作品タイトル不明
新しい魔術の可能性
オーウェンの言葉に、目を見開く。
「え?」
首を傾げて聞き返すと、オーウェンは通路の先を指さした。
「この魔法陣は、我々の研究を著しく発展させる可能性がある」
オーウェンのその言葉に、壁に描かれた魔法陣の一部を改めて確認した。
上部と下部にはエルフが使う古代語での文字が刻まれ、魔力の性質を変える為の図形が三種類。しかし、効果が分からない。まるで調合するように複数の変質した魔力を混ぜ合わせ、その配合割合次第で流れる先が変わるようなものに見える。
この魔法陣がどんな効果を発揮するのか。ここだけではとても分からないように感じたが、オーウェンには理解できたということだろうか。
「……すみません。これだけでは何とも……」
暫く考えてみたが分からず、オーウェンに振り返る。すると、オーウェンは腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ。やはり、精霊魔術の研究はあまり進んでいなかったか」
と、オーウェンは口にした。それに驚きつつ、魔法陣に視線を戻す。
「……精霊魔術? これは、エルフの精霊魔術を実現する魔法陣ということですか?」
そう尋ねると、オーウェンは首を左右に振り、壁の方へ歩いてきた。
「そうではない。これは、精霊魔術の仕組みを応用した代物のようだ。精霊魔術は別の世界……重なり合うが異なる積層世界とでもいうべき場所から精霊を呼び出し、この世界に顕現させる魔術だと言える。その仕組みを利用しているとすると、この魔法陣はなんだ?」
その質問に、思わずハッとなる。
「……まさか、これは、転移を行う為の魔法陣、ということですか? しかし、それなら、この都市が住めなくなってしまった理由にはならないと思いますが……」
「それは分からん。だが、恐らくこれは精霊魔術の仕組みを利用して何かを成す為に作られた魔法陣の筈だ。なにせ、私が研究中の魔法陣と同じ方向性の作り方をしているからな」
オーウェンはそう口にして、顔を上げる。その言葉を聞き、目を細めた。
「……なるほど。それは、早急に解析する必要がありますね」
そんな返事をして、口の端をあげる。
「……面白くなってきました」
私はそう呟き、新たな魔法陣の可能性へ意識を向けたのだった。
それから二時間。皆にも協力してもらい、魔法陣の一部と思わしき線や溝、記号などを調査してもらう。しかし、想像以上に大きく、複雑だった。
「……これは、簡単には調査できませんね」
「あまりにも巨大だ。それに、アオイですら分からない部分があるような複雑な魔法陣だと、我々では見逃してしまっている個所も多いように思う」
「しかし、それは仕方がないことですよね。もしどうにかしようと思ったら、それこそ魔力の残滓すら追える一流の魔術師を何十人も呼んでこないと……フィディック学院ですら、そんな人は十人もいないと思いますし」
と、エライザやストラス、ハイラムがそんなことを言った。その言葉に、確かにと頷き、答える。
「……グレン学長。一年ほどお休みしても良いですか? この魔法陣は、どうにかして解析したいのですが……」
無理を承知で頼んでみる。しかし、グレンは困ったように笑った。
「それは少し長いのう……今年中にもアオイ君の講義を受けてみたいという者が各国から来る予定じゃ。その中にはメイプルリーフのバルブレア殿もおるんじゃぞい?」
そう言われて、これは困ったと唸る。なにせ、各国の有能な人材に声をかけたり、魔術を教えてきたのは私だ。
ある意味、自分がフィディック学院に来るように伝えたようなものである。それなのに、いざ来てみたら当の本人がいないのでは締まらない。学長であるグレンとしても困ってしまうだろう。
「私が残ろう。五年も研究すれば全て把握できるはずだ」
悩んでいると、オーウェンが胸を張ってそんなことを口にした。確かに、オーウェンならば可能だろう。これだけの魔法陣を一人で解明するのは大変だが、オーウェンならば五年から十年でやり遂げるとは思う。
しかし、これほど興味深い魔法陣だ。転移魔術にも発展する可能性があるなら、何とか自分でも調べてみたい。週末だけ調査に来るということもできるが、かなり距離があるので調査する時間をとることが難しいだろう。
どうしたものかと頭を捻っていると、マッシュが腕を組んで唸った。
「……ふむ。それなら、短い期間に人を集めて調査を手伝ってやろうか? 我が国にも有能な魔術師は多い。それに、元々の遺跡を研究する研究者もおるのだ。その者らがいれば多少は調査も進むだろう」
その言葉を聞き、オーウェンが首を傾げる。
「ブッシュミルズ皇国の魔術師? 身体強化の魔術に傾倒していると思っていたが、魔法陣の知識がある者もいるのか? まぁ、遺跡の研究をしている者は有用だろうが……」
と、オーウェンが失礼な物言いをする。マッシュとラムゼイが笑っていたから良いが、普通なら処罰される発言である。
「お、おお……ブッシュミルズ皇国といえば大国の一つ。魔術師の層も厚かろうて」
グレンが冷や汗を拭きながらそう答え、ふと手を合わせて口を開いた。
「そうじゃ。それなら、一、二か月という短い期間で、集中的に調査をするのはどうじゃろうか? 魔法陣の全容さえ分かってしまえば、アオイ君なら学院に戻っても研究できるじゃろうし、それくらいの日数ならば休んでも大丈夫じゃぞい。できるだけ多くの人に協力してもらってやれば、それでも大きな成果を得られると思うがのう」
グレンは笑顔でそんな提案をしてくれた。この提案を聞き、ロックスとハイラムが揃って声を上げる。
「成程な。それなら、各国から有能な者を集めれば良いわけか」
「フィディック学院なら各国の権力者が揃っているからね」
二人がそう口にすると、フェルターが鼻を鳴らしてこちらを見た。
「……アオイに師事したいと思っている者も多い。その者らも力になるだろう」
フェルターがそんなことを言い、思わず首を傾げて「え?」と呟いてしまった。誰が、私に師事しているというのか。