作品タイトル不明
ヘネシーの講義
ヘネシーの講義が始まる為、講義室の最後列に移動する。初等部の生徒達の人数は三十人ほどいるだろうか。席はほぼ埋まっており、唯一、奥の端が空いていた。そこに座って講義を見学することにする。隣に座る生徒や目の前に座る生徒がチラチラとこちらを見てくるが、口元に人差し指を当ててから前を向くように促した。
皆が落ち着いてきた頃合いを見計らい、ヘネシーは笑顔で口を開く。
「それでは、講義を始めますね。まずは、これをご覧ください」
ヘネシーはそう言うと、胸の前で手のひらを上にして魔力を集中させる。わざと魔力を変質させて温度を下げているのか、細氷が空中に舞ってキラキラと輝いている。それを見て、生徒の数名が歓声を上げた。
「うわぁ!」
「綺麗……!」
喜ぶ生徒達に、少し背の高い生徒が自慢げな表情で笑う。
「僕はもう見たことあるよ」
「私も!」
ヘネシーの魔術を見て賑やかになる講義室。それに苦笑しつつ、ヘネシーは魔術で作り上げた細氷で自らの体を包むように動かした。
「この氷を魔力と思ってくださいね。魔力は体の内側にあって、魔術として形になる時に外へ出ていきます。例えば、この魔力の一部を使って火の魔術を使おうと思ったら……」
そう前置きしてから、ヘネシーは詠唱を始める。三小節の簡単な詠唱で行使された魔術は、ヘネシーの周りに浮かんでいた細氷を指先まで移動させ、赤い炎へと魔力を変質させる。
器用だ。素直にそう思う。ヘネシーの魔術は繊細で変化に富んでいる。その魔術の技術を理解しているわけではないだろうが、初等部の生徒達は皆笑顔で炎のゆらめきに目を奪われている。
「すごーい!」
「氷が火になった!」
喜ぶ生徒達に微笑みを向けて、ヘネシーは魔術の基本を分かりやすく説明していく。
「基本的には、殆どの魔術は体内にある魔力を用いて行使します。火も水も風も土も、癒しの魔術ですら魔術師本人の魔力を使うのが基本だと思ってください」
ヘネシーがそう言うと、一人の男の子が手を挙げた。
「違う魔術は何ですか?」
その質問に、ヘネシーは頷いてちらりとこちらを見た。
「先生も最近知ったばかりですが、精霊魔術は精霊が力を貸してくれるそうです。ただ、強い精霊を呼ぶ時に魔力を大きく消費するらしく、精霊との親和性も必要とのことで、魔術を使いたい放題というわけではないそうですね」
ヘネシーがそう言うと、生徒達が興味深そうに次々に手を挙げて質問をする。
「精霊って僕達も呼べるの!?」
「精霊魔術と普通の魔術、どっちが強いの!?」
そんな質問に、ヘネシーが困ったように笑い、再度こちらをちらりと見た。どうやら、こういった質問が来ると分かっていて講義に精霊魔術を登場させたようだ。そして、その解説は出来たら私にしてほしい、ということだろう。
もしかしたら、ヘネシーなりに初等部の生徒達に馴染めるように気を遣ってくれたのかもしれない。
そう思い、すぐに立ち上がってヘネシーの下へ移動した。皆の視線を受けながら、魔術を行使する。
「……水の精霊」
屋内の為、余計な被害が出ないように水の精霊を選んだのが、これが正解だった。
「あ、可愛い!」
「ぷるぷるしてる!」
生徒達は大喜びで歓声を上げる。今回は水の精霊を可愛らしいポニーの姿で作成した為、子供達にもウケが良いようだ。水で出来たポニーはたてがみを揺らしながら、首を軽くぶるぶると振ってみせた。
疑似精霊の為、完全な生命体ではない。だが、私のイメージした性格で生きているように動く。イメージしたのは優しくて大人しいポニーだった為、生徒達を攻撃することもないので安全である。
水の疑似精霊が講義室内をゆったりと歩き回り、生徒達はキャアキャアと喜んで水で出来たポニーに触ったりしている。その様子を眺めながら、簡単に精霊魔術に付いて解説をする。
「精霊魔術では精霊に協力してもらって魔術を行使します。精霊とは、各属性を司る精神体のような存在だと思います。目には見えませんが、この世界のいたる場所に大小様々な精霊がいるようです。精霊の力を借りると特級魔術を超えるような強大な魔術も可能です」
そう告げると、生徒の一人が挙手をした。
「特級以上の魔術って、どれくらい凄いの?」
「そうですね……川を凍らせたり、山を消したりくらいでしょうか? エルフの王様は小型の太陽を作ってくれましたが、それは少々特殊な例ですね。普通はそこまでの魔術は使えません」
「太陽??」
生徒達が首を傾げる中、ヘネシーは乾いた笑い声をあげて顔を引き攣らせる。
「は、はは……中々そんな魔術師にはなれないかと思いますが……」