軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】 フィディック学院では4

【別視点】

「……ロックス。あいつは追い出さなくて良いのか?」

フェルターがぼそりと呟く。すると、ロックスは心底嫌そうな顔をして窓の外を見た。視線の先には学院の中庭があり、そこでは周囲に人が集まってきているにも関わらず大騒ぎしている三人の姿がある。

いや、騒いでいるのは一人だけなのだが、遠巻きに見ている観衆からすれば同じ一派にしか見えないだろう。

その様子を呆れた目で見ながら、片手を左右に振る。

「俺は関わり合いになりたくないぞ。気になるならお前が行けよ、フェルター」

ロックスがそう言うと、フェルターは鼻を鳴らして肩を竦めた。

「……俺はそもそも貴族がアオイを利用して力を得ようとしていることが腹立たしいだけだ。男なら、自分の力で強くなるべきだろう」

フェルターが怒気を込めた声でそう呟き、ロックスが目を僅かに見開く。

「……そうか。まぁ、それもお前らしいな」

答えつつ、ロックスは中庭に視線を戻した。

「ここに居ましたか」

と、そこへコートが現れて声を掛けてきた。その声にロックスとフェルターが振り返ると、そこにはコートだけでなく、アイルとリズ、ベルの三人組とシェンリーまで一緒だった。それを横目に見て、ロックスは鼻を鳴らす。

「女連れでどこへ行く気だ、コート」

そう言われて、アイルが一瞬嫌そうな顔をしたが、コートが苦笑しつつ先に口を開いた。

「いや、アオイ先生が中々帰ってこないので、いつ頃帰る予定かストラス先生に聞こうと思いまして」

コートが答えると、ロックスは腕を組んで唸る。

「……カーヴァン王国か。グレン学長も一緒だから大丈夫だとは思うが……」

ロックスがそう呟くと、コートが腰に手を当てて同意する。

「そうですね。それでも、中々学院に帰る日は遅くなりそうですが……」

二人がそんな会話をしていると、コートの後ろに立つアイルたちが首を傾げつつ疑問を口にした。

「カーヴァン王国へ行ったことに、何か問題があるの?」

アイルが代表してそう尋ねると、コートが自らの口に人差し指を当てた。

「……あまり大きな声では言えないけどね。カーヴァン王国のレイド王は少し難しい人物なんだよ。謁見を求める相手が何か企んでいないか確認する為に、時には半年以上もの期間を掛けて来訪者の素性を調査したり、相手の人となりを調べたりする。結果、相手が自身に害を成す人物でないと明確になった時、初めて謁見の許可を得ることが出来るんだ」

コートがそう告げると、アイルたちは顔を見合わせて頭をひねる。

「それって、つまり臆病ってこと?」

アイルがそう口にすると、リズとベルが何度か頷いた。

「謁見を求める相手次第では、とても失礼なことではありませんか?」

「いや、流石に王族とかならそんなに待たせることはないんじゃない?」

そんな会話をしている二人を見て、シェンリーが遠慮がちに口を開いた。

「……その、グレン学長は侯爵ですから、すぐに謁見の許可が下りるんじゃ……」

シェンリーがそう言うと、コートとロックスが揃って振り向く。

「そう甘くない」

「うん。都合の悪いことに、つい最近そのレイド王のご子息をフィディック学院から追い出すことになっちゃったからね」

ロックスが仏頂面で、コートが苦笑しながら答える。それに、フェルターが腕を組んだまま鼻から息を吐いた。

「……下らん。臆病な小物が王を名乗るなど、笑えん冗談だ」

低い声でそう呟くフェルターに、コートが乾いた笑い声をあげた。

「それは流石に不敬であると言われてもおかしくない発言ですよ。慎重で家族想いな人柄と言い換えておきましょう」

コートがそう告げると、ロックスは思わずといった様子で噴き出した。

「ふっ! はっはははは! 本当に口が上手い奴だな! それで、その慎重で家族想いなレイド陛下に謁見許可を出させる方法はないのか? 言っておくが、ヴァーテッド王国の力は今回は使えないぞ」

「ええ、分かってますよ。フィディック学院のことでヴァーテッド王国が出ると、流石に出しゃばり過ぎだと批判されるでしょうね。なにせ、六大国で共同出資して設立した学院なのに、場所はヴァーテッド王国の領土内。さらに、在籍する教員と生徒もヴァーテッド王国の者が多く、学長はヴァーテッド王国の侯爵……やはり、他の五大国から見れば私物化されていると思われても仕方がない部分があります」

コートの指摘に、ロックスは何も言わずに鼻を鳴らすだけに留めた。事実、フィディック学院が領土内にあることで得る利益やメリットも多いのだろう。それを察したのか、コートは話を逸らすように自らの胸に掌を当てた。

「今回の件、コート・ハイランドも動けそうにありません。残念ながら、カーヴァン王国とはあまり仲良く出来ているとは言えません。そんな状態で下手な口出しは……」

「まぁ、そうだろうな」

ロックスはコートの言葉に頷くと、嫌そうな表情で深い溜め息を吐いた。

「……もし口を出せるとしたら、カーヴァン王国出身の、それも王族並の奴くらいだが、学院内ではバレルだけか?」

「……バレル・ブラックは公爵家だ。あまり良い手段とは言えん」

フェルターがそう呟き、ロックスとコートは揃って頷く。

「ふむ」

「ブラック家は、王弟の血筋でしたね。確かに、難しいかもしれません」

三人のそんな会話に、シェンリーが不安そうに眉根を寄せた。

「な、何故でしょう? 家族や親戚みたいな関係なら、話しやすいのではないでしょうか?」

素朴な疑問があがり、アイル達が困ったような顔で首を左右に振る。

「いやぁー、むしろ同じ血が流れてることの方が問題というか……」

「そういう意味ではコート・ハイランド連邦国は単純で良いですね」

「え? でも、コート・ハイランドも元王族の人が議員になってるし、その家ごとでは同じ問題があるかもよ?」

アイル達がシェンリーの疑問を話題のネタにして盛り上がり始める。その様子を面倒臭そうに眺めて、ロックスがシェンリーに振り向いて答えた。

「……面倒なことに、同じ血を分けた王族ってのは敵にも成り得るんだ。中には上手いことやって王位継承権の順位を繰り上げようって輩もいる。まぁ、失脚させてやろうみたいなのんびりした奴ばかりなら良いが、基本的には暗殺が確実だからな。ブラック家としては王に疑念を抱かせるような行動はしたくないだろうさ」

ロックスがそう告げて、シェンリーがおっかなびっくり相槌を打つ。

「そ、そうなんですね」

シェンリーがそれだけ口にして黙ると、一瞬、場に沈黙が広がった。

その様子を不思議に思ったのか、ロックスは周りの顔を見る。

「……なんだ?」

不機嫌そうに尋ねると、フェルターが鼻を鳴らした。

「……お前、丸くなったな」

「はぁ?」

フェルターの言葉に何を言ってるんだといった顔で眉尻を上げる。虚をつかれた表情をするロックスに、コートが小さく笑った。

「私も変わったと思いますよ。もちろん、良い方向に」

コートの言葉にどう思われているのか理解したのか、ロックスは顰めっ面で舌打ちをしたのだった。