軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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殿下と私は職員室へと向かった。

その際殿下からまだ校舎内の構造が分からないだろうからと校内の案内を申し出てくれた。

⋯⋯ごめんなさい。知ってます。

なんて勿論言えるはずもない。

それと無く遠慮してみたが、若干落ち込んだように肩を落として「浮かれているのは私だけだな」と捨てられた子犬のような瞳で言われてしまった。

その顔に、つい「殿下の迷惑にならないようであれば⋯⋯」と苦笑しながら頷いてしまった。

その答えに殿下はパッと表情を明るくし「では放課後またラシェルの教室に迎えにいくよ」と微笑んでくれた。

その後もなかなか自分の教室へと帰らない殿下に、教室に行かなくてもいいのだろうかと首を傾げる。

そこへ痺れを切らしたように迎えにきたシリルに、殿下は強引に引き摺られるように連れていかれた。

最後まで殿下は何か言っていたようだが、とりあえず微笑んで見送った。

すると、先程までの様子を黙って見ていた男性が「噂は当てにならないものだなー」としみじみと呟いた。

この声の主は、先程殿下に紹介された私の担任教師のユーイング先生である。ちなみに、前回の二年時も担任であった。

大型犬のように親しみのある笑顔を振り撒き、オレンジ色の短髪は所々ピョンピョンと跳ねている。

そんなユーイング先生はとても友好的なお日様のような笑顔がよく似合う。年も二十代後半と若いこともあり、生徒にとても人気のある先生だ。

そのユーイング先生が頭を掻きながら、気まずそうに視線を逸らしながら「あー、言わなきゃだよな」と後ろを向きながら口籠る。

どうしたのだろう、とじっと見つめると、先生は真面目な顔で私の方へ振り返った。

「最初に伝えなければいけないことがあるんだ」

「はい、何でしょう」

「俺は男爵家の人間ではあるけど、教師は誰であっても生徒は平等に扱うことになる。だから君が王太子殿下の婚約者とか侯爵家の令嬢だからと言って態度を変えることは無いと思ってほしい」

「えぇ、もちろんです。これからよろしくお願いします」

私がユーイング先生に頭を下げたことに先生は驚いたように目を丸くする。

教師の中には下位貴族や平民もいる。だが学園内では、教師の立場の方が高位貴族の子息令嬢よりも上になる。

前回はその事実に不満を持ったが、今は当たり前だと思う。

この学園は今後の国を支える人材を育てる環境だ。

ということは、ここの教師はかなり優秀でなければならない。

その為教師は能力を買われてここにいる。

そして、魔術師団や騎士団では実力主義だ。

つまりは、この学園は平等を謳う実力主義の縮図である。

とはいえ生徒間では、暗黙の了解で身分を尊重している。一定のマナーを学ぶことは今後の社交界で重要となる。

特に令嬢達は実力主義とは関係のない所にいるため、身分はかなり重要と言えるだろう。

そこを履き違えると、今後学園を卒業してからが大変なことになる。

「では早速教室に向かおうか。君は一年生をスキップしているから、学園についても分からないことも多いだろう。

何かあったら俺に言ってほしい」

「はい。ありがとうございます」

ユーイング先生と共に連れ添って歩いた先には《2-A》の札が見える。

あぁ、やはりクラスは変わらないのね。

クラスは一学年に五つに分かれている為、もしかしたら別のクラスになるかもしれないと期待していた。

だがそうもいかないらしい。

私がこのクラスになるという事実は変わることがないのか。

ついユーイング先生に見えない所で、こっそりとため息を吐く。

そして、先生がドアを開けて入室していく後ろを私も着いていく。

教壇の横に立つと、生徒たちが一斉に私へと視線を向けるのを感じる。恐る恐る教室内を見渡すと、見知った者たちの姿。

あぁ、やはり。

彼女たちもこのクラスなのね。

私の視線の先には、彼女たちの姿。

かつて友人と呼んでいた人たちが、席についてこちらを柔かに微笑みながら見ていた。

「今日からこのクラスに編入することになった生徒を紹介する」

「ラシェル・マルセルです。諸事情により、今年度から学園に通うことになりました。

親しくしていただけると嬉しいです」

「みんな、マルセル嬢がわからないことは色々教えてやってほしい」

生徒たちの顔には、分かりやすく好奇心や歓迎を示す人たちが多い。だが中には無関心の人もいる。

前回はあまりクラスメイトにも興味を持って接することはなかった。

だがこうして見ると、当たり前のようだけど沢山の生徒がいるのね。

「それじゃあ、席はー。委員長の隣が空いてるな」

「はい、どうぞ」

ユーイング先生に委員長と呼ばれたのは、手をサッと挙げた。赤茶色の長い髪を二つに分けて三つ編みにし、黒縁のメガネをかけた女生徒である。

あぁ、彼女は確か前回も委員長をしていたはず。

確かナタリア・アボット伯爵令嬢。

前回はちゃんと会話をしたことがなかった。それでも彼女の真面目で公平を好む性格は理解している。

「お隣失礼します。アボットさん⋯⋯と呼んで良いかしら」

「はい、マルセルさん」

「これからよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそ」

先生の指差した席へと移動すると、アボットさんはキリッとした目を若干緩めて柔かに挨拶をしてくれた。

そしてユーイング先生は私が席に着くのを見届けると、出席を取り始める。

続いて一学期の行事の説明をし、チャイムが鳴るのと共に朝のホームルームは終了した。

先生はこの後違うクラスの授業があるらしく、ホームルーム後は足早に教室を出て行った。

すると教室内は一斉にガヤガヤと話し声に溢れた。

チラチラと周囲から視線を感じるが、誰かが私に話しかける様子もなく少し遠巻きに見られているらしい。

その視線を追うように、目線を上げて辺りを見渡す。

すると皆一斉に顔を背けて視線を外される。

どうしよう⋯⋯。

この気まずさ。

よく考えてみたら、私はまず顔がキツくて怖そうなのかも。

しかも侯爵令嬢。ついでに殿下の婚約者という肩書までついてくる。

話しかけて地雷でも踏んだら危ない相手じゃない!

そうか。考えてみればすぐに分かる。

⋯⋯そりゃあ、誰も話しかけてはくれないわよね。

よくよく考えてみたら、どう友達を作ればいいのかも分からない。

⋯⋯友人作りは前途多難なのかもしれないわ。

チラッと隣のアボットさんを見る。

すると、彼女は既に次の授業の教科書を出して予習を始めている。

少しだけ⋯⋯話しかけてみてもいいかしら。

あっ! そうだ、次の授業の質問をしてみたらいいのかもしれない。

ドキドキしながら、『アボットさん』と呼びかけようと口を開けた。

その時。

「お久しぶりです、ラシェル様」

私の目の前には、かつての友人。

カトリーナ・ヒギンズ侯爵令嬢がニッコリと微笑んで立っていた。