軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第139話「『古代魔術文明の遺跡』第5階層探索計画(準備編3)」

──ユウキ視点──

俺たちは通常ルートで『エリュシオン』の第2階層に来ていた。

コレットとの連携の訓練は、第1階層で済ませた。

第2階層に降りたのは、オデットとの合流前にすることがあったからだ。

「コウモリには『幻影』の『古代魔術』を見破れるってわかったからな。その確認をしておこう」

さっき、地下第1階層で、コレットと一緒に実験をした。

コレットは『闇』と『幻影』の古代魔術で、まわりの生き物の五感をごまかすことができる。

そうすることで、その場に誰もいないように見せかけることが可能だ。

それを破るには『身体強化』したコウモリ5体分の超音波が必要だった。

結構苦労した。

コレットが使う『幻影』の『古代魔術』はすごかった。

『幻影』で隠れてもらって、そこに『身体強化』したコウモリたちの超音波を当てたけれど……本当にかすかな違和感しかなかったらしい。

5体がかりで探って、やっとコレットが隠れていることがわかったんだ。

「……わ、わたし……『幻影』の『古代魔術』だけは得意ですから……」

コレットの『幻影』は、姉のイーゼッタに教えてもらったものらしい。

彼女には適性があったようで、姉のイーゼッタにも使えないレベルの『幻影』で姿を隠すことができるようになった。

そのとき、姉がほめてくれたのを、コレットは今でも覚えている。

「『幻影』の『古代魔術』は、それほど難しいものじゃないのです」

コレットは言った。

「ただ、わたしは適性があったようで……『幻影』の上位魔術の『虚空幻影』というものが使えたんです。いざというときはこれで身を守りなさいと言われていたんですけれど……」

「確かに、すごかったな」

「師匠はそれを破ってしまわれたではないですか!」

コレットは興奮した顔で言った。

彼女は『幻影』の『古代魔術』について、色々と教えてくれた。

『幻影』の『古代魔術』には自分と仲間の姿を消して、周囲に溶け込ませる能力がある。姿を隠す能力は高い。

一般人や初級の魔術師には、まず見破ることは不可能。

弱点は、持続時間が短いこと。

連続して姿を消し続けていられるのは、せいぜい数分。その間、術者は動けない。それは一緒に隠れている者も同じだ。動いた瞬間、『幻影』が解けてしまう。

術者は『幻影』に魔力を注ぎ続けなければいけないので、他の行動ができない。

使ったあとはクールダウンの時間が必要になる。

だから、探索には使いにくい。

そして、もうひとつの情報。

イーゼッタ=メメントは、メメント侯爵家に従う貴族たちに『幻影』の古代魔術を教えていた。

どうして使いにくい『古代魔術』を教えていたのか、コレットはずっと疑問に思っていたそうだ。

「師匠は、姉さまたちが……今回の探索でよくないことをしようとしていると……お考えなのですよね?」

「まぁ、推測だけどな」

証拠はなにもない。

ただ、気になる条件が揃っていただけだ。

メメント家が、借金までして貴族の支持を集めていたこと。

その貴族たちが、カイン王子を『魔術ギルド』のトップに──あるいは王位につけることを望んでいること。

『エリュシオン』地下第5階層には、いまだに誰も知らない『古代器物』や『古代魔術』がある可能性が高いこと。

それを手に入れた者が『魔術ギルド』で大きな力を持つこと。

地下第5階層には誰も入ったことがないから、事故があってもおかしくないこと。

事故に見せかけることができるなら、古代の遺産を独占しようとしている者にとっては好機であること。

最後に、イーゼッタ=メメントがこの時期に、コレットを俺に預けたことだ。

「あとは昔、いたずらっ子を相手にしていた俺の直感かな」

「直感、ですか? 師匠」

「ああ。俺のまわりには、いたずらを仕掛ける子どもが多くてな。子どもの顔を見ると、なんとなく、なにか企んでるのがわかるようになったんだ」

もっとも、いたずらを最後まで気づかせない達人もいたけどな。

特にアリスと、その母親のレミリアは最強だった。

ライルに「すぐにバレるいたずら」を仕掛けさせて、こっちがそれに気を取られている隙に本命のいたずらを仕掛けてきてた。

俺も4回に1回くらいは引っかかっていたんだ。

「それ以外は7割5分くらいは見抜けてた。悪い確率じゃないと思う。だからだよ。イーゼッタ=メメントがなにか企んでるかもしれない、って思ったのは」

「師匠は男爵家の方ですよね? いたずらっ子が多いというのは……?」

「庶子として男爵家に引き取られる前の話ってことにしておいてくれ」

「は、はい。師匠がそうおっしゃるなら」

コレットは不思議そうな顔をしたけど、うなずいてくれた。

「…………」

あと、ジゼルは無理して笑いをこらえなくていいからな。

無理に我慢して呼吸困難になるくらいなら、そこの物陰で笑ってこい。

しょうがないよな。

ジゼルは『フィーラ村』の伝承を知ってるもんな。

「それで、地下第5階層で事件を起こすなら、当然、人手が必要だよな」

「はい……ですが、今回の探索は、参加者が完全に管理されております」

「ああ。俺たちも、『エリュシオン』の入り口で名前を聞かれたし、参加者名簿もチェックされてる。使い魔の数も制限されてるからな」

使い魔の方は隠す手段はいくらでもあるから、なんとも言えないけれど。

ただ、事件を起こすなら、どうしても人手が必要になるはずだ。

「だけどひとつだけ、『魔術ギルド』に気づかれずに『エリュシオン』に入る方法がある」

「気づかれずに入る方法ですか?」

「どういうことでしょうか? ユウキさま」

首をかしげるコレットと、目の端に涙を溜めたまま問いかけるジゼル。

ジゼルの方は笑いすぎだ。まったく。

それはさておき──

「少し前に、帝国の皇女が『エリュシオン』に侵入しようとしたことがあった」

「……はい」

「 噂(うわさ) は、うかがっております」

「その皇女は言ったんだ。『エリュシオンには、1回だけ使える抜け道がある』と。もちろん、その情報は『魔術ギルド』にも伝わってる。当然、ギルドの人間は現場を確認して、他の者が使われないように管理するはずだ」

『エリュシオン』に入ることができる抜け道を、『魔術ギルド』が放置しておくはずがない。

封鎖するか、自分たちにしか使えないようにするはずだ。

「仮にその管理にイーゼッタ=メメントたちが関わっていたとしたら、利用することを考えるんじゃないか?」

「「……あ」」

コレットとジゼルが目を見開いた。

俺の言いたいことがわかったようだ。

いや、普通に考えれば、そこまではしないと思うんだけど。

でもなぁ、思い詰めた人間って、なにをするかわからないからなぁ。

メメント侯爵家に従う連中──仮に『メメント派』と呼ぶけど──そいつらが本気で『カイン王子をトップに立てる好機!』って思い込んでるなら、それくらいするかもしれない。

「逆に、その抜け道に気づいたからこそ、なにかしようと考えたのかもしれないな」

「……師匠」

「……それで、どうなさるのですか?」

「とりあえずチェックしてみよう」

合流時間までは余裕がある。

魔術の練習ついでに、ダンジョンを回ってみるのも悪くない。

「まぁ、なにもなければいいんだけどな」

「……そうですね」

「いえ、なにかあるのは間違いないと思います」

思案顔のコレットと、きっぱりと宣言したジゼル。

ジゼルは俺の顔を見て、うなずいて、

「ボクはマイロ……いえ、ユウキさまの判断は、人を救うものだと思っていますから」

「今回は、的外れであって欲しいと思ってるけどな」

そんなわけで俺たちは物陰を探りながら、第4階層のキャンプ地に向かうことにしたのだった。

その結果──

『ごしゅじんー。あの柱の後ろですー』

コウモリのディックがささやいた。

俺は即座に『身体強化』2倍を起動。ディックが指し示す場所へと移動する。

場所は、地下第2階層の柱の陰だ。見た感じは誰もいない。

たぶん、『幻影』の魔術を使っているんだろう。

よし、じゃあ作戦開始だ。

「うわぁー、たいへんだー」

俺は立ち止まり、声をあげた。

「コレット、ジゼル。魔物があそこに隠れているぞー」

「そ、そうなのですかー。ししょうー」

「でもでも、なにもいませんよー。ユウキさまー」

俺の指示通りに、コレットとジゼルが答える。

「コウモリたちが探知してるから間違いない。おそらく、姿を隠すのに長けた、新種の魔物が発生したんだろう」

「そ、それはおどろきましたー」

「たおさないとたいへんなことになりますねー」

「そうだな。とりあえず魔術を撃ち込んでみよう」

俺は『杖』を取り出した。

『魔力血』は入れてある。これを浮遊させて、表面に『 炎神連弾(イフリート・ブロゥ) 』の紋章を描いて、と。

「とりあえず発動! 『炎精──』」

「ま、待て。待ってくれ!!」

声がした。

でも、俺はそのまま──照準を逸らして『炎精連弾』を発動した。

ズドドドドドドドド──ッ!!

火炎が、手近な柱に激突し、火の粉を上げる。

「──ひ、ひぃっ!?」

「す、すいません。人が隠れているとは思いませんでした」

現れた人影に向かって、俺は告げた。

柱の後ろに隠れていたのは、ローブを着た魔術師たちだった。

闇に紛れるかのように、真っ黒なフードを被っている。身につけているものは高級品だ。おそらく貴族だろうな。

「失礼しました。お怪我は、ありませんか?」

「……い、いや」

「『幻影』の『古代魔術』で隠れていたということは、魔物に襲われたのですね? それで動けなくなっていたのですか……なるほどわかりました。すぐに救助を呼びます」

相手の言葉を待たずに、俺は続ける。

コウモリを呼び寄せて、その羽に『身体強化』の紋章を描いて──

「悪いが、救援を呼んできてくれ。天井の裂け目が第1層の近道だ。近くに連絡部隊がいるはずだ。そこの人たちにこの書状を渡してくれ。大至急だ」

『しょうちですー!』

「ま、待て!!」

もちろん待たない。

『身体強化』したコウモリは羊皮紙を手に、まっすぐに飛び去った。

羊皮紙には簡単な地図が書いてある。今回の探索のために支給された地図を書き写したものだ。この場所には血で印をつけておいた。すぐに、誰か来るだろう。

「申し遅れました。俺はユウキ=グロッサリアと申します。第5層の探索準備のために、ここに来ております。お名前を聞かせていただけますか?」

「……う、うぅ」

「名前……だと」

「…………いや、それは」

口ごもる魔術師たち。

俺は続ける。

「『エリュシオン』の第5層探索に参加される方でしょうか? それにしては、入り口でお見かけしませんでしたね? もしかして俺たちのように、探索前に魔術実験をされていたのでしょうか? しかし『幻影』を使って隠れる理由は、あまりないように思えますが……」

「い、いや、我々は……」

「まぁ、確かに、探索の前に魔力を消耗するわけにはいきませんからね」

「ま、待て。ユウキ=グロッサリアと言ったな?」

魔術師たちがふと気づいたように、顔を上げた。

「ユウキ=グロッサリアといえばアレク=キールスを倒した、アイリス殿下の護衛騎士か!? ということは『カイン派』では!?」

「いいえ」

俺は首を横に振った。

「俺は派閥には興味がないです。仲間のオデットはザメルさまと一緒に『 王騎(ロード) 』の起動実験を行っております。そのお孫さんのフローラさんとはパーティ仲間ですから」

「そ、そうか……そうなのか」

「それはともかく、ご安心ください。すぐに救助が来ますよ」

俺がそう言うと、魔術師たちは気まずそうに目を逸らした。

全員がフードで顔を隠して、コレットの方を見ないようにしている。

コレットは逆に、魔術師たちを見てうなずいている。

物置にいたとはいえ、コレットもメメント侯爵家の人間だ。出入りしている貴族の家名くらいはわかるだろうからな。

「俺はデメテル=スプリンガル先生と、老ザメルの許可を得て、作戦前の探索を行っています」

俺は言った。

これは嘘じゃない。

ここに来ることはデメテル先生に許可を取っているし、老ザメルにも、フローラから話を通してもらっている。

俺の目的は、情報をオープンにすることだ。

イーゼッタたち『メメント派 (仮)』がなにかを企んでいるとしたら、それは本隊の不意をついて行われるはず。

だったら、対策は簡単だ。

彼らが何人で、どこにいるのか、すべての情報をカイン王子と老ザメルに伝えればいい。

今回の探索は人員が管理されている。

誰がダンジョンに入っているか、どのように探索を行うか、すべて予定表が作られているんだ。当然、俺たちがここにいることも、予定表には書かれている。

だから、非合法なルートで入った人間がいれば、すぐにわかる。

当然、担当者が調べに来るはずだ。

『メメント派 (仮)』が事を起こそうとしているとしても、居場所が分かれば問題はない。いくらでも対処できる。

彼らに事情を聞いた上で、イーゼッタ=メメントを押さえることもできるはずだ。

まぁ、隠れていた連中は、これで3組目なんだけどな。

どれだけ人を送り込んでるんだよ。『メメント派 (仮)』は。

「……ユウキ=グロッサリア。グロッサリア伯爵家の……庶子」

「あ、はい」

「き……貴公は今の『魔術ギルド』に満足しているか?」

いつの間にか、貴族たちは地面に座り込んでいた。

力なく肩を落としながら、顔だけを上げて、俺をにらんでいる。

「帝国はリースティア王国に兵を送り込んでいる。すでに、帝国の脅威は身近に迫っているのだ……なのに、『魔術ギルド』は今のままでいいと考えているのか……」

「特に問題はないと思いますよ」

俺は答えた。

「問題があったとしても、それは合法的に解決すべきでしょうね」

「し、しかし、時には劇薬を使うことも。未来のためには、過激な手段も──」

「似たような言葉を、歴史書で見つけたことがあります。確か『聖域教会』の連中が内紛を起こしたときの記録だったと思いますけど」

あいつら、そういうこと言いそうだもんな。

前世の俺──『ディーン=ノスフェラトゥ』を悪として排除しようとしたんだもんな。

自分たちこそ正義、とかいって分裂して、内部抗争で滅んだんだろうなぁ。

まぁ、その原因を作ったのは『裏切りの賢者』のライルだけどさ。

「…………我々に、私利私欲はなかった」

魔術師は言った。

過去形だった。

「よくわからないですけど、すぐに救助は来ます。安心してください。あなた方がここにいたことは、俺が直に、上級魔術師の皆さんに伝えます。黒いローブを着た方──えっと」

俺はひとりひとりの髪の色と目の色、身体的特徴を挙げていく。

ついでに羊皮紙にメモを取る。

魔術師たちは真っ青な顔をしてるが──別にこっちは、おかしなことはしていない。

こっちは偶然、隠れている誰かを見つけただけだ。

それが魔物だと思ったら人間だっただけ。

『エリュシオン』第5層の探索が行われているのに、『幻影』で隠れている理由はない。だから用救助者だと思って、本隊に急いで連絡しただけ。

うん。こっちの行動にはまったく問題がないな。

ごくごく当たり前の救助活動だからな。

「それじゃ、俺たちは移動します。あ、心配だから、コウモリを1体、護衛につけておきますね。『身体強化』したすごく強いコウモリですから、安心してください。大抵の相手には負けません。魔物が来ても大丈夫ですから」

『おまかせをー』

念のため『身体強化』2倍をかけたコウモリを置いていく。

『身体強化』が切れるまでには救助隊か、救助隊の使い魔が駆けつけるだろう。

問題ないな。

「それじゃ行こうか。コレット、ジゼル」

「は、はい。お師匠さま」

「行きましょう。ユウキさま」

俺たちはその場を離れた。

「……師匠」

不意に、コレットが立ち止まった。

しばらくうつむいて……それから、顔を上げて、問いかける。

「師匠は、どうしてここまでしてくださったのですか?」

「ここまで、というと?」

「わざわざ『エリュシオン』内部を歩き回って、隠れていた『メメント派 (仮)』をあぶりだされたことです。そんなやり方をしなくても……師匠なら、メメント家を監視することもできましたよね?」

「ああ。でも、屋敷には結界が敷いてあったからな」

王宮に使われているのと似たものだった。

使い魔が近づくと警報が鳴って、警備兵がやってくるようになっていた。上級貴族の屋敷にはだいたい同じものがあるらしい。

だから、コウモリを放って証拠を掴む、という手段が使えなかったんだ。

「師匠ならば、アイリス殿下を通して『メメント家に疑いあり』と伝えることもできたいでしょう?」

「証拠がない。ただの勘違いだったら、アイリス殿下の名に傷がつく」

「──私に、密告させるということもできたはずです」

コレットは胸に手を当てて、告げた。

「仮に間違いであった場合、罪はすべて私にあります。アイリス殿下にも師匠にも傷はつきません。この陰謀を確実に防ぐには、たとえ間違いであっても、私を使うという手段がありました」

「悪い。思いつかなかった」

確かに、そういう手もあったな。

後味がめちゃくちゃ悪そうだから、思いついても使わなかっただろうが。

「ただ、俺は考えていることがあるんだ」

俺はコレットの頭をなでて、言った。

「イーゼッタ=メメント……コレットの姉さんは、誰かにこの陰謀を止めて欲しかったんじゃないかな、ってな」

「……姉さまが、ですか?」

「そうじゃなかったら陰謀の直前に、コレットを外に出したりはしないだろう」

陰謀を行う人間がするべきは、可能な限り普段通りの生活をすることだ。

不審な行動を取れば疑われる。コレットを屋敷の外に出すのは、どう考えても下策だ。

その結果、俺がメメント派の企みに気づいたわけだし。

つまり──

「コレットの姉さんは陰謀の成功よりも、コレットを陰謀に巻き込まないようにすることを優先したんだと、俺は考えてる」

「──え」

コレットが目を見開いた。

「姉さまが? だって、姉さまはお父さまに絶対に逆らわない方で……」

「逆らわないからといって、支持してるとは限らないだろ。まぁ、それは後で本人に聞いてみればいいよ」

今のところ、メメント派がやったのは『エリュシオン』の不法侵入だけだ。

それと帝国の皇女から聞いた抜け道を悪用した、というのもあるか。あれは1回しか使えないと言ってたから。

あとは、あの連中がなにを企んでいたかで、すべてが決まる。

でも、その前に──

「俺は、イーゼッタ=メメントと、もう一度話をしてみたいな」

「……はい。私も、姉さまと話をしてみたいです」

いずれにしても、それは『地下第5階層』の探索が終わった後の話だ。

本当は探索が始まる前に止められればよかったんだけどな。証拠がなさすぎた。

防ぐためには現場を押さえるしかなかったんだ。

……人間って、たまに面倒なことをするよな。

いいじゃないか、今の『魔術ギルド』でも。

『ザメル派』は最近、オデットと関わったことで穏やかになってきているし。

『カイン派』にもデメテル先生のような穏健派がいる。

そもそも、隣の帝国がざわついている状態で、こっちの国で内乱を起こしてどうするんだよ。つけ込まれるだけじゃねぇか。

せっかくライルたちが『聖域教会』を弱体化させてくれたのに、対立するこの国を弱体化させてどうするんだよ。まったく。

「行こう。コレット、ジゼル。オデットのところへ」

「は、はい。師匠」

「参りましょう。マイロ……いえ、ユウキさま」

そうして俺たちは、地下第4階層のキャンプ地を目指して歩き始めたのだった。

──十数分後、地下第4階層のキャンプ地で──

「──という報告があったのだよ。イーゼッタ」

カイン王子は、部下のイーゼッタ=メメントに告げた。

王子の隣にはC級魔術師のデメテルがいる。

場所は、地下に設置された天幕の中。

人払いをした上での尋問だった。

「もう一度言う。地下第2階層で十数名の魔術師たちが保護されたのだ。彼らは全員、今回の探索者のメンバーではなかった。名前と所属を聞いたところ、メメント侯爵家と親しい者たちだとわかったそうだ」

「……はい。殿下」

「彼らは通常のルートを通っていない。となると、『エリュシオン』に入るには、帝国皇女から聞いた抜け道を通るしかないだろう」

カイン王子は言葉を切った。

冷たい目で、イーゼッタ=メメントを見下ろしながら、

「例の抜け道の管理は、イーゼッタたちの担当だったね」

「仰せの通りです。殿下」

「なにか、申し開きはあるかな? イーゼッタ=メメント」

「いいえ……なにも」

イーゼッタ=メメントは、首を横に振った。

目を閉じて、むしろ、安心したような表情で。

「なにもございません。詳細は──」

「事情は第5層の探索が終わったあとで訊ねる。今は時間がない。君のことは……拘束した上で、上層のキャンプ地に送る。探索が終わるまで、そこで大人しくしているがいい。以上だ」

カイン王子は言い捨てた。

眉をつり上げ、イーゼッタ=メメントを睨んでいる。

常に冷静なカインには似つかわしくない、厳しい表情だった。

「──けれど、わからないな。太古の神秘に触れようというこの時に面倒事を起こすなんて」

カイン王子はため息をついた。

「君は、魔術の最奥に対する敬意はないのか? イーゼッタ=メメント」

「私も魔術師となった身です。最初は……魔術の神秘への敬意を持っておりました」

うつむきながらつぶやく、イーゼッタ=メメント。

「けれどそれは……家族への想いに勝るものではなかったようです」

「私は君を見損なっていたようだね。もう、話すこともないだろう」

「ひとつだけおうかがいします。地下第2層に潜んでいた者たちを見つけたのは、C級魔術師のユウキ=グロッサリアとその従者と──」

「コレット=メメント。君の妹だ。彼らは探索前の戦闘訓練を行っていたようだね。届けは出ている。そこで君の仲間と 遭遇(そうぐう) したそうだ」

「……そうですか」

イーゼッタ=メメントはかすかな声でつぶやいた。

「…………そういう偶然も、あるのですね」

「あとは部下に任せる。君がおとなしくしていることを、私は望んでいるよ」

カイン王子は彼女に興味を失ったように、天幕を出て行く。デメテルはためらいながら、それについていく。

だから──

「やはり……あの方にコレットを預けたのは……正しかったのですね」

──イーゼッタ=メメントのつぶやきを聞いた者は、誰もいなかったのだった。