軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52

「お嬢様!とてもお似合いです」

鏡に映るのは、真っ白なドレスを着た私の姿。

そしてサラは私の髪を纏めて、最後に花を髪に刺すと、鏡越しに嬉しそうに目を細めた。

ついにこの日が来た。

デビュタントの日。

とは言っても私にとっては二回目だ。

だがその事実を知っているのは私だけだし、本来であれば去年済んでいたはずだった。

そして一年ずれたからであるのか、私の今着ているデビュタントのドレスも前とは違うものだ。

今回のドレスも前回同様に殿下からプレゼントされたものだ。

婚約者がいる女性は、婚約者から贈られたものをデビュタントで着ることが多いと聞く。

良好な関係をアピールするためにも良いのだろう。

前回とは色々と変化していることが多い。

⋯⋯だが、同じ人物に贈られたものであるにも関わらず、こんなにも違うドレスが届くということに驚いた。

前回はもっと流行りに忠実なもの。

そう、両肩がしっかりと出たビスチェタイプのプリンセスラインだった。

腰元に大きなリボンが付いており、十代の女性に人気があるタイプのものだ。

それが、今回は首元から肩、そして手の甲までレースで覆われ、そして流行りとは違うAラインのドレス。

身体のラインに添ったシンプルな作りであるが、レースがあるからこそシンプル過ぎず、女性らしさと上品さを出してくれている。

そして、ドレスの裾から腰にかけての金色の刺繍と所々に散りばめられた小さなブルーダイアモンド。それが光に反射してキラキラと反射し、白いドレスと合わさって輝くように光り、美しく感じる。

緩くカーブした黒髪はサラによってアップに纏めており、大きな白いダリアで飾られている。

鏡の中の自分は、いつものキツイ表情が幾分は柔らかく見える気がする。

「流石は殿下ですね、ここまでお嬢様の美しさを引き出すドレスを贈ってくださるとは⋯⋯。本当に感動してしまいます」

「本当に自分が自分でないみたいね⋯⋯」

「これはもう、今日でドレスの流行りが変わってしまうのではないでしょうか」

「ふふっ、それは言い過ぎよ。でも本当に腕の良いデザイナーに頼んでくれたのね。私も見たこともないぐらい素敵なドレスで⋯⋯本当に泣きそうになってしまうぐらい嬉しいわ。

もちろん、髪型もメイクもサラの腕も良いからよ」

「ありがとうございます。最近のお嬢様は柔らかい雰囲気と凛とした強さがありますから。

お嬢様の輝きを最大限に引き出すことこそ、私の務めです」

サラはそう言うと嬉しそうに顔を綻ばせてニッコリと笑う。つられるように私も微笑む。

「殿下に会ったらお礼を伝えなければいけないわね」

「殿下もお嬢様の姿を見るのを楽しみにしているかと」

「そう⋯⋯かしら。

そうだと嬉しいわね」

⋯⋯殿下は何と言ってくれるだろうか。

似合うといってくれるだろうか。

殿下が贈ってくれたドレスではあるが、殿下はとても忙しい人だ。

実際にはデザイナーに頼んでいるのだから、完成形がどんなものであるかは知らないとは思う。

お茶会でもご婦人方が『ドレスを贈ってはくれてもどのようなものかは把握していないもの。でもそれを悟られないようにすることが、殿方の技量よ』と言っていた。

そして前回の殿下だって、デビュタントの私の姿を見て『きっと似合うと思っていたよ』と優しく微笑んでくれた。もちろん義務的な笑顔だが。

それでも、当時の私は殿下にドレスを贈られたこと、そして褒めて貰えたことに舞い上がっていた。

だからこそ、この金色の刺繍もブルーダイアモンドも、殿下を想像はさせるがそれはデザイナーが考えたことなのかもしれない。

だが、恥ずかしくもあるが⋯⋯どこか殿下を近くに感じ、殿下の色合いを纏っていることに嬉しさを感じる。

そして視界にその色が入り込むだけで、彼の優しく甘い笑みを思い出してしまう。

どこか浮かれたような気持ちで、頬が緩んでしまう。

⋯⋯こんなこと、殿下にはとても言えないわね。

殿下のことを考えてつい照れ笑いのようになってしまうところで、私の背後で後片付けをしていたサラが振り返った。

「では、お嬢様行きましょうか」

「えぇ」

サラに手を支えられながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

すると、「ニャー」という鳴き声と共に支度の間、ずっと良い子で私を眺めていたクロが近づいてきた。

少し腰を屈めてクロの頭を撫でると、クロは気持ち良さそうに目を細める。

そんなクロを見ると、心が軽くなるのを感じる。

「行ってくるわね」

そうクロに対して小さく言うと、「ニャー」とクロもそれに答えてくれるように鳴いた。

きっと《頑張って来い》と言ってくれているのね。

サラと部屋を出て、広間で待つ両親のもとへと行くとお父様とお母様二人とも目尻を下げ、とても褒めてくれた。お母様に至っては、涙を滲ませて「とても綺麗ね」と何度も言うと、ハンカチで目を押さえていた。

社交界デビューせず床に伏せっていたこともあり、きっとお母様にとってもこの日が特別なものであるのかもしれない。

そのお母様の涙に私までもらい泣きのように目元が熱くなる。

そんな様子をお父様が優しく微笑んでくれる。

こんな瞬間がもう一度迎えられた。

それがどんなに幸せなことなのだろうか。

二人へもう一度視線を向けると、お父様もお母様もそれに応えるかのように温かな微笑みを浮かべてくれた。

両親の優しさに、愛に、背中を押される気がする。

ポカポカと胸に温かいものが広がり、優しさに満たされるかのようだ。

そしてその和やかな雰囲気のまま三人で馬車に乗り込んだ。

合図と共に馬車がゆっくりと侯爵邸を出発する。

窓からは、サラを含めて使用人が数名見送ってくれている。

さぁ、二度目のデビュタント。

王宮へ向かいましょう。