軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それでも学ぶのか

メイプルリーフの癒しの魔術の利点と、私の癒しの魔術との差。それはハッキリとしている。そして、個人的にはメイプルリーフの癒しの魔術の方が優れていると感じている。

「……私の癒しの魔術についてですが、基本的には一人ずつしか治療できません。分かりやすい外傷であれば、目に見える範囲に限り複数人の治療が可能です。しかし、怪我の種類や病気の差があれば一人ずつ治療するしかありません」

そう告げると、ハイラムは腕を組んで唸る。どうやら、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術との差について気が付いたようだ。その反応を確認しながら、メイプルリーフの癒しの魔術について分かっていることを伝える。

「対して、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術は範囲を指定して魔術を行使すれば、その範囲にいる者全てを治療することが出来ます。怪我も病も関係ありません。もちろん、知識の有無によって治療したのに手足が動かなかったり、治せない病気が多くあるという部分はありますが、単純な治療速度という意味では私の癒しの魔術よりもずっと速いでしょう」

これまでに研究を重ねてきて分かっている事実を伝える。これは良い点も悪い点も含めて間違いないだろうと断言できる内容だ。それを聞き、ハイラムはどう考えるのか。私の癒しの魔術を別物と考えて、学ぶのを止めるということも考えられる。その時は仕方ない。

少し不安になりつつ、ハイラムにどう思ったか確認する。

「どうですか? メイプルリーフの癒しの魔術との違いは分かりましたか?」

そう尋ねると、ハイラムは暫く考えるように押し黙った。そして、僅かに笑みを浮かべて口を開く。

「……やはり、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術の方が優れているように思えるね。戦争時にその効果は強く発揮されるだろうし」

そう言ってから、ハイラムは肩を竦めてから苦笑する。

「とはいえ、国にとって重要な人物一人を癒すとしたら、アオイ先生の癒しの魔術の方が優れているだろうとも思うよ……悔しいけどね」

ハイラムがそう口にすると、オーウェンが腕を組んで鼻を鳴らす。

「当たり前だ。ハッキリ言って、これまでメイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術で治療が出来なかった場合、後は死を待つだけだった。その数は無視できない数だった筈だ。しかし、アオイの研究結果を用いれば救える者の数は一気に増えるだろう。そういう意味では、メイプルリーフ聖皇国の聖人や聖女達でも成し遂げられないような貢献をしたと言える」

「大袈裟ですよ」

大仰なオーウェンの言葉に一応一言伝えておく。しかし、それをハイラムが否定した。

「……いや、大袈裟ということはないよ。むしろ、お陰で自分がやるべきことが分かってきた気がするからね」

「ハイラム君がやるべきこと?」

その言葉に首を傾げつつ聞き返すと、珍しく困ったような、照れたような表情でハイラムが頷いた。

「……まぁ、アオイ先生の許可がもらえたら、だけどね。アオイ先生の癒しの魔術を学んで、それをメイプルリーフに持ち帰れたら、メイプルリーフの癒しの魔術は本当に世界で一番の魔術になる、ということだよね。それが、もしかしたらメイプルリーフ聖皇国の王子に生まれた自分のやるべきことなのかもしれない」

ハイラムは素直に自分の心情を明かす。これまでのハイラムであれば、本心は中々表に出さなかっただろう。それに、誰かに力を借りて自国の利益を求めるなど考えるタイプでも無さそうだった。

いや、これまでは目に見えていないだけで、多くの葛藤と挫折を味わってきたのだろうか。世界一の癒しの魔術を扱うメイプルリーフ聖皇国の王子でありながら、癒しの魔術を使うことが出来なかった自分を責めてきたのかもしれない。

国を背負う者ならば、その重責は計り知れない。その悩みが少しでも軽くならば、私の癒しの魔術を教えることなど全く問題にならない。

「構いませんよ。それで救われる人が増えるなら問題ありません。それに、癒しの魔術が更なる高みに至るなら望むところです」

「……良かった。ありがとう」

私の答えを聞き、ハイラムはホッとしたように胸を撫で下ろした。どうやら、少し不安だったようだ。

そんなハイラムの姿を見て、私はようやく本当のハイラムの姿を見た気がした。どこか斜に構えて達観したようなことを言っていたハイラムは、様々な悩みを抱えていることを押し隠していた故の姿なのかもしれない。

「……さて、それでは、もう少し詳しい勉強に移りましょう。身体の仕組みや臓器についてだけではありませんよ? 細菌、ウイルスの種類。病気の種類。それに合わせた治療の数々……学ぶことは幾らでもあります」

微笑みつつそう告げると、ハイラムは僅かに頬を引き攣らせた。

「……ま、まぁ、ゆっくり学ばせてくれるかな。とてもじゃないけど、簡単に覚えられる内容じゃなさそうだ」

そう答えるハイラムに、オーウェンは鼻を鳴らして首を左右に振る。

「普通にやって数年程度だ。一年で覚えろ」

と、偉そうなことを言うオーウェンに、私は苦笑しつつ口を開く。

「オーウェンの学んだ内容は半分くらいですよ。また新しい内容がありますから」

「な、なんだと!? まだ半分……!?」

驚愕するオーウェンに、ハイラムが目を細めて表情を緩める。

「へぇ? じゃあ、アオイ先生の師匠も一緒に学ぶってこと?」

「ぬ……そうなるのか」

ハイラムの呟きに、オーウェンはなんともいえない顔で答えたのだった。