軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出国とオーウェンの魔術

結局、本人の強い希望もあってラングスは候補者の権利を失った。オーウェンの言った通り、一先ずはレンジィが女王になり、アソールはこれまでエルフの王国に存在しなかった副王という立ち位置になることが決まった。

どうやらリベットは私に直接魔術を教えたかったようだが、ラングスが先に初級から上級までのエルフの魔術を私に教えてから、王家の魔術をリベットが教えてくれることとなった。

今後のエルフの国の方針や魔術の教授についての流れを決める為に一日だけ延長して残り、その後は朝からフィディック学院に戻る。そのスケジュールを聞いていたシーバス達は、思っていた以上に別れを惜しんでくれた。

「……最初は人間にも恐ろしい魔術師がいると思ったものだが、アオイ達のお陰でこの国は住みやすくなると思う。ハーフエルフの子供達も、笑顔で暮らせるような国になるように、俺たちも頑張るからな」

シーバスは不器用な笑顔でそう言ってくれた。

「はい。頑張ってください」

そう答えると、鼻の頭を掻きながらシーバスは私を見下ろした。

「……世界一の魔術学院の教員か。大層忙しいことだろう。寂しくなるな」

「あ、でも二ヶ月以内には王家の魔術を学びに来れるように努力しますので、すぐに会えますよ」

「……いや、そんなに慌てなくて良いぞ。もう少し、ゆっくり、じっくり魔術を学んだ方が良い。エルフの魔術は発音の微妙な違いで大きく効果に差が出ると言われている。そういった部分までしっかり研究してきた方が必ず良い研究に繋がるはずだ」

何故か、シーバスは親身に魔術の研究について助言をくれた。その言葉を不思議に思いながら別れの挨拶をして、街から外へ出る。馬車で外に出ると、オーウェンが先に出て待っていた。

「やっぱり……エドラさん達が探してましたよ」

そう言うと、オーウェンは腕を組んだまま鼻を鳴らす。

「ふん、気にするな。それよりも、お前のその喋り方の方が違和感があるぞ」

その言葉に、息を漏らすように笑った。

「また馬鹿なことばかり言って……私はもう教員なのだから、丁寧な言葉遣いを心がけているのよ」

そう告げると、オーウェンは面白くなさそうに再度鼻を鳴らして生返事をする。

「まぁ良い。それじゃあ、俺は戻るとするか」

それだけ言って去ろうと背を向けるオーウェンに、馬車の中からシェンリーが顔を出した。

「あれ? オーウェンさんって、フィディック学院には来ないんですか?」

「オーウェンは自分の研究用の家があるので、そこで独自に研究をしているんですよ」

オーウェンの代わりに答えると、シェンリーは残念そうに口を開く。

「そうなんですか……アオイ先生の講義は凄く面白いのに、残念です。あ、この前の王様の魔術を二人で研究されてはどうですか? それなら、一人でするより二人で魔術の研究をした方が良いですよね」

シェンリーは良かれと思って魔術の共同研究を提案した。心優しいシェンリーのことだ。オーウェンが素直になれないだけで、本当は寂しいかもしれないなどと思ったのだろう。

だが、オーウェンは生粋の引き籠りでマッドサイエンティストも真っ青な廃人魔術研究家である。エルフの王国に来たのも、単純に新しい魔術具の開発のヒントを求めに来ただけだろう。

その証拠にオーウェンはシェンリーの言葉に喜ぶどころか、自尊心を刺激されて不敵な笑みを浮かべながら振り向いた。

「ふむ……あの時はあえて争いの元になるようなことは口にしなかったが、あのくらいの魔術ならば再現可能だ。それこそ、つい最近作った魔術具に似たようなものがある」

そう呟きながらローブの下から何か取り出すオーウェン。

「……これだ。 疑似太陽(イル・ソル) 」

大きな杖のようなものを出して魔術名を口にする。直後、オーウェンの頭上に巨大な炎の塊が現れた。炎は一気に頭上に打ち出された、遥か上空で破裂するような勢いで巨大化する。

大気を震わせる轟音とともに、空に真っ白な巨大火球が出来上がる。まるで懐中電灯の明かりを灯すような気軽さで行ったというのに、とんでもない魔術具だ。使い方によっては大事件となるようなテロ行為が行えるだろう。戦争中に使っても恐ろしい効果を発揮するに違いない。

もう一つの馬車に乗るグレンとストラス、エライザも目を見開いて絶句している。皆が驚いているということに満足したのか、オーウェンは空に浮かぶ巨大な火球を見上げて口を開いた。

「あんまりにも雨の日が続いたのでな。疑似的に太陽を作れないかと思って作ってみた」

「魔術具は凄いのに、発想は子供みたい……」

私は疲労感に肩を落としながらそう呟く。オーウェンは途端に不機嫌そうになり、火球を小さくして消し去った。

「面白くない奴め。それじゃあ、帰るぞ」

オーウェンはそれだけ言って飛翔の魔術を行使すると、本当にそのまま飛んでいってしまった。なんと勝手な奴だろうか。いや、いつものことと言えばいつもの事。むしろ、懐かしい気持ちにすらなっている。

「……私たちも帰りましょうか」

そう口にすると、グレン達は無言で頷いたのだった。