軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107

「あなたは……」

突如現れた青年に困惑する。

戸惑う私を他所に青年は親しい間柄のように、にこやかな笑みを私に向けて、私の手を取り両手をブンブンと力強く振る。

『ようやく会えたな! いやー、こいつから話は聞いていたが、想像以上に来ないから。

つい過去まで見せちゃったじゃん』

「えっと、あの……」

『あぁ、礼はいいって。サービスってことで。ほら、こうやってようやく再会できたわけだし』

「再会? 以前どこかでお会いしたことがあったのでしょうか?」

話が全然読めない。

こいつ、というのは彼の口ぶりと視線からクロのことだろうから、クロから私の話を聞いていた、ということなのだろう。

だが、いつ? 何故?

青年の言葉に疑問を返すと、目の前の人物は親し気に握った手を離し、眉を顰めた。

『は?』

「え?」

『お前、まだ記憶戻ってないわけ?』

「記憶っていうのは?」

『あれだよ。俺がお前を生き返らせてやったときの条件だよ』

生き返らせる?

え?

この青年が、私を生き返らせた、と言った?

『なんだよ、ぬか喜びじゃん』

未だ理解ができない頭で真剣に考えてみるが、先程の言葉が頭の中でグルグルと駆け巡る。

青年は手を腰に当てると、不貞腐れたようにフンと顔を背けて、不機嫌さを露わにした。

だが、私はそんな彼を気に留めることもできずに、ただ絶句していた。

《俺がお前を生き返らせてやった》

確かに、目の前の人物はそう言った。

だとしたら、彼は……この人は一体何者?

混乱の中、口が渇くのを感じる。

きっと鏡を見たら、自分の目は極限まで開かれているのだろう。

それでも、うまく動かない頭と口を何とか動かす。

「私が生き返ったのはあなたの力なのですか?」

『え、そうだけど。あー、そこからか』

私の精一杯の問いかけに、青年は私をチラッと見た後、面倒臭そうに黒馬へと視線を向け、私と同じ黒髪を乱暴に掻いた。

『仕方ない。過去を見せてやる』

青年の言葉と共に、湖の水がポチャンと音をたてながら風に乗るように浮かぶ。

そしてその水は、巨大な布のように湖面から空にかけて大きく浮かび上がった。

そこに青年が何やら手から水目掛けて光を放った。

すると、信じられないことに、その水で出来た巨大な布は私の姿を映しだしたのだ。

「水に私の姿が! これは一体」

『スクリーンというやつらしい。光の娘……あー、聖女だっけ。あいつの過去を覗いた時に見つけた。これだと手っ取り早いからな』

スクリーン?

聞きなれない言葉ではあるが、それよりもそのスクリーンとやらに映る私の状態が信じられずに、ただ茫然と見つめる。

――これは……今見ているのは私が死んだあとの私……ということ?

そのスクリーンとやらに映る私は、体の上に魔術師団の黒ローブを掛けられた状態であった。きっと、あのテオドール様のローブを外すと、ボロボロのドレスに胸から血を流しているのだろうと容易に想像がつく。

間違いなく、賊に襲われてテオドール様がやって来た後の私なのだろう。

ここまでは、意識を失った状態で見たものと一緒。

でも、その後誰かの声が聞こえた後に私はまた意識を失ったため、この後のことは知らない。

それを見せてくれる、ということなのだろうか。

ジッと隣に立つ謎の青年を見ると、『ほら、お前が覚えていない部分を見せてやるから、あれを見ておけ』と顎でその水でできたスクリーンとやらを指した。

冷や汗が背中を伝うが、それでも青年に言われるまま視線を水へと戻す。

すると、私が横たわった周囲に黒い靄が囲む。

と共に、現れたのはこの青年であった。

スクリーンの中の青年は興味深そうに私を眺めたあと、私のほうへと手をかざしながら瞼を閉じた。

数秒なのか、数分なのか。しばらく目を閉じていた青年が面白そうに口角を上げる。

『あれは、お前の過去を見ていたんだよ』

「そのようなことが可能なのですか⁉」

『俺はね』

私の隣に立つ青年から、補足のように説明が入る。

だが想像もできないことが次々に起きていて、混乱中の私にはただ青年とスクリーンを何度も交互に見るほかなかった。

『ほら、次がいいとこ』

その青年の言葉にスクリーンへと視線を注意深く向ける。

「そんな……」

すると、信じられないことに死んでいた筈の私の体から、幽霊のような白い靄がかかりながら空に浮いた私が出てきたのだ。

『あれは、お前の魂みたいなもん、かな』

「魂……あれが死後の私?」

『そっ』

その死後の私は浮かびながら周囲を眺めると、サラの元へと移動し、透けた体でサラを抱き締めながらシクシクと泣いた。

自分の筈なのに、覚えていない。

それでも、もう一人の私の心からの痛みが私の胸に響いてくるようで、苦しくなる。

『悲しいか』

そう問いかけたのは、スクリーンの中の青年であった。

その声に泣きながらサラに抱き着く私が顔を上げる。

《悲しい》

『何故?』

《みんなを傷つけてしまった。家族を、聖女を、御者を、サラを》

サラの体から離れようとしない私に、青年は楽しそうに笑う。

『お前の魔力は面白いな。闇の力がとんでもなく大きい。……久々に遊んでみる、か』

ポツリと呟いた青年に幽霊の私は気がついていないのか、顔を上げることはない。

だが、次に青年が問いかけた言葉が、空気を変えた。

『生きたいか』

《死にたくない。怖い。生きたい》

幽霊の私が顔を俯かせたまま、ブルブルと震える体を自分の両手で抱き締める。

『そうか。その生への執着心は嫌いじゃない。

その女が大切か?』

《サラ、大切……私のせいで死なせてしまった》

『そいつが死なないとしたら、お前は何を差し出す?』

《サラが……死なない……?》

青年の言葉に、幽霊の私は顔を上げた。

顔色も全く分からないような顔で、青年を見つめると、青年へと近づき必死に詰め寄った。

《私を! 私のせいでこうなってしまったの。彼女は悪くない! 私のせい……。私、私をあげるから、サラと御者を助けて》

黙って聞いていた青年は、私の返答にニヤリと笑う。

その笑みは、ただ面白そうなオモチャを見つけた子供のように悪意もなく、純粋に楽しそうな笑みであった。

『それが本心かどうか、観察するか。

よし、お前にやり直すチャンスを与えてやる』

《やり直すチャンス?》

『このチャンスを生かすも殺すもお前自身。さぁ、彷徨える魂。

過去に戻り、あがいてみよ』

青年がそう私へと声を掛けながら手をかざすと、嵐のような暴風が森を襲う。

木々が揺れて細かい枝が葉っぱと共に、酷い音をたてながら舞う。

と共に、スクリーンはプツン、と暗闇に変わった。

そして、湖の水が静かに湖面へと吸い込まれるように消えていった。

――今のは……。

信じられない思いで、今は消えてしまったスクリーンがあった空を見つめる。

『分かったか? つまり、俺がお前を生き返らせてやったんだって』

その声にハッと隣へと視線を移す。

すると、楽しそうにニコニコ笑いながら、キラキラと輝く瞳で私を見る青年の姿があった。

「つまり……あなた様は……」

こんな……人を生き返らせることができるようなこと……。

本当に奇跡ではなく、意図して行える人物ができるなんて……。

いや、こんなこと人間ができるはずがない。

そんな物語のようなこと。

一体誰ができるというのだろうか。

できるとするならば圧倒的な力の持ち主だけだろう。

例えば……そう。一度、精霊召喚の儀で感じたような圧倒的な存在。

だが、この人……いや、この精霊は光の精霊王ではない。

ということは、このお方は……。

『そう。俺が闇の精霊王』

何でもないことのように言った青年……もとい精霊王は、八重歯を覗かせながら、私に明るい笑みを見せた。