軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グレンの戦闘

「第三戦、始めよ!」

マッシュの言葉に、マーティンが即座に動き出した。

「 金剛(ヴァジュラ) !」

魔術名を口にした瞬間、マーティンの体が白い光を纏った。淡い光だが、明らかに強力な身体強化の魔術だ。

マーティンは淡い光を纏ったまま、グレンに向かって一足飛びに跳んで距離を詰めた。同時に大きな斧を頭の上にまで振り上げている。まるで、剣道の飛び込み面のような動きだ。きちんと足と手の動きが連動しており、無駄がない。

重量物を振っているとは思えない速度で、マーティンはグレンの頭目掛けて斧を振り下ろした。

「 石角柱(ロックホーン) 」

グレンは少し横に身を捩りながら、一言魔術名を口にした。直後、グレンの目の前に高さ二メートルほどの尖った石の柱が出現した。まるで巨大な生物の牙のような形状だ。その石の牙がマーティンの振り下ろす斧の側面を打ち、進行方向を変えることに成功する。

斧は勢いよくグレンの隣の地面に振り下ろされ、土を巻き上げた。激しい音と衝撃が鳴り響き、グレンのすぐ傍の地面に縦長の穴が出来上がる。

「ひぇ」

グレンはその穴を見て情けない声を上げ、二歩、三歩と大きく後ずさる。マーティンは警戒心を持って斧を持ち上げつつ、追撃しようと動いた。

グレンは後ろに下がりながら、必死に魔術名を口にする。

「 風槌(ラファガ) 、 炎噴(イラプト) 、 水撃(タービッド) 、 砂牢(バーリアル) ...…」

向かってくるマーティンに向かって、グレンは驚くような速度で中級の魔術を連続で行使していく。走り出そうとしたマーティンの上半身を突風が襲い、体勢を崩す間もなく炎の塊が横から斧を弾いた。鍛え上げられた体躯のマーティンであっても、たまらず後方へと仰け反ってたたらを踏む。

そこへ、下半身を全て隠すほどの激しい水流が追撃し、ついにマーティンは転倒することとなった。そして、最後に砂で出来た檻がマーティンを囲む。

「な、なんと……!?」

マーティンはずぶ濡れになりながらも立ち上がり、砂の檻を斧で薙ぎ払おうとする。しかし、砂は斬られても斬られても復元し、破壊できそうな気配はない。

両手を使って無理やり出ようとしても中々うまくいかなかった。

「ならば……!」

マーティンは一歩二歩と後退し、姿勢を低くする。檻に突撃して無理やり突破する気だろう。即座に復元するとはいえ、砂の檻だ。確かに、有効かもしれない。

だが、それを見てグレンは慌てて追加の魔術を行使した。

「こ、恐いのう…… 炎槍檻(レッドケージ) 、 石角檻(ホーンケージ) 」

不安そうにグレンは魔術を展開する。今度は時間があると思ったのか、詠唱時間が少しあった。しかし、出現した魔術は明らかに詠唱時間に不釣り合いな上級の魔術だ。

砂の檻の外側に激しい炎の槍が次々に出現して周りを取り囲み、さらにその外側に大型の魔獣の牙のような形状の石の柱が出現する。石の柱は四メートルはある巨大なものだ。その柱が檻を形作るのを見て、マーティンも唖然とした様子で固まった。

砂の檻を突破しても、必ず石の檻で止まらなくてはならないだろう。その間、あの激しい炎に身を焼かれることとなる。グレンは怯えた様子で魔術をどんどん行使していったが、その内容はとんでもないものだった。

不安そうに檻の向こう側から中の様子を確認しているグレンを見て、思わずマーティンも斧を地面に放り出してどっかりと座り込む。

「……私の負けだ!」

マーティンがはっきりとそう口にし、グレンはホッとしたように額の汗を拭った。

「おお、良かったぞい」

それだけ言って、グレンは魔術を解除する。勝負は間違いなく決した。誰もがそう認識したはずだ。

しかし、グレンの圧倒的な魔術の数々に、武闘場は静寂に包まれてしまっていた。拍手も歓声も忘れた観衆たちが唖然とした様子でグレンを見下ろす中、マッシュが片手を挙げて宣言する。

「フィディック学院、学長! グレン・モルト侯爵の勝ちだ!」

その宣言が会場に響き渡り、ようやくまばらに拍手や歓声が沸き起こっていく。グレンは困ったような顔で片手を振りながら歓声に応えた。

「いやぁ、頑張ったぞい」

グレンが片手を振りながら戻ってくる。それに、オーウェンが鼻を鳴らして答えた。

「腕が落ちているぞ」

「仕方ないじゃろ? よく出来たほうじゃぞい」

オーウェンの軽口にグレンが口を尖らせて抗議する。だが、良く出来た方などというレベルではない。素晴らしい内容だった。まるで詰将棋のように相手を封殺した手法に素直に拍手する。

「お見事でした」

「いや、そう言われると恥ずかしいのう」

グレンはホッとしたのか、笑いながらそう言って通路の方へ移動した。そんなグレンを見て、ロックス達が呆れる。

「……こんなに強かったのか」

「流石は学長、ということかな……」

ロックスとハイラムのその言葉に、シェンリーとエライザも同意する。

「凄かったですね……びっくりしました……」

「流石は学長ですね! これでフィディック学院の宣伝にもなりましたよ!」

若干ズレたエライザの回答に苦笑しつつ、オーウェンに視線を向けた。もう飽きたような顔をしていたオーウェンだったが、グレンの活躍を見て少しやる気を出しているように見えた。