軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59 テオドール視点

「ルイいないの?」

ルイに頼んでいた資料を貰おうと、時間が空いた為王太子の執務室へと向かうが、部屋の前に来てその本人がいないことに気づく。

どうするかと暫し部屋の前で考え込むと、丁度シリルが大量の書類と共に前から歩いてきた。

シリルは俺に気づくと若干面倒くさそうに顔を歪めるが、すぐにいつもの無表情に戻る。

いやいや。

《げっ》って心の中で言っていたの気づいているからな。まぁ、シリルもルイも揶揄うと面白いから、つい構いすぎてしまう所は認めるが。

ルイは特に子供らしさに欠けていたから、小さい時からもう一人弟が出来たかのように、より構い倒していた気がする。

ついでにその側にいるシリルも一緒に遊んでやったけど、こいつはどうも俺に苦手意識があるらしい。

小さい時に魔術を見せて喜ばせようとして、逆に驚かせて泣かせたことがいけなかったか⋯⋯。

それとも泳げないことに悩んでいたから、無理矢理泳げるようにさせたアレのことか⋯⋯。

それとも⋯⋯。

色々あり過ぎて原因が判断つかないな。

弟達もそうだが、どうも俺は子供の扱いが下手らしい。遊んでやってるつもりなのに、よく泣かれた覚えがある。

その中で、ルイだけは俺を興味深そうに観察していたが。

それにあいつは、初めて会った時から天使のような顔をしながら禁術すれすれの術ばかりを強請ってきた。シリルや弟が泣いている側で、ルイだけはいつも楽しそうに目を輝かせていたしな。

まぁ、あいつは一般的な子供じゃないから参考にはならないだろう。

それに今はシリルもこんなに立派になったのだから⋯⋯まぁ、良いか。

「どうされました?」

「ルイに資料を頼んでおいたんだけど、何か聞いてるか?」

「あぁ、それでしたら預かっています。こちらにどうぞ」

そう言って、王太子執務室の隣にある部屋へと案内された。こちらは補佐官の部屋になっているが、シリルに用事がある時も常にルイの側にいる為、この部屋に入ることは稀だ。

「どうぞそちらにお掛けください」

「あぁ」

「少々お待ち下さい。⋯⋯確か、ここに」

勧められた一人掛けソファーに俺が座ると、シリルは机の上に積み上がった書類の束を確認しに行く。

よくあそこまで溜まった書類を全て把握することが出来るな。

シリルの様子をチラッと見て思わず感心する。そして手持ち無沙汰にふと窓の外を眺めると、綺麗な青空が目に入る。

それにしても。

ルイはどこに行ったんだ。学園が休みの時は基本仕事しかしていない奴なのにな、と不思議に思う。

「で、ルイはどこ行ったわけ?」

「⋯⋯殿下は、湖に出掛けています」

「湖? 何でまた⋯⋯あぁ、デートか」

俺の問いに、資料を探しているシリルの手がピクッと動いた。そしてたっぷりの間を開けて、シリルは淡々と答えた。

ルイが湖⋯⋯。

全く似合わないな。

どう考えても、デートなど時間の無駄。

婚約者とはお茶会で十分、と考えそうなタイプなのに。わざわざ馬車で往復三時間も掛かる場所に出掛けるとは。

「本当に変わったな」

「えぇ、変わりました」

「⋯⋯嬉しいんだ?」

「は?」

「ルイの心配を一番しているのはお前だもんな。人間らしくなったルイに安心してる、という心情のオーラをしてるな」

「⋯⋯人のオーラを読むのは止めてください」

刺々しい言い方をいくらしても、シリルの纏う空気はとても優しく温かいものだ。

生まれた時から常に一緒にいるシリルにとって、ルイの変化は驚くべきものであろう。

だが、これで良かった。そう本当に思う。

「恋って凄いな」

「結婚したくなりましたか?」

「まさか。俺に結婚は向かないだろ。

相手が可哀想だからな」

「そうですか。⋯⋯あっ、これです」

シリルは俺に質問しておきながらも、その返答には全く興味が無さそうに数冊のファイルを確認する。

そして一つのファイルを見つけると、俺に差し出した。それを受け取り、ファイルを開くと中に挟まった紙を流すように見る。

そこに書かれているのは、一ヶ月後に予定されている行事の詳細が書かれている。

そして俺の知りたかった情報もそこに記載されていた。

《精霊召喚の儀 参加生徒》

ナタリア・アボット

ファルマン・ウードン

マチアス・ミショー

アンナ・キャロル

毎年恒例の精霊召喚の儀。

呼び出す為の魔法陣、結界、準備は全て魔術師団が行う。

精霊は普段からその辺にいる訳ではない。呼び出すには魔術師数人の力と、事前の準備が必要になる。

そして今年の責任者が俺と言う訳だ。

「ふーん、今年は少ないな」

「そうですね。本当はもう二人予定されていましたけど、一人は修道院ですからね。

もう一人はラシェル嬢ですから」

「修道院⋯⋯あの試作品を急かされたやつか」

修道院という言葉に、数ヶ月前の出来事を思い出す。サミュエルとの会話の中で面白そうなことを言っていたから、魔道具の熟練技師と遊びのつもりで試作品を作っていた。

それをルイが何処からか聞きつけて、早急に使用出来るように作ってほしいと頼まれたのだったな。

本当にあいつの情報網は恐ろしいとさえ思う。

まぁ、そんなことがあったから今回の精霊召喚の対象となっていた生徒の一人は学園を去ったらしい。

そしてラシェル嬢。

彼女は黒猫ちゃんと契約しているとは言え、魔力量が足りない。他の精霊と契約するにしても、召喚の儀式にかかる負荷に耐え切れないだろう。

「このアンナ・キャロルってこの間のデビュタントで見た問題児だろ」

「⋯⋯はい。魔術の成績は優秀で、魔力量もここ数年の生徒の中で一番多いかと」

「この資料通りなら、中位⋯⋯いや、もしかしたら高位精霊も呼べる可能性はあるな」

資料上の《アンナ・キャロル》という文字を眺めると、デビュタントの日のことを思い出す。

あの不思議な空気を纏った少女。

言動は酷いものであったが、周囲の空気は静かだったな。精霊に好かれそうな雰囲気がある。

⋯⋯だが、彼女は何か秘密を抱えている。

そう、ラシェル嬢のように。

手を顎に当てて考え込んでいると、ふと視界にシリルが眉を顰めている姿が目に入る。

シリルにとっては、このアンナというのはルイに面倒事を持ち込む厄介な奴なのだろう。

俺としては、ラシェル嬢であれキャロル嬢であれ、別にその秘密を暴く気もない。

面倒臭いし。

他人事だし。

自分の特殊な力は、必要な時に使えばいい。その考えは変わらない。

⋯⋯さて、用事は終わったな。

「じゃあ、これは貰ってく。

ルイによろしく言っといて」

「はい」

ファイルを閉じ、ソファーから立ち上がるとシリルに一声かける。それにシリルが返事をしたのを聞き、ドアへとまっすぐ向かい手を軽く振るように上げて部屋を後にする。

魔術師団の練習場へと向かおうと、王宮内の廊下を歩いている途中に、前からルイが歩いてくるのに気づく。その後ろにはロジェが付いている。

おっ、帰ってきたか。

「よっ、デート帰りだって?」

「あぁ、テオドールか。シリルから精霊召喚の儀の資料は受け取ったか。まだなら今から渡すが」

「いや、それはここにある。⋯⋯それで、湖は楽しかった?」

「⋯⋯あぁ、そうだな。楽しかった」

あれ?

揶揄うつもりで言った言葉に、ルイの表情がいつもと違い、幸せそうな微笑みを浮かべていることに違和感を感じる。俺が湖行ったことを知ってることにさえ何も言わないとは。

思わず、ロジェに「こいつどうした訳?」と尋ねると、ロジェは真面目な顔つきのまま。

「はっ。良き休日を送られたようです」

「何それ、全然分かんないんだけど」

俺は思わず頭を掻くと、はぁっと一つため息を吐く。

「ラシェル嬢と何かあった?」

「⋯⋯有ろうが無かろうが、それは言わないからな」

ラシェル嬢の名前にルイは分かりやすく肩を大きく揺らすと、その瞳に甘く優しい色を浮かべる。

だが直ぐに表情をいつもの状態へと戻し、キッパリと言う。

うわ、この無駄に薔薇を咲かせたかのような色気は俺に不要なんだけど。

それに幸せオーラは消せていないし。

この様子、間違いなく何かあったな。

しかもかなり良いことが。

大方、ラシェル嬢と想いでも通じた⋯⋯って所か。

「まぁ、良かったな」

ルイの未だかつて見たことのない様子に、俺はしみじみとそう感じた。そして、ポンポンとルイの肩を叩くと「じゃあ、またな」とだけ言い残して、また足を動かし始める。

背後から少し間があった後、遠ざかる二人分の足音が聞こえた。

歩きながら、ふと手元のファイルに目線を落とす。

そして先程シリルと話していた一人の少女のことを思い出す。先程から何故かふいに胸騒ぎのようなものを感じることが、気になって仕方がない。

⋯⋯このまま何も無ければいいが。

折角手に入れたルイの平穏を壊すような真似は流石に許容はしない。

そんな事になれば、友人として、兄代わりとして手を貸してやらないこともない⋯⋯かもな。

そんな柄にもないことを考えるぐらいには、ルイとラシェル嬢が幸せに結ばれる未来を、俺も願っているらしい。