軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

移動

武闘場を出ると、すぐに大勢の獣人達に囲まれた。

国の英雄であるマッシュやラムゼイ達に勝利してしまった為、観衆の反感を買ってしまったのかもしれない。

そう思い、ロックスやストラスが身構えたが、どうやら我々に危害を加えようというわけではないらしい。

「やぁ、あんたら! すごかったな!」

「人間だと思って馬鹿にしてたら、信じられないような力だった!」

「エルフも強いんだなぁ!」

口々に勝者を賞賛する声。さらに最後尾にいたフェルターが現れると、歓声はより大きくなった。

「おぉ! ラムゼイ閣下の!」

「フェルター様!」

「まだ学生であられるというのは本当ですか!?」

瞬く間に人が寄り集まり、フェルターの巨体が人混みに紛れて消える。もみくちゃになっているだろうフェルターの方を眺めていると、しかめっ面で人込みを掻き分けながらフェルターが出てきた。

「……早くいくぞ」

髪がボサボサになってそう呟くフェルターに苦笑し、頷く。

「すみません。ちょっと通していただきたいのですが……」

集まってきた群衆にそう言って道を開けてもらおうと思ったが、退いてくれたのは手前だけだ。後から後から集まってくる人々には、そもそも聞こえてもいない。

「……面倒だ。空から行く」

と、後ろからオーウェンの声が聞こえたと思ったら、全員の体が空へと浮かび上がった。オーウェンが飛翔の魔術を使ったようだ。馬車一台や二台ではなく、九人の体を飛翔の魔術で浮かせるというのは相当難しい。それをさらりとやってしまうあたり、オーウェンは流石である。

「……え? 九人?」

人々の驚く声を聞きつつ、空中に浮かんだ皆の顔を確認して違和感を覚えた。誰か忘れている気がする。

「あ、アオイさーん!? わ、私も案内役を仰せつかっていて……!」

群衆の波にのまれたような格好でモアが両手を振っていた。オーウェンが飛翔魔術の対象から省いてしまったらしい。

「オーウェン。モアさんを忘れていますよ」

声を掛けると、オーウェンは地上でぴょんぴょんと飛び上がってアピールするモアを眺め、口を開いた。

「あいつが皆の質問に答えていれば、滞りなく移動できるのではないか」

「可哀想ですよ。大変そうなら私が連れていきましょうか?」

「……いや、大丈夫だ」

残念そうに答え、オーウェンがモアに飛翔の魔術を行使した。これで対象は十。全員をそれぞれ飛翔させるのは相当集中力を使うだろう。

「あ、ありがとうございます……」

どこか疲労感を滲ませたモアが目線の高さまで浮かび上がってきた。

「陛下はどちらでしょう?」

そう尋ねると、モアは武闘場の反対側を指差す。

「陛下は反対側の出入り口から王城へ向かわれていると思います」

「我々がこのような状態ですし、陛下の馬車も取り囲まれているのでは?」

陛下やラムゼイ達には熱狂的なファンがついていそうだ。そう心配しての言葉だったが、モアは首を左右に振った。

「上級貴族の紋章が入った馬車には余程の理由がない限り近づきません。進行を妨げたら罪になりますから」

「なるほど。そういえば、陛下もラムゼイさんも要人でした」

陛下と呼びつつ、何故かそれを忘れていた。そんな間の抜けた私の言葉を聞き、何人かが呆れたような顔でこちらを見る。

「……陛下だぞ」

「まぁ、お二人とも貴族っぽくはないかもしれんのう」

「アオイらしいと言えばアオイらしい」

そんな声に、なにも言えずに首肯する。思わず、プロレスラーと対戦したような気持ちになっていた。よく考えたら王と上級貴族なのだから、平民は近付けない存在だろう。

「それでは、我々も王城へ向かいましょうか」

振り返ってそう口にすると、オーウェンが武闘場の反対側を指差す。

「いや、今から案内してもらうとしよう」

「え?」

そう聞き返した時には、もうオーウェンが十人全員を運んで武闘場の上空を飛ぼうとしていた。あっという間に武闘場を飛び越えて反対側に行くと、地上には皆の声援を受けて進む黒い馬車の姿があった。六頭立ての大きな馬車だ。その後方に小さな茶色の馬車が二台続いている。

「あれだな」

「……オーウェン。陛下が移動中の馬車に直接とは流石にのう?」

オーウェンの暴走に、グレンも冷や汗を流しながら意見した。その後ろではエライザとシェンリーも青い顔で小刻みに頷いている。

やはり、まずいらしい。馬車の移動以外のところでも失礼な行動や言動をしてしまっているので、少し感覚が麻痺してしまっているが、あまり無礼な行動をし過ぎるとヴァーテッド王国にも迷惑をかけるかもしれない。

そう思ったのだが、オーウェンを止めることはできなかった。

「ならば、モアに声を掛けてもらうとしよう。重要な拠点の隊長をしている人物なら声を掛けるくらい問題ないだろう」

「えぇ!? わ、私ですか……!?」

なので、オーウェンの恐ろしい無茶ぶりを目にしても、代わりにモアに謝るのみである。

「すみません、モアさん。最初に声を掛けてくれたら、後は私が話しますので……」

「そ、そういう問題では……!?」

悲鳴を上げるモア。だが、無情にもオーウェンはそのまま馬車の横に並ぶようにモアを降下させたのだった。