軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ケアン侯爵家4

ラムゼイに連れられて城内に入ると、城の雰囲気が一気に変わった。綺麗に磨かれた白い石作りの床や壁である。天井は木材が多くみられるが、ずいぶんと細かく細工が施されている。縦長の窓が幾つもあり、雰囲気のある採光がされていて美しい。

意外な見た目に思わずキョロキョロと城内を見回していると、ラムゼイが笑みを浮かべて横顔を向けてきた。

「気になるなら後で城を案内しよう。どうせだ。食事もしていくと良い」

「ありがとうございます」

そう答えると、ラムゼイは上機嫌に前を歩く。他国の最上級貴族であるラムゼイ。通常ならあり得ない会話だが、なんとなくフェルターの父親であることが頭から離れず、家庭訪問のような気持ちになってしまう。

「普段、フェルター君はどのように過ごしていましたか?」

「む? どのように……さて、乳母に聞いてみるか。後で紹介しよう」

「子育てに関与はされなかったので?」

自然とフェルターの家庭環境に関する質問をしてしまう。条件反射のようなものだろうか。だが、ラムゼイは気にせずに答えてくれた。

「そうだな。基本的には下級貴族か一般市民の子女が乳母を担当することになっている。まぁ、教育の中で普段触れることのない市民の考え方や生活に触れる、といったのが建前だ。実際には過去の歴史の中で独善的な当主が何度も我が子を殺してしまったという前例がある為、外の低い地位の者を乳母に据えるという慣例がある」

「そ、そうですか……」

答えられた内容があまりにも自分が知っている家庭環境と逸脱してしまっていた為、返事をすることしかできなくなってしまう。貴族としてはそれが普通なのだろうか。確かに、貴族として生まれて貴族として育った者が、自ら子育てする様は想像できない。

まぁ、最初はフェルターは不良かもしれないと思っていたが、実際にはそういった方向には進んでいなかった。どちらかというと学生というよりも武闘家といった性格である。そう思うと、ケアン侯爵家の教育環境は悪いわけではないのかもしれない。

城内を歩きながら色々と考えていると、気が付けば廊下の奥に立つフェルター達に追いついていた。

「……母上がいないようだが」

「……俺のことは爺などと呼ぶくせに、フィオールのことは何故そう呼ぶのだ」

「どこにいる」

ラムゼイの言葉を無視して、フェルターがフィオールの居場所を尋ねる。それに溜め息を吐き、窓の外を指差した。

「今の時間ならば中庭だろう」

「中庭か」

ラムゼイの回答を聞き、フェルターがすぐに方向転換した。廊下の更に奥に行き、通路の途中から外へと出る扉を開ける。すると、明るい陽の光が廊下へ差し込み、光の向こうに美しい庭の景色が広がっていた。

緑豊かな中庭だ。地面にはちょうど良い短い草花が生えており、通路は平たい石を組み合わせたような道が続いている。大きな木々が植えてあり、小さな池もある。その傍に可愛らしいテーブルと椅子があり、白いドレスを着た女性の姿があった。

短めの茶色の髪を揺らし、フィオールが振り返る。

「……あら? フェルター? それに、グレン侯爵にアオイ先生も……」

以前会った時と同様にのんびりした雰囲気でフィオールが微笑み、椅子から腰を上げて立ち上がり、こちらに一礼する。

「お久しぶりですね。皆様方」

そんな淑女の姿に、これぞ貴族という言葉が頭に浮かぶ。フィオールはやはり品がある。対して、ラムゼイは大股で歩いてフィオールの下へ行くと、フェルターを指差して口を開く。

「フィオール! フェルターが昔行ったという遺跡を覚えておるか。どうやら、不思議な文様が描かれていたようなのだが」

「紋様、ですか?」

ラムゼイの言葉を反芻して首を傾げるフィオール。その姿に少し不安になるが、とりあえず参考に魔法陣を描いた紙を広げてみせた。

「このようなものですが……」

そう言って魔法陣を見せると、フィオールは微笑んで頷く。

「ああ、魔法陣ですね。それでしたら、王都近くにある捨てられた都、古都の遺跡にあったかと」

フィオールはあっさり記憶を掘り起こして答えてくれた。良かった。

「古都?」

フィオールの言葉にオーウェンが聞き返す。それに頷き、ラムゼイが代わりに答えた。

「おお、古都か。昔、今の王都が出来る前まで王城があった地だな。そうか。フェルターが王都に行った際に寄ったのか。なんとなく思い出してきたぞ」

「もうずいぶん前のことですからね」

ラムゼイの言葉に、フィオールは微笑を浮かべてそう口にする。とりあえず、フィオールのお陰で場所は判明した。これにオーウェンは大きく頷いて振り返る。

「王都だ。まずは王都に向かうぞ」

「え? 今からですか?」

オーウェンのせっかちな性格は知っていたが、思わず聞き返してしまった。