軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔術具対決とは

「……ちょっと待て。聞いていれば、随分な物言いだな」

と、それまで黙って聞いていたラングスが不快そうにそう口にした。それに、ロイルは苛立ちを隠さずに睨み返す。

「エルフに用はない。俺が興味を持っているのは魔術具だけだ」

ロイルがきっぱりとラングスを拒絶する。文句など聞いてもいない。これほどはっきりと言われたことはないのか、ラングスも目を瞬かせて固まっていた。

「こ、ここは街中なので、フィディック学院にある魔術試験場で行ってはいかがでしょうか……!? そ、その、すぐに準備をすれば明日にでも使えます!」

その時、シェンリーが全身に力を込めたような格好で叫ぶ。ロイルはこの言葉に僅かに反応したが、すぐに首を左右に振った。

「……駄目だ。魔術具の中には罠として使えるものもある。この場で行うことで初めて正々堂々とした戦いだと言えるだろう」

ロイルはまるでこちらが不正を働くかのような言い振りでそう告げる。これにシェンリーが悔しそうな顔で何か言いそうになったが、その前に腹に響くような激しい破壊音と振動が起こり、びくりと飛び上がって驚いた。

その方向を見ると、そこには静かに憤怒のオーラを発するフェルターの姿があった。

「……たまたま話を聞いていれば、随分と勝手な言い分だな」

低い声でそう告げるフェルターを一瞥し、ロイルは鼻を鳴らす。

「今度は獣人か。魔術師としても半端な輩なぞ眼中に無い。失せろ」

恐れを知らないロイルは傲慢な態度でそう告げる。フェルターの気性を知っているシェンリーは顔面蒼白で肩を振るわせた。

「……フェルター君はいつから聞いていたのですか?」

さらっと学院の周囲を囲む塀を破壊して現れたが、あまりにもタイミングが良い。そう思って尋ねたのだが、フェルターは腕を組んで押し黙っていた。

「……やはり現れたか。警戒していて正解だった」

と、今度は正門の方から声がする。振り向くと、そこにはストラスとエライザ、ロックス、コートの姿があった。更に奥からはグレンとクラウンは走ってくる。

あっという間に九人も人が集まり大所帯となってしまう。ロイルの方も同じくらいの人数なので、まるで何かのイベントのような状況だ。偶然通りがかった広場内の人々も何が起きるのかと注目している。

「フェルター君……また学院の施設を……」

グレンが悲しそうに施設の損壊について苦言を口にしているが、フェルターは反応を返さなかった。今はロイルから目を離せないが、後で注意するとしよう。

「……わらわらと随分集まったな。しかし、ちょうど良い人数になったとも言える。よし、ルールを変更するぞ」

「え?」

「まず、使えるものは魔術具のみだ。魔術は使用禁止とする。また、武器の類も使用禁止だ。弓矢などであれば、魔術具を使う前に相手を攻撃することも可能だからな」

もう魔術具で勝負をすることが決まったかのようにロイルがルール説明をし始める。ひとの話を聞かないにも程がある。

「まだ、魔術具を賭けて戦うことに了承していないのですが……」

不満を露わにしてそう告げたのだが、ロイルは右手に持った剣の魔術具を掲げて話を続けた。

「一人一つの魔術具を持って戦うんだ。ただし、俺とアオイだけは魔術具の理解が深いものと判断して二つ使うこととする。分かったか? 攻撃は魔術具を使ったものだけだ。武器や魔術の使用は禁止。勝敗は負けを認めた側が降参するか、片方が戦闘不能になったら決着とする。魔術具は全部で十だ。俺とアオイが二つ使うから、一人ずつが戦って最終的に戦闘に勝利した数が多い側が勝ちとなる」

ロイルはそう言ってこちらを見た。

「いえ、私情に生徒達を巻き込むわけにはいきませんから、お断りさせてもらおうかと……」

ロイルとの魔術具勝負を断ろうとしたのだが、私の言葉尻に噛みつくようにロイルが声を上げた。

「なんだ? まさか、俺との勝負を避けるつもりか? そうか、負けるのが怖いのか。安心しろ。負けてもそこの生徒やエルフ、獣人のせいに出来るぞ。自分一人だったら負けなかったとでも言い訳すれば良い」

「……あぁ?」

ロイルの皮肉にロックスが低い声を出した。フェルターは最初から怒ってしまっているし、今の言葉を聞いてストラスとラングスもムッとした表情になっている。

「あ、あの……アオイ先生の魔術具を使って戦うと、あ、危ないと思うのですが……」

シェンリーが不安そうにそう呟く。それにロイルは面倒臭そうに答えた。

「なんの手筈も無いと思っていたか? 準備しているに決まっているだろうが」

ぶっきらぼうにそう言うと、ロイルは仲間の一人に目を向けた。ローブを着た白い髪の女だ。

「はい、ロイル様」

そう言って、女は黒いロープをローブの下から取り出した。そして、他の女たちに手伝ってもらって広場の中心をロープで囲んでいく。

「……あれは?」

気になって尋ねると、ロイルは腕を組んで笑みを浮かべた。

「知らないのか。あのロープで囲んだ範囲は周囲との接触が出来なくなる。ロープを結べば結界が張られ、解けば解除される。ロープは結界の内側からしか解くことは出来ない。そういう代物だ」

「……その魔術具はとても興味がありますね」

どういう仕組みなのか理解できない。これも良い研究対象となるだろう。そう思って口にしたのだが、ロイルは思惑通りとほくそ笑んだ。

「どうやら、やる気になったようだな」

その言葉を聞き、どうしたものかと皆を振り返る。しかし、ロックスやフェルターは今にも飛び掛かりそうな表情で立っていた。グレンはそんな二人を見て、困ったように眉をハの字にする。

「……困ったのう。生徒達を危険にさらすわけにはいかんのじゃが」

学長としての発言だろう。グレンがそう告げると、ロイルが肩を竦めて馬鹿にしたように笑う。

「癒しの魔術も使えると聞いたぞ? 負けそうになれば降参すれば良いだけだ」

「いや、そうは言うてものう……不安がいっぱいじゃよ」

グレンがそう答えると、ロックスやフェルターが視線を向けた。

「グレン学長。やらせてくれ」

「……負けないから問題ない」

二人がそう言うと、これまで静かに話を聞いていたコートが苦笑交じりに頷く。

「二人に乗るわけではありませんが、私も同じ気持ちです。ただ、シェンリーさんは止めておいた方が良いかもしれません」

魔術具勝負への参加に同意しつつ、コートが気遣うような素振りを見せる。しかし、シェンリーは首を左右に振って胸の前で拳を握った。

「わ、私も参加します! アオイ先生の魔術具が一番すごいですから!」

生徒達がそう言ってやる気を全面に出すと、グレンは苦笑して参加者を見回した。

「うぅむ……では、わしが応援する側に回ろうかのう。アオイ先生、ストラス先生、エライザ先生、ラングス先生と、ロックス君、フェルター君、コート君、シェンリー君……後は、クラウン殿?」

「はい! 私も参加します! 絶対に参加します!」

「……ま、まぁ、クラウン殿なら大丈夫じゃろうな。それにしても、生徒として入学したわけでもなく、教員として採用されたわけでもないのに、よく毎日学院におるのう……」

グレンは若干不思議そうにしつつ、メンバーを確認して頷いた。

「勝負は公平になるように頼むぞい」

「馬鹿にするな。正々堂々とした勝負だ」

グレンの言葉にロイルはそう答えて魔術具の準備を始めたのだった。