作品タイトル不明
オークションに参加
結局、宝剣の価格は金貨四百枚まで値上がりした。その後の出品された物もかなりの高額となり、オークションは私の不安を煽る形で終了となった。
金貨数百枚の品は幾つもあり、金銭感覚が麻痺している気がする。
「とりあえず、オークションハウスの支配人に出品の相談にいこう」
「支配人に会えるのですか?」
ちょっと友人に会いに行こうみたいな言い方をされて驚く。
「金額が高額なものになる出品なら、支配人が直接確認するのが普通だ。もっと大きなオークションなら、それぞれに責任者がいて支配人に会うことは殆ど無いが、この規模のオークションは違う。支配人、副支配人、司会、倉庫管理者程度で、後は通常業務を行う従業員だ。だから、直接支配人に話が出来る」
「良い人ですよ!」
と、二人が説明してくれた。
「そうなのですか」
相槌を打ち、早速支配人の元へ向かうことにする。
会場から出て左に曲がり、奥へと向かった。突き当たりには扉があり、そこをストラスがノックする。
「はい、どうぞ」
簡潔な返事で許可がおりて、扉を開ける。すると、中には真正面にバーのカウンターのようなテーブルがあり、その奥には二人の人影があった。
一人は中年のユニークな鼻髭をした男性で、もう一人は恰幅の良い四十代ほどの女性だ。二人のすぐ後ろには棚があり、びっしりと大量の羊皮紙が積み重ねられていた。
「おや、いらっしゃい」
「あらあら、ストラスちゃんじゃないの!」
男と女がそんな反応を示す。
「ストラスちゃん……?」
聞き間違いだろうか。そう思ってストラスの横顔を盗み見たが、特に感情は読み取れなかった。
「支配人、副支配人。今日は新しい客を連れてきた」
ストラスはそう言って横に一歩退き、二人に私を紹介する。どうやら鼻髭の男が支配人で女が副支配人のようである。夫婦だろうか?
「アオイだ。俺と同じくフィディック学院で教員をしている」
ストラスがそう紹介すると、二人は目を輝かせてこちらを見た。
「まぁまぁまぁまぁ!!」
「貴女があのアオイちゃん!? わー、生アオイちゃんはトぶわー!」
二人はテンション爆上がりでカウンターに両手を突き、上半身を乗り出す。
「と、飛ぶ??」
あまりにもテンションが高過ぎて挨拶をするタイミングを逸してしまった。戸惑っていると、エライザが嬉しそうに二人の方へ歩いて行って口を開く。
「こんにちは! アオイさんが出品をしたいんですが、良いですか!?」
「まぁ、出品!?」
「すごーい! 断るわけないじゃなーい!」
二人のテンションにエライザは素でついていけている。素直に凄いことだと感心していると、ストラスは若干面倒臭そうに口を開いた。
「あまり大声を出さないでくれ。アオイが驚いているぞ」
ストラスがそう告げると、一瞬で三人は動きを止めて静かになった。そして、カウンター越しに三人で顔を近づけて何か話し出す。
「え? ストラスちゃんって……」
「あんなこと言わない子よね……?」
「そうなんですよ! 流石ですね、お二人とも!」
支配人と副支配人の声は良く聞こえなかったが、エライザだけは通常の声量で会話している。
ストラスは三人の態度に何故か苛立ったような雰囲気で声のトーンを落とした。
「……本題に入って良いか?」
ストラスがそう口にすると、支配人と副支配人は噴き出すように笑いだす。
「冗談よー!」
「ストラスちゃんったら!」
二人がそんな感じで笑いながら手を振ると、ストラスはムスッとした表情のまま溜め息を吐いた。完全にストラスが手玉に取られている感じがする。そして、エライザは悪ガキ仲間のように悪ふざけをしているようだった。
「それで、あのアオイちゃんがどんなものを出品するの?」
「初めてだから、特別に宣伝してあげるわよ?」
そう言われて気が付いたが、髭の男も何故か女性的な話し方だった。しかし、違和感はない。堂々とした雰囲気のせいか、気にならないのだろう。
「ありがとうございます。ご挨拶が遅れました。アオイ・コーノミナトと申します。よろしくお願いいたします」
遅くなってしまったが、一応自己紹介と挨拶をしておく。それに二人は嬉しそうに笑った。
「あら、丁寧」
「超真面目ね、貴女」
「いえ、そんなことは……」
初対面だし、当然だろう。そう思って答えたのだが、二人はご機嫌な様子で頷いた。
「真面目は良いことよ」
「さぁ、真面目なアオイちゃんがどんな物をオークションに出品してくれるのかしら?」
改めて、出品する物について聞かれる。
「黒色のドラゴンです。種類は飛竜。翼は一対で、体長は二十五メートルです」
そう答えると、二人は口の端を上げて含みのある笑みを浮かべた。
「……へぇ、流石はあのアオイちゃんねぇ」
「まさか、初の出品がドラゴンなんて……刺激的だわぁ」
先ほどまでのお調子者っぽいテンションから、急に凄みのある落ち着いた空気で返事をされた。その落差に驚いていると、エライザが胸を張って口を開く。
「ただのドラゴンじゃありませんよ! 一目では傷が何処か分からないくらい綺麗な状態です! 実際は首が両断されていますが、綺麗に氷漬けでくっ付いています!」
と、エライザが力説する。それに二人も目を細めた。
「ドラゴンの首を両断って、まずお目にかかれないわね」
「アオイちゃんが初めて出品した綺麗な状態のドラゴンでしょう? これは、結構高値になりそうじゃない?」
「そうねぇ……まぁ、金貨二千枚くらいが落としどころかしら?」
二人のやり取りを真剣な顔で聞いていたエライザが金額を聞いて跳び上がる。
「金貨二千枚!? ほ、本当ですか!?」
エライザが一番に驚きの声を上げた。
「普通は凄腕の魔術師が十数人で半日とかかけて戦う相手よ? ドラゴンもボロボロの状態になっていることが大半だわ」
「氷漬けになっているのも良い点ね。お肉が食べられる状態でしょ? それは高く売れるわ。一部のお金持ちはドラゴンの肉を高値で買うもの」
驚くエライザに、二人はそんな解説をした。やはり状態が良いと高値になるようだ。内心喜んでいると、ストラスが人差し指を立てた。
「後は、同様の状態のグリフォンも出品したい」
「グリフォン?」
「あら、グリフォンも? ドラゴンほどじゃないけれど、グリフォンも深い森に棲んでいるから珍しいわよ」
ストラスの言葉に二人が興味深そうに頷く。どうやら関心を持ってもらえたらしい。
「グリフォンは全長十五メートルほどでした」
「え? そんなに大きいの?」
「希少よ、希少」
二人は目を瞬かせて驚いた。エライザは横から期待を込めた目で口を開く。
「グリフォンはいくらになりますか!?」
その質問に、二人は揃って腕を組んだ。
「……金貨、五百?」
「そうね……そんなに大きなグリフォンだと、見た目が良いなら剥製にして飾る上級貴族が買う可能性も高いわ」
二人は真剣な顔で価格を見積もり、やがて顔を上げた。
「もし良かったら、金貨三千枚で私達に売らない?」
「え?」
二人の提案に、思わず生返事をする。エライザは手放しで喜び、私の手を取った。
「きゃー! 凄いですよ、アオイさん! 凄い額です!」
テンション最高潮のエライザに笑顔で頷き、答えようとしたところ、ストラスが先に口を開いた。
「……つまり、もっと高くなる可能性があるということか? なら、普通にオークションに出品した方がこっちの得になるんじゃないか?」
そう尋ねると、支配人が顎を引いて唸る。
「……それは中央のオークションハウスに出品する場合ね。残念だけど、私達のオークションの規模じゃ二体合わせても金貨二千枚いけば良いくらいよ」
支配人がそう言い、続きを引き継ぐように副支配人が話を続けた。
「つまり、手間と時間をこっちが肩代わりするってことね。実際、時期によっては中央でも金貨三千枚を
下回る可能性もあるし、そこら辺の判断はお任せするわ」
と、簡単に説明される。確かに、多くの人が参加するオークションの方が、金額は上がりそうである。
その説明に納得したのか、ストラスはこちらに目を向けた。
「どうする?」
尋ねられて、頷く。
「売ります。月末にあるという王都のオークションに参加するなら、早い方が良いですから」
そう答えると、二人が目を細めて私の顔を見つめてきた。