作品タイトル不明
改めて教えられること
初等部で怖がられているという問題が解決した為、これを機に初等部の生徒達にも講義を聞いてもらいたいという気持ちになった。
そもそも、本来は初心者でも分かりやすく魔術を学んでもらおうと思って魔術概論という講義を始めたのだ。初等部向けに改めて講義の内容を考え直す良い切っ掛けになったといえる。
「……まずは、どうやって魔術を行使するのかという基本からでしょうか」
自分の考えを素直に述べると、同席していたストラスとエライザが揃って腕を組んで唸る。
「それは、そもそも座学で講義がありますから……」
「ヘネシー先生がしている講義が分かりやすいな」
「どんな講義でしょう?」
二人の言葉に思わず聞き返す。初心者向けの講義の内容が気になったからだ。だが、二人は何かを警戒した様子で、若干言い難そうに口を開く。
「えっと、魔力とは何か、というものと……」
「魔力操作、詠唱による魔力の変質を分かりやすく、という流れだな。ヘネシー先生は詠唱の概念を良く理解していると思う。どの小節が魔力をどう変化させているか解説することも出来るからな。本人の魔力量やオリジナル魔術の研究は少し足りないかもしれないが、詠唱に関する知識は上級教員クラスだと思うぞ」
「……成程。それは、私も興味が湧いてきました」
二人の説明を聞き、自分なりに十分研究したと思っていた詠唱について改めて考えさせられる。自分なりに詠唱を噛み砕き、オーウェンの魔法陣研究によって理解を深めたと思っていたが、確かに他者が別の角度から研究した魔術というものを理解することは大切だと思う。
特に、この二人が絶賛する初心者向け講義というのは是非とも聞いてみたい。
「ヘネシーさんが講義するのはいつでしょう?」
そう尋ねると、ストラスとエライザは揃ってなんとも言えない顔でこちらを見たのだった。
講義の前に声を掛けると、ヘネシーは目を瞬かせて驚いた。
ヘネシー・ナジェーナ。背が高く、緩いウェーブのかかった赤い髪の獣人の女性である。一般教員だが、その知識は深く、上級教員並だという。そんな教員の初心者向け講義があるならばと、熱い想いをそのままヘネシーに伝えてみた。
少し照れたような顔をして、ヘネシーは小首を傾げる。
「わ、私の講義をアオイ先生が……? その、恐れ多いというか……」
そう言って困ったように笑うヘネシー。だが、そんなに大袈裟な話ではない。是非ともヘネシーの考える魔術の形、発動までの流れというものを教えて欲しいだけである。
「邪魔はしません。静かに見学するだけですから、何卒お願いいたします」
「い、いえいえ! そんな大した講義ではありませんから……そ、それでは、講義室の奥の席に座って参加してもらう形でも?」
「はい、構いません。ありがとうございます」
ヘネシーは恐縮しながらも見学を了承してくれた。本当に有難いと思って感謝の言葉を述べたのだが、ヘネシーは慌てて両手を左右に振る。
「ほ、本当に大した講義じゃないですよ? 基本の基本ですからね? あ、あまり期待しないでもらえると……」
「いえ、楽しみにしています」
「ひゃ、ひゃあああ……!?」
可愛らしく悲鳴を上げるヘネシーに笑いつつ、揃って講義室へと向かう。部屋に入ると、そこには既に初等部の生徒達で満員になっていた。席が完全に埋まってしまっている状態であり、どれだけヘネシーの講義が人気なのか一目で分かる。
「あ! アオイ先生だ!」
「嘘!?」
「ドラコは!? ねぇ、ドラコは!?」
私に気が付いて一気に騒がしくなる講義室内。その状況に苦笑しつつ、ヘネシーが両手を振って子供たちの注意を引いた。
「はーい、皆さん! 今日はアオイ先生が見学に来ています! 静かに講義を聞いてくださいね!」
ヘネシーがそう言って皆に注意を促すと、子供達は笑顔で返事をした。
「はーい!」
元気よく返事をしてヘネシーの言うことを聞く生徒達。私に群がってきた時は一切言うことを聞いてくれないのに、この違いは何だろうか。
「……ヘネシーさんは子供の扱いが得意なんですか?」
小さな声で尋ねると、ヘネシーは苦笑しながら頷いた。
「もう少ししたらこの学院に入学する年齢の子供がいますから」
「……成程。お母さんの経験が生かされている、と……」
ヘネシーの言葉を聞き、一気に自分の中でヘネシーの株が上がったのを感じた。同僚の教員という意識から、人生の先輩へと昇格したのだ。
「……これは、心して講義を聞かなくては」
「あ、アオイ先生、勘弁してくださいよぉ……!」
改めて気を引き締めて頷いていると、ヘネシーは泣きそうな顔でそう言ったのだった。