作品タイトル不明
魔法陣の基礎実技
基礎概論の講義をした次の日。さっそく実技の時間となった。気合を入れなおして講義室に入り、すぐに異変に気が付く。
目に見えて、講義の参加者が減っていたのだ。
「……受講者が減っていますね」
思わず、そう呟く。それにオーウェンが鼻を鳴らして肩を竦めた。何を言うわけでもないが、言いたいことは分かる。
減ったのは初等部、中等部の生徒達だ。高等部の生徒も一部はいなくなっている。つまり、詠唱の魔術を勉強している最中の生徒達が来なくなってしまったのだ。理由は簡単で、詠唱魔術を学びながら魔法陣を学ぶのは難しいと判断したのだろう。
しかし、それにしても一目で分かるほどの激減である。これには流石にショックを受けてしまう。
「……それでは、講義を始めましょう」
低い声のトーンでそう口にすると、何人かが憐れむような目でこちらを見てきた。その中の一人、ロックスが気まずそうに咳払いをして、口を開く。
「……まぁ、あれだ。初等部や中等部は学院を卒業する為に必要な勉強があるからな。俺やフェルターみたいな天才は問題ないが、平凡な奴らは普通の講義に追い付いていくだけで精一杯なんだ。逆に言えば、この講義に参加している者は皆魔法陣を覚えることが出来る優秀な者達だと思うぞ」
ロックスは自画自賛も交えてそんなフォローをしてくれた。それにフォアが大きく頷く。
「確かに……昨日の講義もそうだったが、やはり初等部や中等部の生徒には荷が重いだろう。詠唱について研究をしている魔術師であれば何とか理解できるだろうが、教えられた魔術を練習している段階の生徒では理解が追い付かぬ」
フォアまでそんなことを言うので、更に落ち込んでしまう。本当なら全ての生徒が初等部からみっちり十年ほど魔法陣を学んでもらいたかったのだ。そうすれば、十年後には魔法陣の優れた研究者が何十人も誕生していた筈である。
「……中々上手くいかないものですね」
溜め息交じりにそう呟くと、グレンが苦笑しながら顎を引いた。
「まぁ、これだけ複雑な講義はどうしても高等部以上のものとなるんじゃろうのう。長い目で見るなら、まずは参加したい者から始めていくのが良いと思うぞい。魔法陣を扱う者が増えていけば、少しずつ無理をしてでも学びたいという生徒も出てくるじゃろう」
「そうでしょうか……」
肩を落としてそう口にすると、グレンは笑いながら頷いた。お通夜のような空気になる中で、グレンと並んで最前列に座るクラウンが目をギラつかせて口を開く。
「さぁ、とりあえず早く講義を始めよう! 昨日から眠れなかったんだよ!」
「それは、しっかり寝た方が集中力が持続するかと……」
「うむ、そうだな!」
本当に寝ていないらしく、クラウンはナチュラルハイな状態で返事をした。講義に前向きな人がこれだけいるというだけで満足するべきだろうか。いずれは、どうにかして初等部や中等部の生徒達も来てくれる講義をしたいものだ。
「……わかりました。それでは、気を取り直していきましょう」
そう告げてから、私は実技の講義を始めたのだった。
「……このように、初級の水や風、土の魔術では魔法陣はこのようになります。質問がある方はいますか?」
「質問したい!」
「バルヴェニーさん」
「全て円状の魔法陣だったが、別の形状でも良いのだろうか?」
「初級に関しては円状のほうが効率的だったというだけですね。四角形でも五角形でも作成は可能です。三角形だと少し詰め込み過ぎ、六角形以上でも余裕があり過ぎて非効率かと思います。円は魔力の流れが速くなるので、記号や図形での効果を発揮する時間が短くなります。速度重視ですね。多角形だと直線での移動はとても速いのですが、記号や図形で魔力が一旦止まり、十分に効果を発揮して次に移行します。ちなみに、効率的であればあるほど魔力量が少なく済みますし、速度も速くなると思ってください。ただ、効率を無視して規模や威力を高めるという方向性もありますので、一概に効率だけを求めるのが正しいわけではありませんが……」
出来るだけ簡単に質問に答えようと思ったが、中々難しかった。ざっくり説明すると理解度が下がってしまうかと思ったのだが、詳しく説明し過ぎるとこのバルヴェニーのように難しい顔で固まってしまう。
「まぁ、まずは既存の魔術を魔法陣にしていって、魔法陣を直感的、体感的に理解していくことが一番良いかと思います」
最後にそれだけ付け加えると、バルヴェニーは無言で頷いた。その様子を見て、ハイラムが声を出して笑う。
「アオイ先生は本当に天才だよね。これまでで四種類の魔法陣を実際に作ってみたと思うけど、正直言って自分で開発できるようになるとは思えないよ」
ハイラムはそう呟き、腰を上げた。片手を振りながら、苦笑交じりに口を開く。
「悪気はないけどね。僕も来週からは不参加になると思うよ。ほら、そろそろ卒業して国に戻らないといけないしさ。まぁ、いつか他の国でもアオイ先生の教えた魔法陣を扱う魔術師が現れることを祈ってるね」
と、ハイラムはそれだけ言って講義室を去っていってしまった。まるで突き放されてしまったような気持ちになり、何も言うことすら出来なくなってしまっていた。