軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

上級教員

学院には火、水、風、土の魔術に卓越した上級教員と、癒しの魔術の上級教員がいる。

基本的に上級教員にまでなる魔術師は各々研究に打ち込み、その成果や副産物を公開する方が本人にも学院にも利益となる。

その為、一般教員とは違い、上級教員は一週間のうち一日、多くても二日しか授業は行わない。

特に、水の上級教員であるフォア・ペルノ・ローゼズは自身の研究に傾倒しており、授業は余程の理由が無ければ週に一度、二時間のみだ。

その貴重な授業が行われるということで、私は教員三日目ながら、朝から生徒達と共に校庭にいた。

流石に上級を学ぶ生徒ということで、基本的には十七から十八歳ほどの生徒ばかりである。人数は二十人。全員が真剣な面持ちで立っていた。

ただ、その中にいる二名。ロックス・キルべガンとフェルター・ケアンだけは時折こちらを盗み見ている様子が見てとれたが。

あの二人、成績は優秀なのか。

私が密かに驚いていると、闘技場のような校庭に黒いローブの男が姿を見せる。

燻んだ灰色の長い髪と髭、鋭い目つきの痩せた五十代ほどの男。黒い衣装と合わさり、まさに魔法使いといった出立ちだ。

皆が緊張に背筋を伸ばす中、上級教員であるフォア・ペルノ・ローゼズは私達の前で立ち止まり、顔を見回した。

「……出席者を確認する」

挨拶もなく、フォアはそう言って名を順番に確認していく。そして、最後に私を一瞥した。

「……最後に、アオイ・コーノミナト教員」

「はい。今日は宜しくお願いします」

そう言って一礼すると、フォアは無遠慮な視線を向けてくる。じろじろと上から下まで眺められ、なんとなく居心地の悪い思いをしていると、ロックスが横から口を出してきた。

「アオイ先生は学院にきたばかりでありながら上級教員として雇われたと聞いた。さぞ凄い魔術師なのだろうな」

一言余計なことを口走ると、フォアが目を細く尖らせた。その視線を受けて口を閉じるロックスを睨んで、フォアはこちらを見る。

「……この学院では、実力のある者が教員となる。しかし、上級教員ともなれば、そこに最低限の品が必要とされる。その点では、貴族は幼少時より、様々な礼儀作法や学問を学んでいる為、上級教員に適していると考える……コーノミナト教員は、確か平民の出と聞いた」

静かに持論を展開し、確認するようにそう言われて、私は真っ直ぐに見返しながら頷いた。

「はい、平民です。私はどこの国の出身とも知れない身ですが、不適合でしょうか」

そう口にすると、フォアは数秒、考えるような顔で押し黙る。

そして、短く息を吐いて口を開いた。

「……今後の君の行動を見て、判断をさせてもらおう。もし、

上級教員に相応しく無いと判断したら、私は学長に直訴するつもりだ。覚えておくと良い」

厳しい声でそう言って、フォアはようやく授業に入る。

行ったのは水の上級魔術だ。なんと、フォアは水の特級魔術が使える上に火と風も上級魔術が使えるらしい。それだけ優れた魔術師ということもあり、水の上級魔術も僅か二言詠唱したかと思えば、もう発動させていた。

詠唱時間は二、三秒ほど。これならば、限りなく無詠唱に近いと言える。

さらに、魔術の威力も大したものだった。

「 押し流す水流(タイダルウェイブ) 」

魔術を発動した瞬間、フォアの眼前に巨大な水の球が発生し、大量の水が前面へ放たれる。さながら津波だ。

兵士だろうが馬車だろうが、何も出来ずに押し流されるだろう。

この魔術には、生徒達も子供らしく目を輝かせて感嘆の声をあげていた。

それから五人ずつ一組になり、順番に水の上級魔術を発動していく。面白いのは、上級の魔術が使えるようになったからといって発動速度や威力は同じではないことだ。

発動が遅くて威力も低い場合でも、五人が揃った場合はフォアの魔術に匹敵する津波となる。逆に、一人一人威力があっても発動のタイミングがズレれば微妙な結果となった。

また、詠唱を省略する技術もそれぞれだ。最短三節で発動する生徒もおり、四節で発動する生徒はそれを参考にしていた。

魔術の特性を知ることも出来、なおかつ他者の魔術を見て自身の魔術へのヒントにすることが出来る。

この授業も良く考えられているようだ。

そんなことを考えながら眺めていると、上級の授業の中では真面目に勉強しているロックスがこちらを見てきた。

「……フォア教諭。今後の参考のためにも、アオイ教諭の魔術を一度見ておきたいのだが」

ロックスがそう告げると、フォアはまた一瞬考えるような仕草を見せ、顎を引く。

「……ふむ。それには私も興味がある。私は十五年掛けて、上級教員となった。それでも、上級教員の中では早いくらいだ。コーノミナト教員の実力が気にならないと言えば嘘になるだろう」

そう呟き、こちらを一瞥したが、すぐに浅く息を吐いた。

「だが、今はその時ではない。コーノミナト教員の実力がどの程度でも、今の貴殿らにはまだ参考にもなるまい。まずは、上級の魔術を三節で発動できるまでに鍛錬せよ」

予想外にも、フォアはそう言ってロックスの提案を切って捨てた。

私も意外だったが、これはロックス本人も意外だったらしい。悔しそうにこちらを睨んではきたが、何も言わずに矛を収めた。

結局、見学者であると判断したフォアは、最後まで私に何もさせることはなかった。

そういったこともあり、昼食ではエライザに話を聞きたくなった。

「フォア先生は、貴族意識が高いとまでは思わなかったけど」

首を傾げながらそう言うと、顔の大きさほどもあるパンに齧り付きながら、エライザも首を傾げた。

「んん……そうなんですか。我々も大半はフォア先生と話す機会がないものですから……噂だけだったんでしょうか」

そう口にした途端、何かを思い出したようにエライザが顔を上げる。

「あっ! そういえば、生徒達の間で噂になってるみたいですよ!?」

「……私、ですか?」

そう聞くと、エライザは何度も頷いた。

「そうです! まだ一部の生徒だけですが、明らかに悪意のある何者かが……」

「悪い噂ということですか。どんな内容ですか?」

尋ねると、エライザは一瞬口籠もり、悲しげに口を開いた。

「……アオイ先生は、平民故に貴族を目の敵にしていて、教員の立場を使って不当に虐げている、と……」

そう呟き、エライザは慌てて両手を左右に振る。

「私やストラスさんは分かってますよ!? アオイさんは平等に生徒に善悪を教えようとしている、と! ただ、この学院はどうしても貴族社会の感覚が強くて……家の権力が高い誰かが噂を流せば、さも真実のように広まってしまって……」

悔しそうに俯きながらそう口にしたエライザに、私は笑って頷く。

「大丈夫です。私には貴族社会のしがらみは関係ありませんからね。正面突破してやりましょう」

そう言って微笑むと、エライザは頬を引き攣らせて乾いた笑い声を上げた。