軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アオイの名案②

そもそも、皆が私を怖がるのは何故だろうか。それは初等部で流れている噂のせいである。さて、その噂はいったいどんなものだっただろうか。

それは、アオイ・コーノミナトの正体がドラゴンであるというものである。

荒唐無稽な噂であり、中等部以上では一笑に付してしまうようなものだが、それでも初等部の子供達を怖がらせるには十分なものだった。

さて、それでは次の段階だ。何故、アオイがドラゴンだとしたら怖いのだろうか。人間がドラゴンに変貌したり、ドラゴンが人間に化けることが出来るから怖いのか?

そうではないだろう。つまり、本質的にはアオイではなく、ドラゴンが怖いということに他ならない。

ドラゴンを怖がる理由は簡単である。人間よりも強く大きな体を持ち、知性あるドラゴンは人間と同等の知能を持つ者もいる。鋭利な刃物も弾くような強靭な鱗で覆われているにも関わらず、魔力量も膨大で魔力を圧縮した息などにより攻撃も可能としていた。それらがドラゴンが最強の生物と呼ばれる所以である。

そう思うと、確かに目の前に最強の生物かもしれない人物がいれば怖いのかもしれない。

それでは、恐怖の本質が私ではなくドラゴンであると仮定すると、解決方法は変わってくるのではないか。

「……アオイ先生、本当に大丈夫?」

アイルが難しい顔でそう聞いてきたが、それに力強く頷く。

「大丈夫です。グレン学長も納得してくれることでしょう」

そう答えて、学長の部屋を訪ねる。心配してくれたのか、シェンリーやアイル達も付いてきてくれた。

「学長、いらっしゃいますか?」

大きな暗い色合いの木の扉をノックしながら声を掛ける。すると、部屋の中から扉が開かれた。ローブを着た優しい顔をした白い髭の老人。グレン学長である。

「おん? おお、アオイ君じゃないか。おや、生徒達も一緒にどうしたのじゃな?」

グレンはのんびりした雰囲気で首を傾げながら私たちの顔を順番に見た。

「ちょっと、良くないことが起きておりまして……」

「よ、良くないこと……!?」

言葉を濁して答えたのだが、グレンは目に見えて狼狽してしまう。

「はい、私の噂についてなのですが……」

そう言って用件に入ろうとしたところ、グレンは目を見開いてハッとした顔になった。

「ど、どれじゃ!? どの噂じゃ……!?」

「……私の噂が複数あるのですか?」

「……は、はわわわ」

無視できない言葉に聞き返すと、グレンは漫画のキャラクターのように口元に両手を当てて慌てだした。その様子は明らかに何かを隠している犯罪者のようである。

「ちょっと、事情聴取させてもらって良いでしょうか?」

目を細めて確認すると、グレンは肩を落として一歩下がり、無言で扉を閉めようとした。

「閉めさせません」

即座に手を入れて扉を掴み、行動を阻止する。十センチほど空いた隙間からグレンの顔を見つめていると、グレンは真っ青な顔で首を左右に振った。

「ち、違うのじゃ! ちょ、ちょっと色々と準備が必要での!? 本当じゃよ! ちょ、ちょっと準備したらすぐに開けるから、少しだけ待つのじゃよ!」

「何故、焦っているのでしょう?」

「焦っておらん! 焦っておらんぞ!?」

「……」

滝のような冷や汗を流すグレンの様子を暫く眺めていたが、諦めて手を離した。グレンはそっと扉を閉めると、室内で何かごそごそとやり始める。

「……グレン学長、怖がってなかった?」

「なにか変な噂があったかな?」

「グレン学長が怯えなくても良いのにね」

と、グレンの反応を見てアイル達がそんな会話をした。確かに、このグレンの怯えっぷりは異常である。あれはそう、ロックスの父兄を学院に呼ぶと口にした時以来ではないだろうか。いや、他にもあった気はするが、もう忘れてしまった。

暫く待っていると、やがて約束どおりにグレンが扉を開けてくれた。神妙な顔のグレンが扉から顔だけを出し、何故か廊下の奥を確認してから室内に入っていく。

「さぁ、こっちじゃ」

「ありがとうございます」

「お邪魔しますー!」

「失礼します」

「あ、し、失礼します……」

アイル達は我が物顔で、シェンリーは少し遠慮がちに学長室へと入る。中にはテーブルとソファーのセットがあり、一人掛けのソファーにグレンが先に座った。それを見て、私たちも幅の広いソファーに順番に腰かけていく。

グレンは私が座ったのを確認して、口を開く。

「……それで、どんな噂のことを聞きたいのじゃ?」

先ほどとは違い、グレンは冷静な様子でそう尋ねてきた。その様子を不審に思いつつも、正直に答える。

「どうやら、初等部で私がドラゴンではないかという噂が流れているようで、とても怖がられてしまっています」

そう告げると、グレンは一瞬目を丸くしたが、すぐにホッとした様子で笑った。

「おお、なんじゃ。その噂かの? それは大丈夫じゃよ。すぐに子供達も大きくなるし、そんな噂は自然と消滅してしまうものじゃ。どっしり構えておれば解決すると思うぞい?」

噂について確認すると、グレンは先ほどまでとは打って変わって明るい表情でそう言った。