軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「つまり魔力が戻った、ということなのだな?」

「……はい」

「しかも、闇の精霊王から加護を与えられていた、と」

森から帰ったあと、私と殿下、そしてテオドール様はミリシエ領主館の応接間に移動した。

先程まで私に起こっていたことを彼らに私から説明していたのだ。

殿下は、私の説明が一通り終わると、ポカンとした表情のまま「驚いたな」と独り言のように呟き、大きく息を吐いた。

テオドール様は私が精霊の地から帰ってきた時にはおおよそのことを把握していたのか、私の説明に静かに頷くだけであった。

「これから、どのようにすれば良いのか。私も混乱してしまって……」

一通り説明が終わったあと、困惑する私に、隣に座る殿下が柔らかい表情で笑みを向けてくれた。そして、私の髪を一筋掬うとそこに口付けをする。

まるでおとぎ話の挿絵のような殿下のその姿に、思わず胸が高鳴る。

だが、殿下はそんな私の心情など気づきもしないかのように私に心からの柔らかい微笑みを浮かべた。

「ラシェル、良かったな」

「え?」

――良かった?

「魔力が戻ったのはラシェルが魔力がなかった状態から諦めずに、ここまで頑張ったからだ」

「殿下……私ひとりではありません。サラやテオドール様、それに何より殿下……あなたのお陰です」

「ラシェル……本当に、君は私を浮かれさせるのがうまいな」

殿下は私の髪を優しく丁寧に一撫ですると、私の頬に手を添えて私の顔を覗き込むように顔を寄せた。

殿下は全ての説明をしていない私に対して、それ以上聞き出そうとはしなかった。それになにより、それに気がついていて尚、私を尊重してくれ、また心から想ってくれる。その物言いが何より胸に沁みる。

「それにしても、闇の加護か。つまりは、ラシェルは闇の聖女になるということだな」

「闇の聖女、ね。ラシェル嬢が精霊王から聞いた話では、闇の精霊は隣国に暮らしていたということだよな」

「はい、そう仰っていました」

テオドール様の言葉に私は肯定すると、テオドール様は深く考え込むように、「そうか」と呟いたきりしばらく黙り込んだ後、また口を開く。

「つまりは、隣国には闇の加護を持っていた人物がいる可能性があるな」

「隣国、か。私の母である正妃も隣国出身ではあるが、国交が復活してからもあの国は謎が多いし、隣国の王族も一癖も二癖もあるような奴らだからな」

「隣国に闇の精霊が存在するか……探ってみるか」

「私もそうしよう」

隣国……。

昔は同じ国であったらしいが、国が分かれてからは一切の交流を持たなかったらしい。それを先王が同盟を結び、陛下が隣国の王女を娶ったことで繋がりを持つようになったようだが、それでも隣国のことはなかなか知ることは難しいらしい。

謎が多い地であるため、隣国の元王女を母に持つ殿下であっても、隣国を探ることは難しいのかもしれない。

「それで、闇の力というのはどういうものなのか。ラシェル嬢はもう分かっている?」

「それが……精霊王からは私に力を戻せば自ずと分かると言われたままで……力は感じるのですが、使い方までは」

テオドール様の言葉に、私は視線を床へと下げる。

精霊王は、私に魔力を戻せば闇の力が何かということが分かると言っていたが、魔力が戻った今であっても、私には闇の力がどういうものかを把握することができていない。

「ラシェル、あまり気にしなくていい。隣国を知っていく内に闇の力を知ることに繋がる可能性だってある」

「殿下……ありがとうございます」

私の焦る気持ちを分かっているかのように、フォローしてくれる殿下の気遣いに心が軽くなる。

殿下の微笑みにほっと胸を撫で下ろしていると、クロが何やら口に咥えながら私の膝にピョンと登ってきた。

『ニャー』

クロは私が精霊王に精霊の地から出された時に一緒に戻ってきたのだが、それと共に前のように鳴き声しか私には理解できなくなってしまった。

精霊の地では、クロとおしゃべりができた為、寂しくはあるが、それも仕方がないのだろう。

「お花? しかも枯れているわね」

クロが口に咥えている花を受け取ると、それはどうやら枯れてしまったチューリップであった。しおれてしまって、しなっと花が下を向いてしまっている。

クロは私に花を渡すと、用事は済んだとばかりにまた床へと飛び降りて、テオドール様の足元にトコトコと移動した。

「花瓶に挿せば、少しは良いかしら」

折角綺麗な花なのだから、できる限り長く美しさを見ていたい。

そう思いながら、クロから受け取ったチューリップを両手で丁寧に持つ。

すると、不思議なことに私の手に渡ったチューリップの花は萎びていた状態からゆっくりと真っ直ぐに変化し、まさに今切ってきたかのような生き生きとした姿に戻ったのだ。

「なっ……」

「えっ!」

花の変化した姿に、驚きで思わず手から滑りそうになるのを殿下がすかさず私の手を支えるかのように握った。

「花が……」

これは幻なのだろうか。

しおれていた花が元に戻るなど、本当にあることなのだろうか……。信じられない気持ちのまま殿下へと顔を向けると、殿下も目を見開いてチューリップを凝視している。

テオドール様だけは、冷静に私の手元を見た後、クロと顔を見合わすようにクロを抱き上げた。クロは機嫌が良さそうにテオドール様に向かって『ニャ』と可愛らしく鳴いた。

そして口の端を上げながら笑みを浮かべると「なるほど」と呟く。

テオドール様は何か分かったということなのだろうか?

「黒猫ちゃんはあえてヒントを持ってきたらしいね」

「どういうことですか?」

「精霊王の説明だと不十分だったから、ラシェル嬢が自分で力を発現できるように、一番簡単な力の使い方を教えにきたというわけだろうな」

テオドール様の言葉からすると、今の力が闇の力ということなのだろう。

ということは……。

「では、闇の力……とは……でも、そんなことが?」

手に持つ花が僅かに震えてしまう。

でも、この力が本当にあるとしたら、闇の精霊王が私を過去に戻すことができたことも理解できる。

光の精霊王が私を見た時に『未来を変えたのか』と眉を顰めた後に、過去に遡ったことに気がついて面白がった表情をしていたのも、何となく理解できないことではない。

つまりは、未来を知ることは光の精霊王以外にはできない。

そして、過去へと時を戻すことは闇の精霊王にしかできない、ということなのだろう。

私が一つの結論に辿り着いた時、隣に座る殿下も同じように顎に手を当ててしばし考え込んだ後、ハッと顔を上げた。

「そうか。光の力とは時間を早める力。対する闇はその反対……時間を過去に戻す力、ということなのか」