軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

授業参観

昼からの授業の見学にはアオイが付いていくことになった。

ロックスが出る授業は水の授業だった為、教員はスペイサイドである。

教室に入ると、緊張でガチガチになったスペイサイドが冷や汗を流しながら名簿を見ながら出席者を確認しているところだった。

「ほう。意外に人数がいるな。上級ともなるとかなり限られるかと思っていたが」

ミドルトンがそう言いながら中に入ってくると、生徒達の中で騒めきが起きた。

そして、最上段にいるロックスはミドルトンと一緒に入室してきたアオイを見て、口の端をあげる。

「それでは、今日は水の上級魔術の授業を行います。今回出席している生徒は、皆扱うことが出来る魔術の為、授業の目的としては詠唱を一小節短くすることを主題とします」

と、スペイサイドがいつになく丁寧に授業内容を説明すると、生徒達は若干面白そうにスペイサイドとミドルトンの顔を見比べた。

面白がられていると気付いて顔を引き攣らせるスペイサイドを横目に、最後尾で教室に入ってきたレアが頷く。

「高難易度の授業ですね。上級ともなると魔術が出来るだけではダメということですか」

その言葉にアオイが僅かに首を傾げていたが、スペイサイドはホッとした表情で話を続けた。

「まずは、通常通りの詠唱で魔術を発動します」

そう言って五小節の詠唱を行い、小さな水球を生み出す。水球は高密度の魔力が篭っており、多量の水流により鉄砲水を起こすことが出来る。

「この魔術は対象を指定して行使しなければこのまま消えます。では、皆もやってみましょう」

スペイサイドが指示をすると、皆は各々詠唱を始めた。

だが、ロックスは腕を組んで不敵に笑うと、勝手に口を開く。

「……スペイサイド先生。ちんたらやっていては時間の無駄だ。そこに上級教員のアオイ先生がいるではないか。二つに分けて教えては?」

ロックスはそう言って詠唱を始めると、三小節で魔術を発動させてしまった。

それに一部の生徒は素直に驚くが、ミドルトン達は眉根を寄せる。

水の球を空中に浮かべて笑みを深め、ロックスはアオイを見下ろした。

「それとも、アオイ先生では教えられないと? 名ばかりとはいえ、上級教員ならば簡単かと思っていたが、勘違いだったかな」

いつになく調子に乗っているロックスはふんぞり返ってそんなことを言った。ミドルトンとレアの目が鋭くなっていくが、全く気がついていない。

「勿論、アオイ先生は俺やスペイサイド先生よりも短い詠唱で魔術を使えるんだろうな? 詠唱を密かにするのが上手いようだが、連続で別種の魔術をするなら皆の前で詠唱するしかあるまい。火の初級魔術を発動して、水の魔術を発動してもらおうか」

何故か上から目線で指示を出すロックスに、アオイは溜め息を吐き、口を開く。

「今はスペイサイド先生の授業中です。勝手に発言しないように」

アオイがロックスの主張を無視して大人しくするように告げると、ロックスは目を見開いた。

「なに? 今の言葉は俺に言ったのか!? 王族である俺に!?」

大袈裟に驚いてみせるロックスに、ミドルトンの眉間のシワが深くなる。そして、レアの微笑みも凍りつく。

「……以前にも言いましたが、学院内では王族も貴族も平民も関係ありません。ロックス君は一生徒であり、私やスペイサイド先生は教師です。言う事を聞いて授業を受け……」

アオイが諭して大人しくさせようとしたが、ロックスは言葉を途中で遮って大声を出した。

「なんだと!? 平民の言う事を聞けと言うのか!? このヴァーテッド王国の王族たる俺に!? 貴様は、その隣に立つ方を誰と思っている!? 知らないんだろう!? 教えてやろうか!」

アオイの注意に対して怒鳴り返し、声高々に自己の主張を訴え始めたロックス。それにアオイが口を噤んで深く溜め息を吐き、そして口を開いた。

「…… 行動封印(フリーズ) 」

直後、魔術が行使されてロックスが棒のように固まった。その隣では、静観していたフェルターが腕を組んだまま鼻から息を吐く。

動けなくなったロックスを見て、ミドルトンは近衛騎士に指示を出す。

「連れ出せ」

「はっ!」

生徒達とスペイサイドが固まる中、ロックスは近衛騎士二人に抱えられて厳かに退場した。

ミドルトンはこれまでの騒ぎが嘘のような笑顔で片手をあげると、教室内に向けて声を出す。

「騒がせた。改めて、授業に集中してもらいたい」

それだけ言って颯爽と廊下に出ると、硬く重いものがぶつかり合うような鈍い音が響き渡った。その後、レアが貼り付けたような微笑みを浮かべて一礼すると、廊下へと出て行く。

そして、手を叩くような鋭い音が響いた。

教室内に残された者達が唖然としていると、扉が開かれてレアが顔を出し、アオイを見る。

「アオイ先生。ちょっと来てくれる?」

「は、はぁ……では、スペイサイド先生」

「どうぞ、お行きください」

呼び出しを受けたアオイが確認すると、スペイサイドは何度も頷きながら了承した。

外に出てみると、輝かしい笑顔のミドルトンが固まったままのロックスの髪を片手で掴み、廊下の先に歩いていくところだった。

引き摺られるロックスを同情するように見つめるアオイに、レアが笑顔で尋ねる。

「近くに、誰も来ない場所はあるかしら? 出来たら防音のしっかりした場所が良いわね。あ、拷問部屋とかどうかしら」

「……拷問部屋ではありませんが、実験室は比較的頑丈で防音も出来ていると思います」

「実験室! それは良いわね。さぁ、ご案内してくれるかしら」

と、レアは楽しそうに言い、アオイは頬を引き攣らせて頷いた。

「……こちらです」

そう言って歩いて行くと、レアがミドルトンに声をかけて呼びつけた。

「アオイさんが良い場所をご存知とのことですよ。頑丈な部屋で、防音も大丈夫ですって」

「む、そうか。それは良い。是非とも案内してもらおう。久しぶりに親子水入らずで話がしたい」

「えぇ、本当に」

そんな会話をする二人に、側に付いて歩く近衛騎士達は顔面蒼白である。

アオイは引き摺られるロックスを見て、そっと手を合わせたのだった。