軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-29

「っ……ラシェル! 大丈夫か!」

ガタガタと震えはじめた私は、きっと顔面蒼白になっているのだろう。今の私は恐怖でいっぱいだった。

――あぁ、知られてしまった。

聡明なルイ様にとって少ない情報であっても、私の現状について気がついてしまったのだろう。

闇の精霊の力を知った時、ルイ様は何かに気づいた節があった。それでも私に何かを尋ねようとはしなかった。

それでも、今回のことで多々あった疑問点の点と点が線で結ばれただろう。

そして知ったはずだ。私がなぜ魔力を失ったのか。なぜ闇の精霊王の加護を受けることができたのか。

そして、一番誰よりも知られたくなかった相手に、私の醜い過去を知られてしまった。周囲に言われるがままに傲慢に振舞い、かつての聖女を害した私の過去を。

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい」

「謝らなくていい。怖がらなくていいんだ、ラシェル」

幻滅させてしまった。騙していたと激怒してもおかしくない。それなのに、ルイ様は目を細めて私に微笑んだ。

「君がどこからきたのか、何があったのか。それはラシェルがもし話したいと思うのであれば、いつでも教えて欲しい。でも、無理に聞きだしたいとは思わないよ」

「ルイ様……それは、さすがに私に都合が良過ぎます。私はあなたに大切なことを黙っていました。偽っていました」

「……ラシェル、私はそうは思わないよ。私が見てきたラシェルは、いつだって真っすぐで諦め知らずで、前だけを見つめて進む女性だ。そこに偽りなんてない」

ルイ様は、壁に手をついて私を真っ直ぐ見つめた。蒼色の瞳に吸い込まれるように目を逸らすことができない。

「君と過ごす日々がなければ、私は今も偏った情報のみで自分の全てが正しいと思い込むような欠陥だらけの人間だった。……ラシェル、間違いなく君が私を変えてくれたんだ」

「ルイ様……」

私だってそう。いつだってルイ様が背中を押してくれなければ、私の視野は狭いままだった。知らないことだらけだった私に、世界の広さを教えてくれたのはルイ様に他ならない。

「私が今いる場所は、もしかすると私が辿るべき未来だったのかもしれない。……君を失ったまま淡々と過ごし、犯人探しさえ後回し。そんな人間だったのかもしれない。そう思うと、自分が恐ろしく思う」

ルイ様は自分の手を見つめて、ポツリと呟いた。

時間を遡る前の殿下と私は関係性が良好だったとはとても言えない。お互い表面でしか相手を見なかった。知ろうともしなかった。

「……私が作った未来なのです」

「ラシェルだけではない。ラシェルが魔力を失うことがなければ、私は君を深く知ろうともしなかったかもしれない。……選択次第でこんなにも失うものが大きいのだな」

ルイ様の言葉に、ズキッと胸が軋む。

「選択次第……本当にその通りですね。私は愚かなことに、与えられる全てを当然と思い、自分がしなければいけないことも何も見えていませんでした」

失わなければ私は何も気づくことがなかった。

私を愛してくれる人の存在、自分を陥れようとする人間。そして、自分の行動、発言の重みも。

「ラシェル、ごめん。君は恐怖と決意を抱えてここまできたんだな。本当によく頑張ったんだね」

「ルイ様……そんな……私はただ……」

「ありがとう、ラシェル」

ルイ様の言葉に、時を遡ってからの日々を思い出し、様々な想いが溢れ出て胸が熱くなる。私が進んできた道が間違っていなかったと言ってくれているかのようなルイ様の表情は、とても優しく温かいものだった。

「すぐにラシェルの元に戻る術を見つけ出して、一刻も早く迎えに行くよ。……だから、泣かないで」

――私……いつの間に涙が……。

頬に手を当てると、知らぬうちに伝っていた涙で手が濡れた。

「今の私は、君の涙を拭うことさえできない。目の前にラシェルがいるのに、何もできないなんてな。本当にもどかしいよ」

ルイ様は私のほうへと伸ばした手を切なげに引っ込めると、固く握った拳をコツンと壁に打ち付けた。

「どうか忘れないで欲しい。離れていようが、私の想いはラシェルと共にある」

「えぇ、私も同じ想いです」

ルイ様が寂しそうに微笑み、視線を足元へと移す。その視線を辿るように私も目線を下げると、そこには今にも砂が全て零れ落ちてしまいそうな砂時計があった。

ハッとして顔を上げると、「もう時間か……」と柔らかい笑顔を浮かべながらルイ様はひとつ頷いた。

「ルイ様……ルイ様、どうして……消えてしまう」

「大丈夫だよ、ラシェル。そんな悲しそうな顔をされたら、今すぐ君を抱き締めたくて仕方がなくなってしまう」

「ルイ様! 私が……すぐにルイ様を見つけてみせます」

「いや、これは私の勝負だ。必ず精霊王が納得する形で君を堂々と迎えに行くから。必ず……だか……ら……まっ……て」

「ルイ様! ルイ様! 待って、もう少し……お願い」

先程まで透明だった壁は徐々に強い光を放ち、徐々にルイ様の姿を隠した。

光は段々と小さくなり、元の青い光へと戻る。

この広い空間に、ルイ様の名を呼ぶ私の悲痛な声だけが響き渡った。