軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロックスが変わった。フェルターが怒った。

シェンリーが目を瞬かせ、何度も目の前の光景を確認している。

いや、シェンリーばかりでは無い。

周りの生徒も、何なら教師のはずのエライザですら授業の途中で固まってしまい、呆然と一点を見つめている。

一方、皆から注目を集めているロックスはただ黙ったまま、椅子に座り、前を見ていた。

授業が始まり、名を呼ばれれば返事をした。しかし、どこか覇気を感じない。

エライザは時々こちらの顔を確認するように見ながら、授業を再開した。

「……そ、それでは、授業を続けます。えーっと、土は形質の変化が多岐に渡る為、詠唱を省略したり、新しい魔術を生み出そうとする際、この岩という意味の魔術言語は変えることが出来ません。逆に、違う性質に変えたい時は少しずつ岩の部分を変えていけば、いずれ求める形質変化にたどり着く可能性があります」

そう口にした後、エライザは表情を引き締めて話を続ける。

「ただ、運が悪ければ新しい魔術を生み出す場合、どの魔術も何年もかかるものです。魔術の研究者は人気のある仕事ですが、なる人は覚悟を持ってやらなければなりません」

エライザが少し厳しい話をすると、皆が神妙な面持ちとなる。やはり、多くの生徒が魔術研究の道も考えているのだろう。

そんな中、ロックスの隣の席に座っていたフェルターが口を開いた。

「……魔術の研究には興味がないが、身体強化の魔術を自分の求める形に改良はしたい。今は何をして良いか分からないから、受けられる授業は全て受けている。何の魔術の研究でも良い。身体強化の魔術を改良するに役立つか?」

と、フェルターはとんでもない質問をし、エライザはどうしたものかと言い淀む。

「え、えぇっと……あ、そうですね。その質問は魔術研究の第一人者であるアオイ先生に聞いてみましょう! きっと、素晴らしい回答が……!」

何を思ったのか、エライザは冷や汗を流しながら私を振り向き、そんなことを言い出した。皆の視線がこちらに向き、そっとエライザが頭を下げている。

完全に丸投げだが、まぁ仕方ない。

苦笑しつつ、私は土の魔術を行使する。

「 鉱物加工(マテリアルクリエイト) 」

そう言って、上に向けた手のひらに拳大の石を作り出した。

そして、その形を変えていく。

「この魔術は、形状の変化と材質の変化の両方を同時に発動しています。通常の 岩弾丸(ロックバレット) では岩を作り出すだけですが、その詠唱の中には岩を生み出す為の材質固定の魔術言語が含まれています」

説明をしながら、石の形を人型に変える。軽い仕返しにエライザの形にしておいた。

それを見て、生徒達が感動の声を出す。

「材質固定の魔術言語は、材質変化に繋がる魔術言語です。そして、この応用は水の魔術にも使えます。水を氷にする、といった変化ですね。このように、別の属性の魔術とはいえ、無関係ではありません」

そう告げると、フェルターが何か言おうと口を開いたが、それより先にエライザが驚愕の声を発しながら走ってきた。

「ちょ、ちょっと待ってください!? その魔術は!? アオイさん、その魔術は!?」

物凄い勢いで迫ってくるエライザの頭を片手で押さえ、私は人形を差し出す。

「はい、どうぞ」

「わぁ! ありがとうございます! あ、私だ!?」

エライザは自分そっくりの人形に思わず驚いた。

それを横目に、私はフェルターを見る。すると、フェルターは不貞腐れたような顔をしながら再度口を開いた。

「……その石の形が変わる魔術が、身体強化の改良に繋がるということか?」

「はっきりとは言えません。例えば、身体強化と一口に言っても様々な種類があります。力を上げるもの、脚力を上げるもの、体力を上げるもの……後は、防御力を上げるものもありましたね。どれがどう関係してくるか。多数の選択肢がある為、簡単にはこれが正解ですとは言えないでしょう」

そう返答すると、フェルターは眉根を寄せて頷く。

「力を上げれば足が遅くなり、皮膚の硬質化をすれば柔軟性がなくなって動きが悪くなる。他も同じだ。何かを強化すれば、何かが反対に悪くなる。身体強化の魔術があまり使われない理由であり、研究者が少ない理由でもある」

言ってから、フェルターは立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

そして、エライザの前に行き、手に持っていた人形を持ち上げる。

「ふん」

唸り、フェルターはエライザの人形を握り潰した。

「わ、私が……っ!? 私が粉々に!?」

悲鳴を上げるエライザを無視して、フェルターは私を見る。

「力があるだけでは意味がない。だが、もし弱体化する部分だけでも消せたなら、身体強化の魔術はもっとも戦闘に特化した魔術になる筈だ」

そう言って胸を張るフェルターに、何故かロックスが反応した。

「フェルター! 貴様、教師に何を失礼なことを……!」

その言葉に、思わず私も驚いて振り返る。

「ろ、ロックス君?」

驚愕するエライザの声が聞こえたが、ロックスはそれには応えずに席を立ち、こちらに歩いてきた。

「フェルター、謝罪せよ。学院内では、生徒の序列は低い。教師に失礼を働けば極刑もあり得るぞ」

と、ロックスは険しい顔で忠告し、フェルターは怪訝な顔をする。

「……お前は本当にロックスか? 俺の知るロックスは誰にも媚びぬ強い男だったぞ」

そうフェルターが告げると、ロックスは真顔でさらに一歩歩み寄る。

「謝れ。まだ間に合う」

ロックスが再度謝罪しろと言い、フェルターの眉間に皺が寄った。

「……俺は自分よりも強い者にしか従わん。俺よりも弱いお前と行動していたのは、お前が誰にも従わぬ強い精神を持っていたからだ。俺よりも弱い教師に謝れというお前は、もう俺の知るロックスではない」

珍しく、フェルターが怒気を込めて言うと、ロックスは舌打ちをして首を左右に振る。

「貴様はまだ、本当の恐怖を知らぬ」

それだけ言って、ロックスは自分の座っていた席に戻った。

「……それで、話の続きだ」

つまらないものを見るようにロックスの背を見た後、フェルターはそう言って振り向く。

「……魔術を学ぶ気持ちは良いけれど、教師に対する態度は確かに看過できません。誰相手でも尊重する気持ちは大切ですよ」

「何故だ? 戦えば、俺が勝つ」

「それは野獣の理論です。相手が力以外の部分で貴方よりも優れていたら、最後には負けてしまうかもしれませんよ?」

「我がケアン家は武の力でのし上がった。戦って勝ってきたからだ」

と、フェルターは確固たる持論を持っていた。あまりに揺るがぬその意思と言葉に、なんとなくフェルターがどのように育てられたのか察してしまう。

そして、フェルターが見た目と態度を見てエライザを下に見ていることも。

「よし。それならば、フェルター君が自分より弱いと判断しているエライザ先生と戦ってみましょう」

私がそう提案すると、エライザが目を見開いて「えっ!?」と叫んだ。