作品タイトル不明
入国2
「フェルター様、お久しぶりです!」
「強くなられたと聞きましたよ!」
「お父上と互角に渡り合ったとか……!」
兵士たちが一気にフェルターの周りに集まり、嬉しそうに声を掛ける。どうやらフェルターは慕われているらしい。無口だが、実は気遣いが出来る優しい性格であると皆も知っているのだろう。なんとなく嬉しい気持ちになった。
そう思って眺めていると、後ろからロックスが姿を見せた。
「この砦がある領地はフェルターの家の領地だ。武を重んじるブッシュミルズ皇国の中でも、特にケアン侯爵家当主、ラムゼイ・ケアンの強さは有名だからな。侯爵家の兵たちはフェルターにも期待しているんだよ」
と、ロックスが簡単にケアン侯爵家の状況を教えてくれる。それに成程と頷き、チーフと呼ばれた銀髪の男を見た。
「それでは、あの方は?」
そう口にしたところ、まるでその言葉が聞こえていたようにチーフはフェルターの方へ歩き出した。その表情は硬く、肩にも力がこもっているように見える。
「……フェルター様」
「む……?」
チーフが話しかけると、フェルターは何かを感じ取ったように眉根を寄せて振り返った。二人の様子を見て、フェルターを取り囲んでいた兵士たちも距離を取るように離れる。
「ちょ、ちょっとチーフさん……!」
慌てた様子でモアが制止するように声を掛けたが、チーフは片手をあげてモアの言葉を遮った。モアが反射的に黙ったのを確認して、チーフは再びフェルターに話しかける。
「フェルター様。この一年、一から鍛えなおしました。今度こそ、貴方に勝てると思っています」
チーフがそう告げると、フェルターの顔に獰猛な笑みが浮かんだ。
「……面白い」
威嚇するように低い声でそう呟いたフェルターは、無言でこちらに目を向ける。許可を求めているのだろうが、どうしたものか。
「……えっと、試合をするのは構いませんが、我々は入国できるのでしょうか?」
気になったことを素直に質問すると、フェルターが口の端を上げて頷き、再びチーフに顔を向けた。
「俺が勝てば入る。負ければ明日まで待つ。どうだ」
「はっ! 承知しました!」
「ちょっと、チーフさん!?」
フェルターの提案に即答するチーフ。それには責任者のモアが慌てた様子を見せた。しかし、今にも殴り掛かりそうな両者を見て、肩を落として項垂れる。
「……わ、私が怒られちゃうじゃないですか」
そう口にしたモアに、フェルターが鼻を鳴らして横顔を向けた。
「言っておくが、チーフを殴り倒したらお前の番だ。今度こそ、俺が勝つ」
「え、えぇ……っ!?」
フェルターがそう告げ、急に矛先が自分に向いたモアは驚きの声を上げた。それを聞き、思わず驚いてモアの横顔を見る。小柄な少女のような見た目だが、フェルターよりも強いということだろうか。そうなると、モアはフィディック学院の教員よりも強いということになる。
「……侮れませんね」
心からそう思って口にしたのだが、その言葉にロックスが呆れたように溜め息を吐いた。
「相手も同じことを思うんじゃないか?」
ロックスがそう口にすると、いつの間に出てきたのか。ストラス達も同じような表情で私を見てくる。
「……どの口が言っている」
「あ、あはは。アオイ先生も見た目からは想像できない力ですけどね」
「ぜ、絶対アオイ先生の方がすごいです!」
ストラス、エライザ、シェンリーがそれぞれ感想を口にした。そして、遅れてグレンとハイラムもやってきた。
「ほっほう! ブッシュミルズ皇国にもすごい魔術師がおるのう! うちの教員になってくれんじゃろうか」
「……ブッシュミルズ皇国は魔術に関しては遅れているイメージだったけど、そうでもなさそうだね」
二人はブッシュミルズ皇国とモアについて興味を持ったらしい。そんな二人の言葉を聞き、そういえばとフェルターの大きな背中を見た。
ブッシュミルズ皇国は、身体強化に関連する魔術が秀でている印象だ。見た目からしても、フェルターやチーフは身体強化をして近接戦を行うのではないかと思う。しかし、その場合、モアはどうなるのか?
隊長に任命され、さらにはフェルターにも勝っているというのなら、フィディック学院の上級教員のように卓越した魔術を使えるのかもしれない。
早く入国して古代の魔法陣というものを見てみたかったが、急に興味が湧いてきた。
そう思っていると、チーフは街道から外れた広場を指差して口を開いた。
「それでは、そこで勝負といきましょう」
「構わん」
二人はそれだけのやり取りをして、すぐに広場へと向かう。背の低い草が生えた草原のような空間だ。その中を二人は無言で歩いて行き、一定の距離をとって相対する。
自然な感じで決闘の場が出来上がったが、ブッシュミルズ皇国では普通のことなのだろうか。