軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第159話「元魔王とゴーレム、家族の手がかりを探す」

アイリスの祖母──レイチェルの墓の場所は、アイリスから聞いている。

場所は、山の近くにある共同墓地。

ジェイス 侯爵(こうしゃく) の屋敷からは、馬車で数時間の距離だ。

『飛行』スキルを使えば、1時間半でたどりつける。

「人目が少ないから気楽に飛べるな」

夜空を飛びながら、俺は地上を見下ろしていた。

侯爵領(こうしゃくりょう) は、王都ほどは発展していない。

町の 灯(あか) りも少ない。町を囲む 防壁(ぼうへき) も低い。

隠れて飛ぶには、ちょうどいい場所だ。

兵士の目を盗んで城壁を越えると、広い農地が広がっていた。

人目を気にする必要もなくなったので高度を下げて、俺はまっすぐ、西へ向かう。

アイリスの祖母──レイチェルは、ジェイス侯爵領に住む庶民だった。

そんな彼女を、当時のジェイス侯爵が 見初(みそ) めたらしい。

その後、レイチェルは侯爵の側室として、侯爵家に入った。

侯爵は彼女を大切にしたそうだ。

彼女は、ずっと若い姿のままだった。

亡くなる直前でも、20代か30代だと思われていたらしい。

それでも、寿命はあった。

レイチェルは侯爵より少し早く亡くなった。

亡くなる前に彼女は、故郷に 葬(ほうむ) られたいと言い残した。

当時の侯爵は、彼女の願いを叶えた。

その半年後に、侯爵も亡くなってしまったようだけれど。

レイチェルがミーア──アリスの妹の子孫かどうかは、まだわからない。

間違いないとは思っているけれど、確信がない。

だから俺とアイリスは、ジェイス侯爵領に来たんだ。

ミーアとレイチェル、そして、アリスとの繋がりを確かめるために。

レイチェルがミーアの子孫なら、なにか手がかりを残しているかもしれない。

それを見つけるために、俺はゴーレムの『フィーラ』を連れてきた。

『フィーラ』はミーアと、直接会ってるからな。

彼女のことも詳しい。魔力を感知できる可能性もある。

前世の俺はミーアに会う前に死んじゃったからな。

アリスも、赤ん坊のミーアしか知らない。

ミーアについて調べるには『フィーラ』の力が必要だ。

彼を『エリュシオン』の地下で見つけられてよかった。本当に。

「ライルとレミリアの 消息(しょうそく) がわかったら、まずは墓参りだな」

俺は、ふたりをほめてやりたい。

『がんばったな』

『お前らは本当にすごいな』

『「グレイル商会」と合流できたよ。ありがとう』

『アリスのことは任せろ。命がけで、ちゃんと面倒を見るから』

──と。

次に、怒ってやりたい。

『無茶しやがって』

『俺は、お前たちが幸せでいれば、それでよかったんだ』

『それでも、お前たちは自慢の子どもたちだ』──って、これは違うか。

もちろん、こんなのは俺の自己満足だ。

死んでしまった人間がよろこぶわけじゃない。

そんなことはわかっている。

ディーン=ノスフェラトゥだったころも、俺はたくさんの子どもたちを見送ってきたのだから。

子守りをした子どもたちが、結婚して、老いて死んでいくのを、ずっと見て来た。

誰ひとり忘れたことはない。

顔も名前も、どんな人間だったかも、最後の言葉も、ひとつ残らず覚えてる。

── 不死の魔術師(俺) にできることなんて、それくらいだ。

「その俺に本気でついてこようとしたんだからな。アリスは」

本当に無茶をする。

きっと、ライルとレミリアの血筋だろうな。まったく。

「やれるだけのことはするよ。俺とアイリスがこの世界で、できるだけ長い時間、人間らしく生きて行けるように。オデットやマーサと一緒に生きられるように」

そんなことを考えながら、俺は空を飛び続けるのだった。

たどりついたのは、小さな村だった。

農地に沿うようにして、家が並んでいる。

家のまわりにあるのは、害獣避けの 柵(さく) だ。村の中央には街道があり、それはジェイス侯爵家の方に続いている。アイリスの祖母のレイチェルが侯爵に嫁いだあとで整備されたと、アイリスは言っていたっけ。

ここが、レイチェルの住んでいた村だ。

墓地は村はずれにあった。

まわりに人は……いないな。まぁ、夜だからな。

こんな時間に墓地を歩くのなんか、アンデッドくらいだろう。

「よっと」

俺は『飛行』スキルを解除。地上に降りる。

まわりを見ると……草 茫々(くさぼうぼう) だな。

地方の墓地なんてこんなもんか。

『フィーラ村』では、毎年決まった日に墓地の草むしりをやってたんだけどな。

というか、俺が草むしりをしてたら、いつの間にか村人たちもやるようになった。

最終的には『マイロード 主催(しゅさい) の草むしり大会』がはじまってた。

抜いた草を積み上げて、みんなでその高さを競っていたのも、いい思い出だ。

アイリスの祖母の墓のまわりは……うん、それなりにきれいだ。

王女殿下の祖母が眠る墓だからな。

村人たちも、 雑(ざつ) にはあつかえないんだろう。

「出て来い。『フィーラ』」

俺は『収納』の古代魔術を起動。

ゴーレムの『フィーラ』を呼びだす。

『上位者さまのお呼び出しに、お答えします』

空間がゆらいで、マフラーをつけたゴーレムが現れる。

彼はゴーレムの『フィーラ』。

『エリュシオン』の地下第5階層で見つけたものだ。

『フィーラ』は200年前、ミーアの護衛として仕えていた。

彼女の手がかりを知るには、彼の力が必要だ。

「力を貸してくれ。『フィーラ』」

俺は『フィーラ』を見下ろしながら、言った。

「ここにアイリスの祖母、レイチェルの墓がある。彼女はミーアの子孫かもしれないんだ」

『なるほどなのです』

「ただ、今のところはまだ可能性だけだ。それを確信に変えるために、これから調査を行う。協力してくれ」

『承知、したです』

『フィーラ』はうなずいた。

「といっても、まずは墓参りが先だな」

俺は墓の前で手を合わせた。

ここに眠っているのがアイリスの祖母だということに代わりはない。

まずはあいさつをするべきだろう。

「ユウキ=グロッサリアはアイリス王女殿下の 護衛騎士(ごえいきし) として、力を尽くすことを約束します。どうか、見守っていてください」

『──ください』

墓には『レイチェル=アローラ』という名前と、生没年が 刻(きざ) まれている。

アイリスの祖母は、長生きしたらしい。いいことだ。

『文字の 筆跡(ひっせき) は、ミーアさまのものとは違うようなのです』

「だろうな。彫ったのはミーアでも、アイリスの祖母でもないんだから」

『となると、このお墓からミーアさまの手がかりを探すのは難しいのです』

「ああ、言い方が悪かったな」

『え?』

「お前に探して欲しいのは、ミーアの魔力だ」

俺は言った。

「お前はずっと、ミーアと一緒にいたんだろ? だったら、彼女の魔力がどんなものか、しっかり記憶してるんじゃないのか?」

『もちろんなのです。でも、上位者さま』

「なんだよ」

『無理があるのです。200年近く経っているのです。服や物についた魔力なんて、消えてると思うのです。見つかるはず、ないのです』

「そうかもしれない。でも、違うかもしれない」

『フィーラは、よくわからないのです』

「歩きながら説明する。ついてきてくれ」

俺はゴーレムの『フィーラ』と一緒に歩き出す。

レイチェルが村の墓地に埋葬されるのを望んだのは、ここから彼女の家が見下ろせるからだそうだ。

彼女は 侯爵家(こうしゃくけ) に嫁いだ後も、生まれた家を大切にしていたらしい。

子どものころ、家族と一緒に暮らした家を。

もしかしたら……そこにはミーアも住んでいたのかもしれない。

『田舎町ですねー。「エリュシオン」とは、全然違うです』

「そうだな」

『ミーアさまは、こんな田舎に住んでいたですか?』

「ミーアが住んでたかどうかは確定してない。ただ……ミーアを預かった貴族が、この場所を選んだ理由はわかる」

『教えてくださいー』

「ライルとレミリアが『聖域教会』の敵だったからだよ」

そして『聖域教会』の連中は、ミーアがふたりの子どもだと知っている。

だから、ミーアは姿を隠す必要があったのだろう。

「安全のためだな。賢いやり方だと思うよ」

『そうなのですか』

そう言った後で『フィーラ』は、思い出したように、

『そういえば、大事なのは魔力の話なのです。どうして上位者さまは、ミーアさまの魔力が残っていると思ったですか』

「あのな、『フィーラ』」

『はいなのです。上位者さま』

「俺の家族──フィーラ村のみんなは優秀だった」

『わかるのです』

「その中でもライルとレミリアは、特に優秀だった。天才と言ってもいい。まぁ、これは『グレイル商会』のローデリアの評価だけどな」

『そうなのです。でなければ「聖域教会」に勝てなかったですから』

「だよな」

俺はうなずいた。

「ミーアはそのふたりの娘だ。同じくらい賢かったんだと思う」

『もちろんなのです。「フィーラ」の主君なのですから、世界一すごいのです』

「そのミーアなら、転生した俺とアリスが、自分を探しにくることもわかってたと思う。そこで確認だが」

『はい』

「ミーアはレミリアから、青い石をもらっていなかったか?」

俺は隣を歩くゴーレムの『フィーラ』に、たずねた。

記憶をたどるように、『フィーラ』の目が点滅する。

『──はい。ミーアさまは母君にもらった青い石を、大事にされていたです』

数秒後『フィーラ』はそんな答えを返した。

予想通りだ。

『どうして上位者さまが、それをごぞんじなのですか?』

「その石は、俺がレミリアの結婚祝いとして 贈(おく) ったものだからだ」

『上位者さまが?』

「ああ。俺が山の中で探して 磨(みが) いて、純度を高めた『ラピリスの石』だよ」

以前……俺がまだグロッサリア家にいたとき、前世のできごとを、夢で見た。

その中で、俺はレミリアに『ラピリスの石』を渡していた。

ライルとレミリアの結婚祝いだった。

レミリアはそれを、娘のミーアに渡していたのだろう。

『────情報を検索します』

再び、『フィーラ』の目が点滅する。

『「ラピリスの石」。山で産出する結晶体。硬度A。 魔力蓄積(まりょくちくせき) 効果を持つ──』

「そうだ。『ラピリスの石』には、所有者の魔力を溜めておく性質がある。純度の高いものなら100年以上、魔力を溜めたまま、維持できる」

というか、研究材料に使ったことがあるからな。『ラピリスの石』は。

あれは本当に長時間、同じ魔力を維持できるんだ。

100年以上保つことは、俺が確認してる。

ただ、200年保つかどうかは、わからない。

保存状態と純度にもよるだろう。

レミリアの結婚祝いに贈ったものは、かなり気合いを入れて磨いたはずだが。

それでも200年だからな。9割方、魔力が霧散してる可能性もある。

「でも、お前ならミーアの魔力が1割でも残っていれば、探知できるだろう?」

『当然なのです』

『フィーラ』は金属製の胸を張った。

それから、『フィーラ』は首をかしげて、

『でも、不思議なのです。どうしてレミリアさまは、ミーアさまに石を託されたのでしょう? ご両親が魔力を込めた方が、上位者さまが見つけやすいですのに』

「……たぶん、ミーアの方が長く生きるからだろうな」

『ラピリスの石』の魔力がどれだけ保つかはわからない。

長い時間、魔力を維持するためには、長く生きる者が魔力を込め続けた方がいい。

そう思ってライルたちは、ミーアに『ラピリスの石』を 託(たく) したのだろう。

「ミーアの魔力ならアリスの魔力と似ているはずだ。俺なら見つけられると思ったんだろうな」

『なるほどなのです』

「いや……違うな。レミリアのことだから、ミーアに『ラピリスの石』をあげたかっただけかもしれない」

レミリアは天才肌だったからな。

ただ単純に、ミーアに『ラピリスの石』を受け継いで欲しかったのかもしれない。

ミーアは『ラピリスの石』を身につけ続けるだけでいい。

それだけで、石は俺やアリスへのメッセージになるのだから。

「と、いうわけだ。納得したか?」

『したのです!』

「それじゃ一緒に、ミーアの魔力を探してくれ」

『はい! フィーラが、主君の魔力を見逃すことなど、ありえないことなのです』

そう言って、俺たちは丘を下り始めた。

やがて、古びた家が見えてくる。

アイリスの祖母、レイチェルの生家だ。

レイチェルが嫁いだあと、彼女の家族は 侯爵家(こうしゃくけ) に近い場所に引っ越している。

けれどこの家はレイチェルの所有物として、ずっと残されていたらしい。

今はもう、誰も住んでいない。

手入れもされないまま、放置されている。

経年劣化(けいねんれっか) のせいか、壁も崩れはじめている。いずれは取り壊されて、なにもない土地になるのかもしれない。

その前に、来ることができてよかった。

ライルの家族が見ていた景色を、見ることができたからな。

「なるほど……俺はもう、レイチェルがミーアの子孫だと確信してるのか」

『そうなのですか?』

「なんとなくだけどな。俺はミーアがここで、ライルたちが迎えに来るのを待っていたような気がするんだ」

屋敷の庭には、大きな樹がある。

小さいころのライルが木登りするのによさそうな枝ぶりだ。

あいつはレミリアの気をひくために努力してたからなぁ。村一番の木登り名人をめざしてたんだ。前世の俺が『危ないから木登りは俺のいるときにしろ』って言ったのを覚えている。

おかげでライルの木登り練習に、毎回付き合うことになってしまったんだが。

地面には、レミリアが好きだった花が咲いている。

咳止(せきど) めに効く『リーダラの花』だ。マーサの母のメリーサの 治療(ちりょう) にも使ったことがある。

レミリアにとって、花は鑑賞用ではなく、実用品だったからな。

俺のところに何度も聞きに来てた。『この花はなにに効きますか』って。

研究熱心だったな。あいつは。

そんなレミリアだから、研究材料として『ラピリスの石』を贈ったんだが。

ミーアはふたりから、子どもの頃の話を聞いていたのだろう。

だからミーアは、両親の好きなものを庭に集めた。

そうして、ふたりが迎えに来るのを、待っていたのかもしれない。

「『フィーラ』」

『はい。上位者さま』

「たぶん、そこの木の根元だ。『ラピリスの石』は、そこに 埋(う) められている」

『どうしてわかるですか!?』

「ライルがレミリアに結婚を申し込んだのが、同じ種類の木の下だったからだよ」

『よ、よくわからないのです』

「とりあえず確認してみてくれ」

『……わかりました。見てみるです』

ゴーレムの『フィーラ』が、木の根元に近づく。

地面に顔を近づけて、すぐに、その目を光らせはじめる。

そして──

『あったです。ミーアさまの魔力が、ここにあるです!!』

「そっか」

『かすかですけど、感じるです。ミーアさまの魔力を宿したものが、この下に埋まっているです! 本当にあったです。ここに……』

──ゴーレムの『フィーラ』は目玉を点滅させながら、声をあげる。

アリスの妹のミーアは、ここにいた。

彼女はここで、ライルとレミリアが迎えに来るのを待っていたのだろう。

そして遠い未来、俺たちが来たときにわかるように、魔力を残していた。

俺がレミリアの結婚祝いに贈った、『ラピリスの石』を使って。

いつか、俺とアリスがここに来ると、信じて。

「遅くなってごめんな。ミーア」

できれば、お前の顔も見たかった。

村の守り神なのに、お前が生まれる前に死んじゃって、ごめん。

お前は、幸せだったか?

侯爵領(こうしゃくりょう) に来てからは、どんなふうに生きた?

ライルとレミリアとは再会できたか?

「お前の顔を見たかったな。頭を、なでてやりたかった」

がんばったな。ミーア。

お前の残したものは見つけ出した。

ちゃんとアリスに渡すから、安心してくれ。

──ありがとう。

──俺が会えなかった『フィーラ村』の子、ミーア=カーマイン。

そうして、俺は『フィーラ』が待つ場所へと歩き出したのだった。