作品タイトル不明
文化祭13 終わり
「あんなの初めて見ました!」
「凄かったです!」
発表終了を伝えて、アイル達が真っ先に走ってきて感想を述べる。それに微笑みながら、腰に下げた革袋から鉱石の欠片を取り出した。花火をするには小さ過ぎた鉱石類である。
「あれは誰でもできる魔術ですよ。こういう、燃やしたら火の色が変わる石や金属を空中に飛ばして、それらを激しく燃やしてあのようにしました。火の魔術と風の魔術を練習したらできると思います」
説明をしながら、小さな鉱石の欠片を一つずつ燃やしていく。青い炎と黄金に輝く炎を間近で見て、アイル達の目が輝いた。
「綺麗ー!」
「私もやってみたい……」
アイル達だけでなく、シェンリーもそばに来て感嘆の声を上げる。これは次の授業に丁度良いかもしれない。意外と細やかな魔力操作と、見えないところで魔術を発動させるという部分が学習内容としても的確である。
魔術の遠隔操作というのはフィディック学院であってもあまり一般的ではない。これまでで最も優れた遠隔での魔術発動技術を有していたのは、メイプルリーフ聖皇国の聖人と聖女だった。ほかの魔術師は殆どが視界の及ぶ範囲内、場合によっては手元から一メートル範囲内で魔術を発動させている。
「……そうですね。雷の魔術を習得した人から、この魔力花火の魔術を習得しても良いかもしれません」
色々と考えながらそう呟くと、後からこちらにやってきたミドルトン達が苦笑した。
「先ほどの魔術を、生徒たちがか? それは中々難しいだろう。宮廷魔術師であっても数年……下手をすれば十年はかかりそうなものだが」
ミドルトンが代表してそんなことを言ってきたので、片手を挙げて手のひらを左右に振る。
「フィディック学院の生徒たちなら、恐らく半年から一年で習得できると思います。難易度は雷の魔術より少し上程度ですから」
そう告げると、皆がピタリと動きを止める。
「……そういえば、あの雷の魔術も一年や二年で覚えられるものではないぞ」
「いや、そもそも伝説や逸話でしか聞いたことが無い魔術ですからね」
「あんな魔術を半年で覚えられてしまっては、各国の戦力に差が……」
ミドルトンやディアジオ、アイザック、グランツが難しい顔で顔を突き合わせて話し合い始めた。それを横目に、ロレットが眉間に皺を寄せて唸る。
「……アオイ殿。先ほどの魔術は見事だった。ところで、あの魔術……もし戦いの場で使ったら、どれほど恐ろしいことになるか、理解しているだろうか?」
ロレットは低い声でそう言って、こちらを睨むように見た。それに首を傾げつつ口を開く。
「あの魔術は中級の土か水の魔術があれば防げるような殺傷力の低い魔術です。もちろん、あの魔術を習得することで緻密な魔力操作を学ぶことが出来ますので、様々な魔術の応用が可能にはなりますが、それらが全て戦いに使われるとは限りません。結局は、どんな魔術も使い方ですから」
そう告げると、ロレットは口を噤んで押し黙った。一度何か言おうとした素振りもあったが、結局何も言わなかった。
そこへ、タイミングを見計らったかのようにコートが何処からか割り込んでくる。
「いやぁ、素晴らしい魔術でした。流石はアオイ先生ですね。皆さんもとても感動したと思いますよ」
コートがそう言って入ってくると、ロレットは一歩後ろへ引き下がった。どうやら、喧嘩の仲裁のようなことをしてくれたらしい。私としては喧嘩をしていたつもりはないが、コートからするとハラハラするような状態だったのかもしれない。
内心で小さく反省をしていると、コートの隣にロックスが現れて周りを気にしつつ声を掛けてきた。
「凄い魔術だったが、あれを俺たちが使えるのか? 想像も出来ないのだが……」
そんな質問に、皆の目がこちらに向いた。
「先ほども言いましたが、やっていることは高いところで鉱石を燃やしているだけです。もちろん、上手く拡散させたりきちんと粉々にしたりという難しい部分はありますが、練習すれば誰でもできますよ」
そう言って微笑むと、ロックスは腕を組んだまま唸る。簡単に説明し過ぎただろうか。とはいえ、既に雷の魔術を使えるようになっている生徒達は納得した様子ではある。
このままフィディック学院で特級魔術やオリジナル魔術を教えていけば、魔術の水準は間違いなく上がっていくだろう。
だが、各国の魔術水準を向上させるには効率的とは言えない。特に、魔術に対して関心が少ないグランサンズや、魔術に対して間違った知識を持っていそうなカーヴァン王国、そして魔術の研究に偏りがありそうなブッシュミルズ皇国には早めに確認に向かいたいところである。
出来ることなら、それぞれの国の宮廷魔術師や教員がフィディック学院に学びに来てくれたら有難いが、中々そうもいくまい。
そんなことを考えていると、ロレットが不貞腐れたように肩を竦めた。
「……これは、今後もフィディック学院から目が離せない、といったところか。残念ながら、我が国の魔術学院よりも実力は上だろう。しかし、それだけにグレン学長の孫のことが悔やまれるな?」
ロレットがそう口にしてミドルトンを見ると、一瞬空気が凍り付いたような気がした。
「……ロレット公爵。それはこんな時に口にするような内容ではなかろう」
声のトーンを落としてミドルトンがそう告げる。それにロレットは肩を竦めるだけで何も答えなかった。
「グレン学長のお孫さんに、何かあったのですか?」
尋ねると、ミドルトンは難しい顔で顎を引いた。