軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】生徒達2

【フェルター】

こんな男だったか?

俺はそんなことを考えながら、中庭に移動した面々の後に続いた。

ロックスが怒りに任せて魔術を使い、取り巻き共はそれの補佐をする。腐っても魔術学院の生徒だ。皆が中級以上の魔術を使い、次々に魔術は発動した。

炎の球、氷の矢、風の刃に岩の槍。様々な攻撃魔術が飛来するが、コートはあの獣人の女を片手に担いで応戦している。

応戦といえども逃げるばかりだが、中々見事に魔術を防いでいた。コートは土の魔術が得意らしく、素早く初級か中級の魔術を用いて攻撃を防いでいる。

とはいえ、流石に限界はある。

教員でもないと、あれだけ多勢に無勢ならば成す術も無いに違いない。

「……っ!」

相殺する為に放った岩が目の前で砕かれ、破片を足に受けたコートが地面を転がる。あの女も一緒だ。

「く……っ、あぁ……!」

血を流すコートを見て、取り巻き共は冷水を浴びせられたように顔面蒼白となる。それはそうだろう。ああ見えて、コートはコート・ハイランド連邦国の代表を輩出した名家の嫡男だ。

その人物に怪我をさせたとなれば、国を超えた大事件になる。

そう思い、足が竦んだのだ。

「情けない奴らだ」

そんなことで怖気付くくらいならば、最初からしなければ良い。

「退け」

そう言って押し退けると、取り巻きは二人ほどまとめて転倒した。

中庭の端には呻く女と、足から血を流しながらそれを庇うコートの姿がある。ロックスはそんな二人を見下ろし、舌打ちをした。

「……大した力も無いのに強者に逆らうとはな。コート・ヘッジ・バトラー。貴様はもう少し賢い男だと思っていた。まさか、そんな屑に惚れていたか?」

ロックスはそう言って笑うが、俺の評価は低くはない。

「……コート。お前、本当はそれなりに戦えるな? 実戦経験がある動きだ。普段の態度から騙されていたが、一対一なら相当なものだろう」

そう告げると、コートは苦笑するように顔を歪めた。

「買い被りですよ」

呟き、立ち上がる。腿に傷を負っている為、かなりキツいはずだ。しかし、コートは隙を見せなかった。

ロックスは腕を組んで睨み、顎をしゃくる。

「……今なら許してやる。コート。俺に逆らわないと誓え」

と、まるで慈悲をくれてやるとでも言わんばかりの台詞を吐いた。

これが、ロックス・キルべガンだと言うような言葉だ。

悪気は無く、王族の自分に従うのが当然だと心から思っている。言うなれば、過ちを犯したコートを許してやろうとさえ思っている。

だが、貴族の子息に言ってはならない台詞だ。

もう、この状況ではコートも引くことは出来ない。そして、コートほど頭が回る男ならば、恐らく適当にやり過ごすことも出来ないと理解しているだろう。

掛かっているのは、貴族としての誇りになった。

興味深く眺めていると、コートは不敵に笑い、短剣を取り出した。そして、刃先をロックスの顔に向ける。

「……這いつくばって謝罪しなさい。今なら、許してあげましょう。馬鹿王子」

その言葉に、ロックスは我を忘れた。

杖を抜き、魔術の詠唱を開始する。

【バレル・ブラック】

中庭に出ると、連続して何か音が聞こえた。罵倒するような声も響き、何事かと見に行く。

すると、岩か何かの壁に向かって様々な魔術を連続して放つロックス先輩の姿があった。

何かの練習なのかもしれないと思ったが、怒鳴るところを見ると違うらしい。

「逆らっておいてそれか!? 無様だな、コート!」

怒鳴りながら中級の魔術を連続して放つロックス先輩に、背筋が寒くなる。王族は別格の魔術師としての素養があると聞くが、確かにロックス先輩は特別だ。

なにせ、四つの主要属性全て上級に達している唯一の生徒なのだから。

更に、ロックス先輩から少し離れた場所にはあのフェルター先輩がいた。珍しく無属性魔術が得意な人だが、殆どの魔術で中級以上を使うことが出来る化け物だ。

教員と模擬試合をしたことでも知られているが、なんと学院に入って負け無しだという。つまり、教員よりも強い生徒だ。

「……あの二人とやり合うなんて、何処の馬鹿だ? 恐らく、貴族の格も理解出来ないような平民だろうけど……そういえば、コート、と叫んでいたような……」

そう呟いた瞬間、岩の壁が砕けた。ロックス先輩の猛攻に耐えられなかったのだ。

すると、壁の向こうに現れたのは白い髪の女だった。頭に獣の耳があるのが分かった。

あれは、僕と一緒に飛び級で高等部に入った獣人の女子生徒、シェンリー・ルー・ローゼンスティールだ。珍しい獣人の飛び級だったので覚えていた。

「 水の流弾(アクアショット) !」

シェンリーは水の魔術を放ち、ロックス先輩を狙う。だが、それをロックス先輩はあっさりと土の魔術で相殺してしまった。

使い方が上手い。咄嗟だったから初級魔術を使ったのだろうが、角度を付けて上手く回避している。これで、お互い一からの詠唱となる。ロックス先輩の勝ちは確定だ。

と、その時、シェンリーと反対側から人影が現れた。

「 岩の散弾(ロックシェル) !」

背の高い、朱色の髪の男だ。シェンリーの魔術を囮にし、男が本命の土の中級魔術を放ったのだ。二人の交戦の間に魔術の準備を整えたのだろう。

実力差があろうと、こうなっては関係ない。ロックス先輩は身を捩って負傷を最小限にするしかないだろう。

しかし、現実は違った。

ロックス先輩の姿が忽然と消えたのだ。何が起きたのかと思ったら、離れて立っていた筈のフェルター先輩がロックス先輩を引き摺り倒して魔術を回避していた。

異常な動きだ。遠目に見ていた僕でも何が起きたのか分からなかったのだから、相対する二人には全く見えなかっただろう。

「……君もやる気ですか。フェルター・ケアン君」

不敵に笑う男の声を聞いて、ようやくそれがコート・ヘッジ・バトラーだと理解した。

普段の表情とあまりに違った為、誰か分からなかったのだ。

「……死にかねないと判断したのでな。それに、観客も増えてきた」

フェルター先輩はそう呟くと、ロックス先輩を地面に置いて立ち上がった。

バレた。

そう思って肩を跳ねさせたが、フェルター先輩が目を向けたのは僕とは反対側だった。

全員の視線が、そちらに向く。

小石を踏み躙る音が聞こえ、沈み掛けた夕日の中に人影が映った。

「……何をしているのですか?」

低い、女の声だ。

声量も無いのにその声は良く響き、ぞわりと、肌が粟立つほどの迫力がある。

皆が固まる中、シェンリーだけが大粒の涙を流し、その人影の名を呼んだ。

「アオイ先生……っ!」

血を吐くようなシェンリーの必死な声に、人影から恐ろしいまでの怒気が伝わってきた。

情けないことに、足が震えて動かない。何もしていないのに、とても悪いことをしている場面を見られたように怖かった。

しかし、ロックス先輩は平然と立ち上がり、真っ向から睨み返してみせる。

「……また貴様か。なんだ? また何か言う気か? もう引き下がれない場まで来ているのだぞ。今ここで口を出すならば、国家間のいざこざに首を突っ込むことと知れ……っ!?」

怒りの言葉を吐くロックス先輩は、最後まで喋ることができなかった。

一瞬で目の前に現れたアオイに、平手打ちを受けてしまったからだ。

手を振り終わった格好しか視認出来なかったが、平手打ちをした後といった体勢だ。だが、ロックス先輩はまるで暴走した馬に撥ねられたように弾き飛ばされ、地面を転がっていった。

「国を背負って私と戦うというなら相手になりましょう」

低い声でそう口にしたアオイは、感情を感じさせない顔で倒れたロックス先輩を見下ろし、再度口を開く。

「滅ぶ覚悟でかかってきなさい」

アオイがそう口にすると、ロックス先輩は信じられないものを見るような顔をした。

そして、フェルター先輩は愉しそうに歯を剥いていた。