軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王族に無礼

ロックスを追い出したお陰で授業は無事に終了した。

まぁ、お通夜のような静けさの中、半泣きのエライザの声が響いていたので全く問題が無かったとはいえないかもしれないが。

「 封印解除(リリース) 」

魔術を解除すると、廊下の壁にたてかけられていたロックスが尻餅をついた。

「ぐ……!? い、一体な、なにが……」

ロックスが地面に座り込んだままそう呟くと、フェルターが歩いてきて口を開いた。

「舐めたことを言った生徒が新人の教師にお仕置きされただけだ」

フェルターがこちらを一瞥しながら低い声でそう告げると、ロックスはハッとした顔になり、私を見る。

「き、貴様……! こんなことをして……!」

またも激昂して何か言いたそうにするロックスの顔の前に手のひらを出し、黙らせた。

ぐっと顎を引いて押し黙ったのを確認して、口を開く。

「学校という場所に地位を持ってきてはいけません。この学院内では先生は先生。生徒は生徒という立場以外には何も介在する余地がないのです」

「……この学院に、我が王家がどれだけ出資していると……」

目を血走らせて低い声を出すロックスに、私は口の端を上げた。

「自分が働いて出したならともかく、親の金で偉そうにして恥ずかしくないですか? それとも、それが貴方の誇り?」

挑発するようにそう聞くと、ロックスは今にも噛み付かんばかりの表情を見せたが、なんとか踏みとどまった。

「……覚えていろ。どんな理由であれ、この俺を馬鹿にしたことは忘れんぞ」

そう言って踵を返したロックス。何故かエライザが顔面蒼白になる。

歩き去ろうとしたロックスだったが、フェルターが付いてこないことに気が付き立ち止まった。

「どうした」

不機嫌そうにそう言ったロックスに、フェルターは片手を振って応える。

「ちょっとこの教師と話がある」

その言葉にロックスは不審げな顔をしたが、すぐにこちらの視線に気が付いて鼻を鳴らし、歩き去る。

ロックスがいなくなったのを確認して、フェルターは私を見下ろした。

背の大きな少年だ。いや、もう少年には見えない。服を下から押し上げるように分厚い筋肉で覆われた体躯。そして、ライオンの立髪のように逆立てた金色の髪と尻尾。

「……尻尾? フェルター君は獣人?」

「……悪いか」

私の言葉に、フェルターはぎろりと音が鳴りそうな目つきで睨んできた。

それに微笑み、首を左右に振る。

「悪くはありません。ただ、ちょっとしゃがんでもらえると嬉しいですが」

そう答えると、フェルターは戸惑いながらも腰を屈めた。

「では、失礼して」

思わず満面の笑みを浮かべて、フェルターの頭に両手を乗せる。

「ぬぁ……っ」

驚きの声を上げるフェルターの声を黙殺し、私は頭をわさわさと撫で回す。すると、すぐに目的のものが姿を現した。

三角だが先が丸く、厚みのある耳だ。毛がふさふさで触り心地が良さそうである。

「おぉ、思いの外可愛らしい耳が! 触っても?」

「だ、駄目に決まっている!」

怒鳴り声をあげて拒否すると、可愛い耳は後ろ回りに転がって離れてしまった。

「あぁ……」

「残念そうにするな!」

フェルターは髪を逆立てて警戒心を露わにしており、それにエライザが慌てる。

「す、すみません! アオイさんはちょっと天然で……!」

と、失礼なフォローを入れる。まぁ、初対面で頭を撫で回すのは失礼だったか。今度は先にお願いしてから撫で回すことにしよう。

そんなことを思っていると、フェルターは怒りとも焦りともとれる複雑な顔でこちらを見た。

「……理解し難い女だ。だが……」

そう口にしてから、臨戦態勢にあったフェルターが姿勢を通常の状態に戻した。そして、軽く息を吐いてから私を見る。

「……魔術だけではなく、近接格闘も出来ると見た。何を使う?」

「剣です」

私が答えると、フェルターは嬉しそうに笑った。

「……この学院に来てまともに近接戦をこなす者はいなかった。肉体強化の得意な者も距離をとって魔術を使うような戦い方ばかりだ」

そう呟いて拳を握り込み、私の顔の前に持ってくる。

「願わくば、強者であれ」

フェルターは獰猛な笑みを浮かべてそれだけ言うと、颯爽と去っていく。

図体の割に可愛らしい尻尾を揺らしながら帰る様子は年相応に見えて面白かった。

「アオイさん! なんであんなことをしたんですか!?」

フェルターがいなくなってすぐにエライザが涙目で詰め寄ってきた。

と、教室内から出てこれなかったシェンリーが恐る恐る出てくる。

「だ、大丈夫でしょうか……フェルター様はブッシュミルズ皇国の侯爵家次期当主らしいですし、ロックス様は……」

不安そうに呟かれた言葉に、エライザが何度も頷いた。

「ロックス・キルべガン君……この学院と最も関係の深いヴァーテッド王国の王家の出です! しかも第二王子……!」

両手で頭を抱えながらヘッドバンキングするエライザに、シェンリーが怯えて後ずさった。

どうやら、六大国の上級貴族と王子の二人だったようだ。

「……王子と次期侯爵家当主ともあろう者が、あんな態度を公の場で見せているのね。もう少し厳しく躾けないとダメだったか……」

「逆、逆っ!」

「あ、あまり関わらない方が……」

エライザとシェンリーが私の独り言に反論してくるが、そればかりは譲れない。

「学校は平等であるべきです。どんな生まれでも、平等に学び、平等に学生としての時間を楽しむべきです。また、生徒の模範となるべき教師は区別することなく、平等に接してしかるべきでしょう」

「……王族だから厳しくいくとか言ってなかったですか?」

「それはそれ。これはこれ、です」

エライザの指摘を軽く流すと、私はシェンリーを見た。

「シェンリーさん。もし、偉そうな人が何か言ってきたら私に言ってね? 私やエライザ先生は地位とか気にしないから」

「私もですか!?」

何故か悲鳴混じりに確認されてしまう。

「……エライザ先生は、悩める生徒を助けようとは思わないんですか?」

そう尋ねると、エライザは半泣きのままグッと顎を引いた。

シェンリーはそんなエライザの顔を見て、不安そうに口を開く。

「あ、あの……私のことは、お気にせず……その、エライザ先生が私の事を気に掛けてくださっただけで……」

涙ながらにそんな健気な事を言うシェンリーに、エライザは「はわわわ……っ!」と良心の呵責に身悶えした。

「……そんなこと言われて、頑張らないわけにはいかないじゃないですかぁ……」

そうして、エライザは結局シェンリーを助けることに決めたのだった。