軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】 剣王 9-45

【フェルター】

武を重んじるブッシュミルズ皇国において、国王であるマッシュは剣王とも称されていた。その実力は歴代の国王の中でも群を抜いていると言われており、唯一まともに張り合えるのは父であるラムゼイ侯爵のみだった。

だからこそ、まさかアオイが剣で陛下と渡り合うとは思わなかった。

「す、すごい……」

通路からシェンリーやエライザが感嘆の声を上げる。初っ端から始まった壮絶な斬撃の雨を、アオイは魔術で防ぎ切った。その様子はオーウェンと同様、堅牢かつ強固な壁のようだった。

だが、陛下の猛攻をどう感じたのか。アオイはラムゼイと戦った時と同じように魔術で黒い剣を作り上げた。

そして、アオイは剣で陛下と斬り合いを始めたのだ。目で追うことも困難なほどの速度で剣が振り下ろされ、あっさりとアオイがそれを凌ぐ。さらに第二、第三の剣を、アオイは身のこなしと剣を駆使して回避していく。

一瞬、アオイの背後を取るような一撃が放たれたが、それすらもアオイは剣の腹で受けて見事に攻撃をいなしていた。

双方が身体強化をしているが、それにしても速すぎる。あれだけ速く動いていて、それでもお互いに傷一つ負うことは無い。

ただ、流石のアオイであっても陛下の鋭い斬撃からは防御の一手しかできずにいた。

陛下が三度剣を振る間に、アオイが一撃を返す。そういった流れが続いていた。

「……アオイ先生は魔術師じゃなかった?」

呆れたような声でハイラムがそう尋ねると、ロックスが片手を振って答える。

「もう何度も剣での戦いは見てきたが、異常に強いぞ。最初は身体強化の魔術で強いのかと思っていたが、多分本気で剣術の天才だ」

と、ロックスが口にした。それにハイラムは溜め息を吐いて首を左右に振る。

「なんだろうね……別に自慢するわけじゃないけど、ちょっと前まで自分は優秀だと思っていたよ」

自嘲気味に笑いながらそう吐露するハイラムに、ロックスは声を出して笑った。

「今、目の前で戦っているのは世界屈指の魔術師たちだ。追いつけるかは分からないが、貴重な機会だと思ってしっかり見ておけよ」

どこか達観したような様子でロックスにそう言われて、ハイラムは溜め息を吐いて首を左右に振る。

「……前向きになれるのが信じられないね。遥か上空に目指すところがあると分かって絶望するしかないと思っていたよ」

そんなことを言うハイラムに、ストラスが口の端を上げて目を向けた。

「……なんだ。しっかりあの場所を目指しているのか? それなら、学院に戻ったら今まで以上に努力しないとな」

そう言って笑うストラスに、ハイラムはバツが悪そうに溜め息を吐いたのだった。

一方、アオイ達の攻防は一層激しさを増しており、徐々に形勢が見えてきていた。優勢なのは陛下の方だ。

速度の差が徐々にアオイを不利にしていっている。攻撃を避けさせること。視線と剣を構える動きで精神的にアオイの動きを制限させ、追い込んでいるように見えた。対して、アオイは明らかに攻撃の数が減っている。五回剣を振られる間に一回反撃が出来れば良いくらいだ。

そうなってくると、やがて限界がくるだろう。下手をすれば致命的な一撃を受ける可能性もある。

「……も、もう、棄権した方が……」

エライザも不安そうにそう呟いた。だが、それにオーウェンが否定の言葉を口にする。

「馬鹿を言え。アオイはまだまだ全力で戦っていない」

「え?」

その言葉に驚きの声があがった。オーウェンはそんな声に一瞥だけして、静かに口を開く。

「身体強化と剣を生み出す魔術しか使っていない。特に、相手が物理的な攻撃しかしてこないなら、もっと良い対処法がある」

そう言うオーウェンに、成程と頷いた。

「……確かに」

それだけ答えると、オーウェンはフッと息を漏らすように笑ってこちらを見た。

「分かっている者もいるようだな」

そんな言葉を言われ、鼻を鳴らして視線をアオイ達に戻す。オーウェンの言う通り、アオイには物理攻撃の反射というとんでもない魔術がある。

だが、何故だろうか。アオイは剣での戦闘に拘っている気がした。

そう思った次の瞬間、高速で動く二人が真正面からぶつかり合った。いや、斬り合ったというのが正しいだろうか。

一瞬の交錯のすえ、血飛沫が舞う。

それほど大きな血飛沫ではないが、次に空中を飛ぶ何かを見て、後方から絶叫が聞こえた。悲鳴を上げたのはシェンリーとエライザだ。

そして、ロックス達が息を呑む音がする。

空中に飛んだのは、アオイの左腕だったからだ。

「ば、馬鹿な……!」

あの感情を出さないオーウェンですら、信じられないようにそんな声を上げた。

「こ、これはいかんぞい!」

「アオイの負けだ! 治療を……!」

走り出そうとするグレンとストラス。そして、顔面蒼白になるハイラム。

「ちょ、ちょっと待って。流石にあんな重傷を……」

ハイラムのその声を耳にしながら、俺は組んでいた腕を解いてアオイの下へ向かおうと足を踏み出した。