軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハイラムの才能

元々、ハイラムは優秀な生徒が多いフィディック学院においても上位に位置する優れた魔術の才を持っていた。それでどうして癒しの魔術の素質が無いのかとも思うが、本人は完全に自信を失っているようだと感じた。

「癒しの魔術は選ばれた者の魔術だからね。アオイ先生も精霊魔術と癒しの魔術は再現できないって言っていたと思うけど」

「そうですね。完全には理解出来ていません。私がやっていることは物真似のようなものですから……しかし、いずれは完全に理解して使いこなすことが出来るようになると思っています」

ハイラムの疑問にそう答えてから、オーウェンに理解してもらう為に描いた人体の構造図を机に広げる。オーウェンと住んでいた頃に作成したものだが、かなり大事に保管してくれていたようだ。何年も経っているというのに、綺麗なままである。

「……これが、人体の仕組み? 骨とかは流石に理解してるよ?」

何枚もある人体の図を見てハイラムがそんなことを口にした。それに軽く頷いてから、簡単なクイズを出してみることにする。

「それでは、骨の数は何本あるか分かりますか?」

「え? 何本……そうだね。多分、百二十か百三十くらい、かな?」

「平均して二百以上だと言われています」

そう答えると、ハイラムは目を丸くして驚いた。

「二百? 本当?」

「はい。例えば頭蓋骨ですが、これも骨が幾つも組み合わされています。関節にある小さな骨もきちんと役割のある骨ですね」

そう告げると、ハイラムは不安そうな顔で私とオーウェンの顔を交互に見る。

「……もしかして、二人で人を殺して中身を隅々まで見た、なんて言うんじゃないだろうね……?」

「そんなことはしていません」

ハイラムの不安にはっきりと否定の言葉を口にすると、何故かオーウェンが真剣な顔で深く頷いた。

「ああ、確かに……幼かったアオイが何故人体について詳しかったのか。人を殺して? いや、誰も来ない森の奥深くだったからな……」

オーウェンが真面目に考え始めた気配を感じて、溜め息を吐いてからハイラムの前に広げた紙を指差す。

「そんな変な疑問を持つ前に、まずは目の前のことに集中してください」

そう言ってから、改めてハイラムに人体について説明をしていく。最初は何かを疑うような素振りを見せていたハイラムも、徐々に勉強に集中していった。

「……つまり、物を考えているのは脳で、そこから指示されて手や足が動いているってこと? 頭に魂があるというのは一般的な考え方だけどね」

「そうですか。それでは、そのように思っていてください。重要なのは、脳から伸びる神経を伝って手足に指示がいき、ようやく体が動かせているということです。例えば、表面的な怪我を治療したのに腕や下半身が動かない時は、もしかしたらこの指示が途中で断絶してしまって伝わらなくなっているのかもしれません」

「なるほど。確かに、そういった事例はあるよね。癒しの魔術を習う上で教えられることだけど、治療したのに手や足が動かないことがあるんだ。その時は、単純に癒しの魔術を受けるのが遅かったって言われていたけど……アオイ先生の言っていることが事実なら、もしかしたらそういう人でも治せるようになるかもね」

ハイラムはこちらの言葉を自分なりに理解し、更にそれを活かして現在の癒しの魔術で治せていない症状についても考えていた。こちらが思っていた以上に優秀な様子を見せるハイラムに、オーウェンも少しずつ前向きに教えてくれるようになっていく。

「……例えば、臓器だ。この臓器はこう繋がっていて、どのように作用しているといった内容を理解して治療を施せば、その効果は大きく向上する」

「臓器……リストにして見るだけでも物凄い量がありますが、これ全部を?」

「覚えなくてはならない」

結果、オーウェンの方が積極的に教育していき、ハイラムが目を白黒させながら知識を吸収するという形になった。

だが、ハイラムも有用な知識を得ていると理解してくれたのか、最初に話を聞いた時とは全然違う表情になって話を聞いていた。

「こういう病気の場合はどうするの?」

「これは、私もまだまだ学んでいる最中だな。アオイ、病気に付いて教えてくれ」

「殆どの場合、病気は細菌、ウイルスといった外部の極小生命体が体内に入って発生します。なので、体内にいる外部から侵入した極小生命体を殺すことで治療となります。ただ、場合によっては食事や臓器の変異などによる病気の可能性もありますので、対象者の症状を見て判断する必要があります」

「……つまり、医者と同等の知識がないと、病気の治療は難しいという話かな?」

「その通りです」

「……それは、僕の知っている癒しの魔術と違う部分だね」

どんどん知識を吸収し、人体について順調に学んでいたハイラムだったが、私の癒しの魔術とメイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術との違いや劣っている点に気が付き、深刻な表情で俯いた。

ハイラムのモチベーションに影響を与えることは理解していたが、これに関しては必ず伝えておかねばならないことだ。そう思い、ハイラムの呟きに真剣に向き直り、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術に対して劣っている点についても話そうと口を開いた。