軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アオイの考え

「私は教員であり、学長の立場ではないから見え方が違うかもしれません。でも、もう少し厳しい罰を与えるでしょう。ただ、それが本当に正しいのかは分かりませんが……」

そう告げてから、過去を思い出す。

日本での教師生活にあって、虐めはとても身近な問題だった。一年あれば必ずそういった事態が巻き起こる。殆どは個人間の小さないざこざが主だが、中には集団によるものや暴力を伴うものもあった。

その為、教員になる者は必ずイジメ対応マニュアルを学ぶのだ。その中には、教員が出来るだけ早く気づくことや、イジメが起き難い環境作り、生徒への情操教育や声掛けの仕方などもある。

もし虐めが起きてしまった場合は、被害者のケア以外にも加害者や加害者の親を相手にした話し方、気をつけることなども学んだ。

虐めは深刻な問題であり、被害者だけでなく加害者の精神的成長にも影響を与えてしまうのだ。

その学んだ知識から答えを見出すならば、虐めを行ったことをその親にも必ず伝えておかなければならない。

「……グレン学長。その苛めを行った生徒のことはご存じですか?」

そう口にすると、グレンは眉をハの字にした。

「……し、知っておるが……」

「教えてください。一人一人の家に行き、家庭訪問を行いたいと思います」

「やっぱり……!?」

私の言葉に、グレンは泣きそうな表情で叫んだ。

「あ、アオイ君……! 家庭訪問は分かるが、エルフの生徒も、主導した者も、既に学院におらんのじゃよ……! 残った者も歳上の者に引っ張られてイジメをしておった者だけで……」

「エルフの王国ですね。場所は分かりますよね?」

「Oh……」

確認すると、グレンは両手で自らの頭を挟むような格好をして天を仰いだ。

ソラレと約束をした休日は三日後である。時間はまだゆっくりある。

「明日は講義が午前中だけです」

「う、うむ? 午前中は講義じゃな。そ、そそ、それがどうかしたのかの……?」

「場所はどの辺りですか?」

「い、いやいや……コート・ハイランド連邦国とグランサンズ王国の間にあるが、馬車で行けば一ヶ月以上は掛かるぞ」

そう言われて、頭の中で地図を広げる。

「……なるほど。それでしたら一泊二日で行けそうですね。他の生徒はどちらの方ですか?」

「……コート・ハイランドじゃ」

どこか観念したような様子でグレンが答える。

「丁度良いじゃないですか」

私がそう告げると、グレンは項垂れて頷いた。

「……わしもそう思うぞい」

同意も得たことである。後は実際に行動するのみだろう。

「失礼」

と、タイミングよくマスターが料理を運んできた。少し広めのテーブルだと思っていたが、マスターが一つ二つと料理の盛られた皿を載せる度にサイズが小さくなっていくような錯覚を受ける。

気が付けば、テーブルの上は料理でいっぱいになっていた。

「おお、美味そうじゃ」

「本当に美味しいですよ!」

グレンの言葉にシェンリーが嬉しそうに肯定する。

「それでは、いただきましょう」

料理の開始を告げて、皆で食事を楽しむ。グレンも満足できる味付けだったらしく、皆の顔に笑顔が溢れた。

料理も半分ほど平らげた頃、私はそういえばと口を開く。

「エルフの国とコート・ハイランドは、グレン学長にも付いてきてもらいます」

「ぶはっ」

私が一言お願いを口にすると、グレンがフォークを手に持ったまま咳き込んだ。咽たように咳を繰り返すグレンを眺めて、静かに答えるのを待つ。

「……わ、わしも行くのかの? エルフの国に行くのは勇気がいるんじゃが……」

「顔も分からないのですから、私一人では時間が掛かって仕方がありません。ソラレ君の為にも何卒ご協力ください」

「アオイ君なら、わしがいなくても問題なく見つけられそうなのじゃが……」

「グレン学長」

「はい。わしも行かせていただきます」

嫌そうな反応をするグレンにもう一度頼もうとしたのだが、何故かすぐに了承してくれた。随分と素直なのが気になるが、やはり孫のことが心配になったのだろう。

優しいお祖父ちゃんの姿を見せるグレンに微笑みつつ、カップを手に取り口に運ぶ。

風味豊かな紅茶を楽しんで、ホッと息を吐いた。

エルフの王国。アクア・ヴィーテ。オーウェンからも聞いたことがある。他の国とは明らかに違う魔術の知識や発展……どのような資料、研究結果が保管されているのか。

エルフの国の魔術には大いに興味がある。

しかし、今はエルフの国に根付く差別意識の確認だ。もし、ハーフエルフへの偏見や激しい選民思想があるのなら、それは取り除くべき事項であろう。

さて、どうしたものか。エルフの国にはどの国よりも長い歴史と独自の文化があると聞く。一筋縄ではいくまい。

「……今回は、その生徒とご両親とお会いして、様子を窺うとしましょうか」

小さくそう呟くと、グレンとシェンリーが揃ってこちらに顔を向けた。