軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 赤く輝く星の下で

王都に聳える白亜の宮殿───その絢爛たる大広間にて。

王家主催の夜会ということもあり、着飾った国の主要貴族達が一堂に会している。

その夜会会場に私とグレンもいた。

王家直々に星辰投影機による余興をこの場で披露するよう命じられたのだ。

もうすでに投影機は広間の中央にある台座の上に設置されており、あとは起動するだけ。

大広間の天井は円形状となっており、星々が美しく映るだろう。

そしてそんな最中、周りは王都付近に住む高位貴族達ばかりであるため、私もグレンも覚悟をしていた。

グレンの父である先代バージェス辺境伯は生前王都付近にいる貴族や役人達から煙たがられ、あらぬ悪評を吹聴されていたからだ。

そう言ったこともあり、何を言われるだろうかと気を引き締めていたが………

「───バージェス辺境伯にアルテシア夫人! この目出たい場で貴方方にお目に掛かれるとは運が良い!」

「北方の辺境地を代々守り抜くバージェス家の方とお会いできて幸運だわ。今度パーティーに招待させて頂戴」

「中々領地を離れることができないと聞くが、王都へ来る際はぜひ私共に声をかけておくれ!」

意外にも歓迎モードな彼らに内心驚いてしまう。

王家主催の夜会であることからそれを台無しにするような振る舞いをする無礼者はいないと思っていたが、やんわりと嫌味くらい言われると思っていたのだ。

辺境の田舎貴族と処刑された元夫を持つ夫人夫婦として、こそこそと遠巻きにされるくらいの覚悟はできていた。

しかしいざ向かえばそういったこともなく(心の内はどうあれ)非常に歓迎されてしまう。

(ああ、そっか。そういうことね)

ふととある可能性が思い浮かび、なるほどと納得する。

今回の夜会で王家直々に余興を頼まれたという名誉がバージェス辺境伯家に与えられたのだ。

そんなバージェス家を蔑ろにすれば、バージェス家を招待した王家の面子を潰すことになるだろう。

また先代バージェス辺境伯が邪魔立てしたと言われる領地ごとの通行税も市民の不満が高まりつつあり近々見直されると噂される。

先代バージェス辺境伯により通行税を免除した領地がこれを機に集い、派閥となって徒党を組むことを恐れているといったところか。

(ものすごい勢いで掌を返すわね………)

「驚いた。状況が違えばここまで受け入れてもらえるものなのか。今までの夜会とはえらく違うな」

するとグレンが小さな声で耳打ちをする。

そんな彼に私は首を傾げた。

「今までの夜会?」

「ああ。アルテシアと結婚する前、少しでもこの状況を打破しようと王都のパーティーに顔を出すようにしていたんだ。その時はいつも煙たがられて遠巻きにされていたよ」

その時のことを思い出したのか、ひどく疲れ切った顔をしてぼやくグレンに苦笑する。

おまけにそういった華やかな催しには向いていないと自称するくらいなのだ。

きっと私が想像する以上に苦労したんだろう。

「───このまま孤立すれば、もし領地に何かあった場合、手を貸してくれる者は誰もいない。そういった時のために生家に蔓延る悪評を払拭し、繋がりを作ろうとしていたんだが…………どうにもうまくいかなくてな。 あの時(・・・) もそれで疲れ切ってしまったんだ」

あの時、とはいつの話だろう。

不思議そうにする私にグレンはふと笑みをこぼし、淡々と続けた。

「俺がアルテシアと再会した時の、カリオストロ伯爵家の夫人が主催した舞踏会だ。特に格式を気にしていない催しだからと言われ、一人で飛び込んでみたが想像以上に針の筵になって外へ逃げてしまった」

「…………だからあの中庭で項垂れていたのね」

「ああ」

あの舞踏会で、グレンは会場から漏れる光から逃げるように中庭のガーデンチェアに腰をかけていた。

夜の闇に紛れ、べったりとした濃い影を落としたグレンの不審者っぷりに当時とても驚いたのを覚えている。

「じゃあ相手はどうあれ、妻を娶ることができて良かったわね」

前世の価値観からか独り身でも全く問題ないと思うが、この世界の基準からして、パートナーがいた方が社交の場は広がるし、グレンの欲する他家との繋がりもできる。

しかしグレンは首を横に振る。

「確かに君を妻にしてから様々なことが好転するようになったが…………俺は、そういうことを打開するために君を迎えたわけじゃない」

そして「そこは誤解しないでほしい」とグレンは小さな声で否定してくる。

するとその時、大広間の明かりがゆっくりと消えていった。

会場の楽団は演奏を止め、人々の騒めきはさざ波のように引いていく。

次の瞬間、中央に設置された星辰投影機が天井一面に満天の星空を写し出した。

「わあ…………!」

会場の貴族達が息を呑む。

そして隣に佇むグレンを見れば、彼の真っ黒な瞳に星々の光が反射していた。

なんて美しい光景なんだろう。

そんな私の視線に気付いたのか、グレンがこちらに振り向く。

夜空に浮かぶ星々が煌々と光っている。

星座は動き、ほうき星が流れる。

その中で唯一変わらない赤く瞬く星のもと、元悪役貴族の青年の顔がゆっくりと近付いてきた。