作品タイトル不明
調査3
バルヴェニーを物理的に黙らせた私は、ストラスを振り返る。
「彼は違うようです。謝罪は後日、私が一人で行いますので、ハイラム君という人に会ってみましょう」
そう言うと、ストラス達が小刻みに頷いた。
「ま、待っ……」
何か言うバルヴェニーに深く一礼し、私は踵を返した。
「こ、こちらです!」
「ハイラム先輩は風の魔術が得意なので、今日最後の授業を受けに教室にいると思います!」
何故か先ほどよりもテキパキ動き出したベルとリズが私の前を先導する。そして、隣にはコートとアイルが来た。
「お兄様は土の魔術を主に専攻してらっしゃいますから、あまりハイラム先輩と一緒に授業を受けることは無いですよね。私はハイラム先輩と一緒で風の魔術が得意なので、よく授業が一緒になるんですよ」
「へぇ。もしかして、仲が良かったりするのかな?」
「いえいえ。挨拶する程度ですよ」
と、二人は仲良く会話している。
そこへ、エライザが不安そうに口を開いた。
「あの、バルヴェニー君はあのままで良いのでしょうか……仮にもブッシュミルズ皇国の第四皇子ですが」
「後で謝っておきますから」
「…………はぁ、もう知りませんからね」
エライザが肩を落として諦めの言葉を呟く中、私はハイラムのいる場所へと突き進む。
たまたま全員がこの時間は受ける授業が無かったのか、七人で学院内を練り歩き、目的の教室に辿り着いた。
到着したのは三階西側の教室だ。ちょうど終わったのか、生徒達が何人か教室を出てきた。
その脇をすり抜けて、教室に入る。
すると、コートが一番に例の人物を見つけ、片手を上げた。
「ハイラム先輩」
名を呼ぶと、女子生徒に囲まれた紺色の髪の少年が顔を出した。童顔からか、シェンリー達と同世代に感じるが、少年はコートに気付いて笑顔を見せる。
「やぁ、コート君。久しぶりだね。元気にしてた?」
「お久しぶりです、ハイラム先輩」
思い切りフランクな挨拶をしつつ、少年はこちらに出てきた。やはり、これがハイラムで間違いないらしい。
紺色の髪はツンツンと跳ねており、目も大きくて丸っこい。中性的な雰囲気で、ニコニコと笑う様子は人懐こくて親しみやすい。
周りに集まる女子生徒もハイラムを可愛い可愛いと言って持て囃している。
「僕に何か用事かな?」
そう言って、ハイラムは私を見た。
「……うわぁ! アオイ・コーノミナト先生だよね!? 会ってみたかったんだけど、中々時間が合わなくて……是非今度、授業に参加させてくれるかな?」
「あ、はい。私の授業は別に誰が受けても構いませんが……」
答えると、ハイラムは嬉しそうに私の手を取った。
「グレン学長の再来と言われるアオイ先生の授業! 楽しみにしてますね!」
と、ハイラムは大袈裟な態度で喜びを表現した。だが、恐ろしいことに子供の様に無邪気な笑顔で言われると、思わずこちらも釣られて微笑んでしまう。
「……はっ。いえ、それは構いませんが、今日は別の用件で来ました。ちょっと質問をしても?」
私がそう聞くと、ハイラムは小首を傾げてみせる。
「スリーサイズ?」
「違います」
即否定すると、ハイラムはころころと笑った。
駄目だ。この少年はやり辛い。どうにもペースを乱されてしまう。
咳払いを一つして気を取り直す。
「真面目な話です。ちゃんと聞いてください」
「アオイ先生、面白いね。あまりイジられなれてないでしょう? コツ、教えようか?」
「コツ?」
ハイラムの言葉に疑問符をあげると、また楽しそうに笑われてしまう。
「それだよ。まず、生真面目に一つ一つ答えない事。話す側になったら口出す隙を与えないか、必ず相手を答える側にする事。相手にされなかったら僕みたいなのは何も出来ないからね」
笑いながらそんなことを言うハイラム。
なるほど。マイペースにいけということだろうか。
「分かりました。覚えておきます」
そう答えると、ハイラムは笑顔で頷いた。
「うん、良いね! 応援してるよ、アオイ先生!」
「はい、ありがとうございます」
お礼を口にすると、ハイラムは笑いながら片手を振り、背中を向けて歩き出した。女子生徒達を引き連れて去っていくハイラムを見ていると、ストラスが溜息を吐く。
「……ハイラムが帰るぞ」
「……はっ」
私は慌ててハイラムの後を追ったのだった。
すぐに追い付き、中庭に出ようとするハイラムを呼び止める。
「あっはっはっは。やっぱりアオイ先生面白いね。好きだなぁ」
軽い調子でそんなことを言うハイラムに、私は若干怒りながら注意した。
「教師を揶揄わないでください。それで、聞きたかったことですが」
前置きをして、話を切り出す。
「私の授業が何者かに邪魔をされているそうです。何か知りませんか?」
そう言うと、ハイラムは笑みを消して目を細めた。
「……誰がそんなこと言ったのかな?」
作ったような笑顔に切り替えて、ハイラムはそう聞き返す。それに違和感を感じつつ、返事をした。
「もしかして、貴方が?」
直球でそう尋ねると、ハイラムは不敵な笑みを貼り付ける。
「……そうだと言ったら? 平民出の新人教師が、メイプルリーフ聖皇国の皇子である僕に、文句でも?」
と、やたらと芝居がかった態度でそんなことを言うハイラムに、周りの女子生徒達が黄色い声援を送った。
「ハイラム先輩悪い顔ー!」
「コワ可愛い!」
謎の声援に、ハイラムは楽しそうに笑う。
そんな茶番を見て、私は溜め息を吐いた。
「……貴方では無さそうですね。まぁ、可能性はゼロではありませんが、疑うのは最後に回します」
そう言って踵を返すと、ハイラムが声を低くする。
「僕じゃないのは正解だけど、もし本当に僕だったらどうしたのかな?」
「周囲に変な圧力を与えることだけ止めてもらえたら、それで十分です」
立ち止まって答えると、ハイラムはくすくすと笑った。
「他国の王族相手にその態度……噂は本当だね。僕も君に興味が出てきたよ。今度、本当に授業を受けてみようかな」
「教師と生徒という立場以外に身分や地位など必要ありません」
「ふぅん……そうかぁ。面白い考え方だよね。一度、食事でもどうだい?」
「……あまり気は進みませんが」
私の返事にハイラムは吹き出すように笑う。周囲の女子生徒達から睨まれている気配がしたが、対照的にご機嫌な様子のハイラムが独り言のように呟く。
「フォア・ペルノ・ローゼズ……我がメイプルリーフ聖皇国が誇る一流の魔術師だけど、意外に子供みたいなんだよねぇ。多分、急に出てきて話題を掻っ攫っちゃったアオイって女、フォアからすれば腹立たしい存在なんだろうなぁ……」
そう呟いてから、ハイラムは「やれやれ」と肩を竦める。
私は振り返り、ハイラムを見た。
「何か忘れ物?」
「……いえ、何でもありません。ありがとうございました」
一礼を返して、再び背を向ける。
ペースを乱されてしまったが、最終的にはハイラムに情報提供してもらう形となった。なかなか憎めない少年だ。
それにしても、まさかフォアとは思わなかった。ベテランであり、上級の教員だ。新任の教師程度を目の敵にするだろうか。
「……俄には信じ難いですが」
歩きながら呟くと、コートが失笑する。
「まぁ、フォア先生の貴族主義は有名ですから、僕からすると納得のいく話ですよ」
と、コートは吐息まじりに言った。
貴族主義の上級教員。中々厄介な事になる気がするが、ひとまず、最も怪しい人物が浮上したようだ。