軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第54話「元魔王、旅に出る」

オデットの父がやったことは、『魔術ギルド』で大問題になった。

彼はテレーズ=ミシュル 伯爵令嬢(はくしゃくれいじょう) を使って、自分の娘を危険な目に遭わせた。しかも、研修生のオリエンテーション中に。

『魔術ギルド』の上位魔術師が怒るのも当然だ。

結局、オデットの父は『魔術ギルド』に召喚されることになった。

アイリス王女と、高位の魔術師であるカイン王子と、将軍バーンズの連名で。

手紙を受け取ったスレイ公爵は、あわてて使いの者をよこした。

本人は体調不良で欠席だった。

嘘じゃないらしい。もっとも、体調不良の原因は、自分の悪事がバレたことらしいけど。

スレイ公爵家の使者は『魔術ギルド』の上級魔術師の前で、公爵直筆の書状を示した。

それは、二度とオデットの邪魔をしないことを誓う内容で──彼女が自ら『魔術ギルド』を辞めるまで、自由を認めるというものだった。

テレーズ=ミシュル伯爵令嬢は、軽い処分で済んだ。

オデットにとっては、彼女も父親の被害者だったからだ。テレーズは数週間の謹慎のあと、『魔術ギルド』に戻ることになるそうだ。

スレイ公爵は、さすがに謹慎処分にはならなかったが……社交界には一切現れなくなったそうだ。

他の公爵家に、自分がしたことがバレたのがその理由らしい。

……まぁ、しょうがないよな。

逆に、オデットの名声は上がった。

父に逆らってまで、魔術師の道を貫き通す彼女の強さに、あこがれる者も現れたらしい。

「……女性魔術師からラブレターをもらっても困るのですけれど」って、照れくさそうに言ってた。

とにかく、問題が解決してなによりだ。

そして、事件が落ち着いて数日後。

俺とオデットは、乗合馬車で王都を出た。

目指すは王都の北。トーリアス国境伯の領地にある、フィーラ村の跡地だ。

俺の予想が正しければ、そこにライルが持ち逃げした『 王騎(ロード) 』、『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』があるはずだ。

「目的の『村』までは馬車を乗り継いで3日。船で1日。徒歩で1日といったところですわ」

ここは、乗合馬車の中。

俺とオデットは地図を見ながら、旅のルートを再確認してる。

王都の北は、王族の直轄領になっている。

そこをさらに進むと内海がある。

周辺の町の交易の拠点で、海産物もとれる豊かな町だ。

その内海を渡って北に向かうと、トーリアスという伯爵が治める土地になる。

山岳地帯で、今は隣国と国境を接している。

その山岳地帯の先にあったのが『フィーラ村』だ。

350年くらい前も、俺は似たようなルートで『フィーラ村』に流れ着いたっけ。

懐かしいな。

当時は歩きと、乗合馬車で移動していた。

船は苦手だった。

船から落ちたら、顔を水につけることになるからなぁ。最悪だ。

今回も、できれば船は使いたくないんだが……難しいだろうな。

「目的の『村』までは5日ですわね」

「意外と時間がかかるな」

「これだって、スムーズに進めた場合ですわよ。途中でなにかあればもっと時間がかかります。わたくしたちは、街道の通りに進むしかないのですもの」

「……しょうがないか」

「今日はみっつめの町で休むことにいたしましょう。初日は、できるだけ進んでおきたいですから」

地図から顔を上げて、オデットは言った。

みっつめの町か。今からだと、夕方くらいに着くな。

それから休んで、また翌朝出発。それも悪くないけれど……。

「提案がある」

「なんですの?」

「ふたつめの村で降りて、早めに休まないか?」

「いいですけれど。進むのが遅くなりますわよ?」

「いや、逆に早くなるはずだ。俺に考えがある」

「……わかりましたわ」

オデットは納得したようにうなずいた。

俺は馬車の中を見回した。

今世で乗合馬車は初めてだが、前世の時代とあまり変わらない。

乗ってるのは商人や旅人。冒険者風のひとたちだ。

冒険者風の人たちは、興味深そうに俺たちを見てる。

俺は男爵領にいた頃の普段着だけど、オデットはローブを着てるからな。

王都近くだと『魔術ギルド』の関係者だとすぐわかる。

もう少し王都を離れたら、ただの冒険者で押し通すつもりだけど。

「……『魔術ギルド』の方かな?」

冒険者風の女性が声をかけてきた。

背中に両刃の大剣をかついだ、戦士風の人だ。

「え、は。はい。その」

「はい。俺たちは『魔術ギルド』の研修生です」

なんでキョドってるんだよ。オデット。現実処理能力はどうした。

「そっか。そっちのギルドでは、魔物の素材集めのために冒険者みたいなことをやるって聞いたこともあるけど、君たちも?」

「そんな感じです。俺が欲しいのは……ちょっと大きめの素材ですけど」

「気をつけなよ。王都の城壁の外には、君たちの想像もつかない魔物がいる」

冒険者の女性は、唇をゆがめて笑った。

「王都のダンジョンを攻略したくらいで強くなったつもりでいると、痛い目を見るよ?」

「──な?」

「想像もつかない魔物ですか」

俺はとりあえずオデットの口を押さえてから、聞いた。

「具体的には?」

「……え?」

「具体的には、どんな魔物がいるんですか?」

「えー、っと。そうだなぁ」

……なんで明後日の方向を見てるんだ。この冒険者は。

「ね、ねぇ。商人さん。この先にはどんな魔物がいたっけ?」

「……人任せかよ」

「冒険者にとって情報収集は基本だよ。ですよね。商人さん」

「…………あ、ああ」

冒険者の女性、にらまれてる。

商人さんは荷物を抱えて寝てたからな。めちゃくちゃ不機嫌そうだ。

「……商人仲間からは、ヨロイの魔物の話を聞いてる。まぁ、ただのうわさだが」

「ヨロイの魔物?」

「ああ。大人よりも大きいヨロイの魔物の集団が、夜な夜な荒野をさまようんだそうだ。話してくれたやつも、影しか見ていないそうだが」

「面白いね。ぜひ、私も討伐しに行きたいよ」

「王族おかかえの戦士と魔術師たちが調査に行ってるそうだ。あんたの出番はないよ。冒険者さん」

そう言ってまた、商人さんは眠ってしまった。

「……ヨロイの魔物。『 王騎(ロード) 』を思い出すな」

「現れるのはヨロイの魔物の集団でしょう? 『王騎』にしては多過ぎですわ……ふわぁ」

「眠そうだな。オデット」

「すいません。身動きできないと退屈なもので……ふわ」

「眠ってていい。目的地についたら起こすよ」

「……いいんですの?」

「むしろ今のうちに眠っておいた方がいいと思う」

「…………お言葉に甘えますわ」

そう言ってオデットは目を閉じた。

冒険者の女性は、別の相手を見つけたのか、小声で話をしている。

俺はぼんやりと、窓の外を見ていた。

空は薄曇り。この分だと夜も、月は雲に隠れて見えないはず。雨さえ降らなければいいんだが。

俺の荷物の中には、コウモリのディックと、数匹のコウモリが隠れてる。

王都にはニールとコウモリ軍団を残しておいたから、アイリスの護衛には充分だ。

マーサには『シルバー・ベイオフォックス』のレミーがついてるから問題なし。早めに帰るって約束したからな。最速で目的地に向かおう。

俺は荷物に身体を預けて、力を抜いた。

……昼間はできるだけ、体力を温存しておこう。

昼過ぎ、俺たちは乗合馬車を降りて、宿についた。

それから宿で一眠りして、起きたのは夜明け前。

魔術の訓練をするからって理由をつけてチェックアウトして、俺とオデットは外に出た。

「……本気で、こんな時間に進むつもりですの?」

「できるだけ人目につきたくないからな」

「わかりました。今回の旅はユウキに付き合うと決めております。信じましょう」

「ありがとう。じゃあオデットは、俺の背中にくっついてくれ」

「……はぁ。わかりましたわ」

オデットは素直に後ろにまわり、俺の背中におぶさった。

「もうちょっとしっかりと。ぎゅ、っと」

「……こんな感じですの?」

「あとは、落ちないように紐でしばって、と」

準備完了だ。

夜明け前だから、宿のまわりに人気はない。

俺の移動ルートに誰もいないことは、ディックが確認済みだ。

まずは、俺の両手に『 身体強化(ブーステッド) 』の紋章を描いて──

それから、助走できる平らな場所に移動して──

オデットをしっかりかついだまま──走る!

「──ちょ!? ユウキ!? 速──」

「『飛行』スキルを起動して、跳んで──屋根を蹴って──っ」

「────ぁ」

俺は『 身体強化(ブーステッド) 』2倍で助走を付けて、そのままジャンプ。

手近な家の屋根を足場に、さらに跳ぶ。

そうして充分な高度を取って、町の城壁を蹴り、さらに上昇。

風に乗って、飛んだ。

「────わ」

背中でオデットが声をあげる。

恐がってるのかと思ったけど──違った。

「す、すごい。すごいですわ! ユウキ!!」

俺たちの目の前に広がるのは、広い広い草原。

その上をまっすぐ、俺とオデットは飛んでいる。

月は雲の向こうで、ぼんやりと光ってる。

これなら俺たちの姿が人目につくこともないだろう。

もっとも夜明け前に、草原のど真ん中に突っ立ってる人もいないだろうけど。

俺は両手の 紋章(もんしょう) を見た。

『 身体強化(ブーステッド) 』の『古代魔術』を発動してから20分以上経つけれど、魔術はまだ効果を発揮してる。使うたびに持続時間が長くなっているようだ。俺もレベルアップしてるのかもな。

『ごしゅじんー』

「ディック。ついてこれるか?」

『なんとかできますー』

「このまま草原をショートカットする。夜が明けるまでには、ふたつ先の町に着けるはずだ。1日分くらいの距離を稼げる」

「そ、そうですわね。は、はははははっ!」

オデットは風になびく金色の髪を押さえて、笑ってる。

「すごい。飛んでますわーっ」

「こわくないのか?」

「現実感が戻ったら、こわくなると思いますわ。でも、今は旅の最中で……まるで夢の中にいるみたいですもの」

「そりゃよかった」

「これなら速いですわ! あなたの村まで、3日もかかりませんわよ!!」

「高度が落ちきったら着地する。そのまま走って、また飛ぶからな。しっかり捕まってて」

「はい!」

疲れたら着地して。空中で何度も『 身体強化(ブーステッド) 』の紋章を書き直して──

夜が明けるまで、俺とオデットは空を飛び続けたのだった。