノミナトのやり方では、そうはいくまい。
「……失礼する」
私は声を掛けて扉を開いた。教室に入ると、思ったよりも人数がいて驚く。
いや、生徒じゃ無い者も多いのか。生徒はコート、アイル、リズ、ベルの四人が固まって座っており、最前列の真ん中にはシェンリーがいた。他にはディーンと……驚いた。フェルター・ケアンか。更にはロックスまでいるではないか。
だが生徒はその七人のみだ。後は、ストラスやエライザ……。
「……君も参加するのかね。スペイサイド教員」
そう尋ねると、スペイサイドは居心地悪そうに視線を逸らして、窓の外を指さした。
「……学長も見学されますので、どのようなものかと思い……」
その言葉に驚いて窓に顔を向けると、素早く身を潜めるグレン学長の姿があった。
馬鹿な。学長はその役職通り、魔術学院で最も魔術に長じた人物だ。その学長が見学に?
いったい、この授業に何があるというのか。
私は頭を捻りながらも、後方の隅の席に座った。
アオイは私を見て名簿に視線を落とし、口を開く。
「これで全員ですね。それでは、授業を始めます」
そう言ってから、皆を見回して片手の手のひらを上に向けた。
「今日は、電撃の魔術です」
一言発して、僅かな間を空けて、すぐにまた口を開く。
「 紫電球(ライオット) 」
直後、アオイの手のひらの上には直径五十センチ程度の淡い紫色の発光体が生まれた。爆ぜるような音を断続的に立てて明滅する発光体に、皆の顔が一様に固まってしまう。
勿論、私も同じだ。
アオイは両手で球を掴み、左右に引き伸ばして見せた。細く伸びたそれは、まさに天より降り注ぐ雷の姿である。
私は思わず、立ち上がって口を開く。
「で、出来るわけないだろうが!」
言わずにはおれなかった。授業を終えるまでは黙っていようと思っていたが、我慢できない。それが恐怖からきているのかもしれなかったが、今の私には分からないことだった。
私が怒鳴ると、その雷を幻のように消し去り、アオイは口を開く。
「何故でしょう?」
アオイは淡々とそんなことを言ってきた。私は机を思い切り叩き、再び怒鳴る。
「電撃、雷の魔術の使用者は歴史上でも何人もいない! 一部で口伝されてきた秘伝の魔術とされているが、今は誰も使える者はいない筈だ!」
「過去の魔術は分かりませんが、この魔術は私のオリジナル魔術なので教えることが出来ます。現に、私の師匠は使えるようになりました」
「ば、馬鹿な……」
天才の戯言。
いや、もはや化け物の類か。
私はさまざまな反論の言葉が頭に思い浮かんだが、自分でも支離滅裂であると感じ、口には出さなかった。
力なく椅子に座り直し、背もたれに身を預ける。
教えられるものならば教えてみよ。
そう思った。
私が黙ると、アオイはまた無表情に皆の顔を見回し、口を開く。
「では、まずは雲の仕組みから話します。雲は空気中に含まれた水が空に上がり、気温の低い空の上で液化、または結晶化したことにより出来上がります。材料となる水は気温が暖かいと、川や海などの水源から多く上り、雲は大きく、分厚くなります」
そう言って、アオイは水の魔術を発動。手元に浮かべた水の球をどんどん霧に変えていった。
すると霧は上に上がっていき、教室の天井間際に集まって行く。
「これは擬似的に生成した雲です。密度が薄いので、これを厚くしていきます。今日はここまでやれたら十分かと思いますので、皆さん頑張りましょう」
アオイはそう言うと「では、詠唱を……そうですね、こんな感じでやってみましょう」と、まるで今詠唱の文言を考えたような言い方で説明した。
一つ目は水の生成と固定。二つ目は加熱。三つ目は上昇。四つ目は循環。五つ目は冷却。
魔力を調整しながら詠唱すると、確かに、アオイの使った魔術を小規模にしたような物が出現する。
実際に魔術を発動すると、自らの魔力の動きが感覚的に理解できる。詠唱には含まれていなかったが、どうやら冷やされた水は降りてきて、また熱せられることにより上昇するようだ。
「これが雲の仕組みです。出来る人は、この循環を水の量を増やしながら行っていきましょう」
アオイに言われて、実際にやってみる。不可能ではないが、かなり難易度は高い。これは殆どの者が脱落するだろう。
そう思い、周りを見た。
「む、難しいですね……」
「お兄様、想像力です! アオイ先生のいった雲の仕組みをしっかり頭の中で描いてください!」
「……い、意外と簡単?」
「ディーン君、上手!」
「ふ、俺の方が早く大きくなるぞ、フェルター」
「……黙って集中しろ」
「ひぇ……! シェンリーちゃん凄い!」
「リズ、集中しなさいってば」
だが、誰もが騒ぎながらも、見事に魔術を発動している。
いや、むしろ、一部の者は私よりも……。
驚きながらもストラス達を見ると、土の魔術しか使えないと聞いていたエライザすら、僅かに水の塊を作り出している。
「エライザ先生は、前に教えた水の作り方、性質を思い出してください」
「は、はぃいい……!」
「落ち着いてやれ、エライザ」
「ふむ、興味深い……これが雲、ですか」
適性のないエライザだけが苦戦しているが見る限り皆がしっかり魔術を発動している。
エライザすら、ストラスとアオイに助言を受け、暫くすると雲を作り上げてしまう。
「……なんだ。どうやっている? 同じように授業に参加し、同時に新たな魔術に取り組んでいるというのに……」
私は中々大きくならない雲を見上げ、ふと窓の外に目を向けた。
外では、豪雨を作り上げたグレン学長が滝のような雨に打たれながら、狂喜の笑みを浮かべて声を出して笑っていた。