軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話「第1次『エリュシオン』防衛戦(リースティア王国の平原にて)(1)」

──王都近くの町にて──

「魔物だ! 魔物が来たぞ────っ!!」

見張り塔で衛兵が叫んだ。

魔物の影を見つけた衛兵は、敵の襲来を告げる鐘を打ち鳴らす。

3回鳴らしたら間を空けて、再び3回。

それは「兵士では手に負えないほどの 脅威(きょうい) 」が迫っていることを示していた。

「住民は全員建物の中に! 兵士は城壁の上に集まれ──っ!」

「『魔術ギルド』所属の魔術師はいるか!? B級かC級……いや、ランクはなんでもいい。手を貸してくれ!」

「飛んでいる奴が相手だ。だが……矢が通じるのか? あんな奴に」

兵士たちは町中を走り回る。

昼食の支度。買い物。仕事──外に出ていた住民を捕まえて、建物の中へ避難させる。

それが終わると兵士たちは武器を手に、町を囲む城壁を駆け上がっていった。

城壁の上には大型の 強弩(バリスタ) がある。

てこの原理で弦を引く、据え付け型の大弓だ。ずっと使われていなかったそれの動作チェックをしてから、兵士たちは矢をセットしていく。

ガンガンガンガン────ガンッ!

再び、見張り塔の兵士が鐘を打ち鳴らす。

敵接近の合図だ。

城壁の兵士たちは数人がかりで 強弩(バリスタ) を引き、狙いを定める。

敵の姿は、もう見えていた。

「……でかい」

「……なんだあれは。本当に魔物なのか!?」

「……どこから来た? 神話から出てきたとでも言うのか!?」

『キィエエエエエエエエエエエ!!』

魔物の叫び声が、城壁を震わせる。

兵士たちの視線の先には、翼を広げた巨大な魔物がいた。

魔物は巨大なクチバシを鳴らして、城壁の兵士たちを 威嚇(いかく) している。

鷲(わし) の目が、じっと兵士たちをにらんでいる。

翼のサイズは、建物十数軒を並べたくらいの幅がある。

かぎ爪は、兵士数人はまとめて串刺しにできそうだ。 胴体(どうたい) は 獅子(しし) の姿をしている。それが空を飛んでいるのだから、その 脅威(きょうい) は計り知れない。

その魔物──巨大なグリフォンは、通常の十数倍の大きさだった。

『ギィエエエェェェェァアアアアア!』

「は、放て────っ!!」

隊長の合図で、兵士たちが一斉に 強弩(バリスタ) を発射する。

鉄製の矢が、グリフォンに向かって飛んでいく。

十分に引きつけている。的も大きい。

外れるはずはないはずだったが──

『ギィエ?』

ぶぉ。

グリフォンの巨大な羽がはばたき、暴風が起こった。

逆風を受けた矢が逸れて、落ちていく。運良くグリフォンに届いた矢も、すでに威力はない。

魔物の皮膚に弾かれて落ちていく。

「ひるむな! 矢を放ち続けろ──!」

兵士たちは再び 強弩(バリスタ) に矢を設置する。

その間に、弓を構えた兵たちが矢を放つ。

間合いが近い。グリフォンは羽ばたく暇もなく、矢をまともに受けた。

だが、効果はなかった。

ほとんどの矢は、グリフォンの皮膚を貫くこともなく弾かれた。刺さったものも、皮膚を貫くことはなく、グリフォンの侵攻を止める効果は一切ない。

ただ、怒らせる効果はあった。

『キィエエエエエ!!』

グリフォンがコースを変えた。

兵士が集中した町の正面から、比較的手薄な側面へ。

「──ちぃっ! 全員、西側を向け! 攻撃を集中!!」

兵士の隊長が舌打ちをする。

グリフォンから見て側面──西側の城壁には兵士が少ない。

巨大な魔物に対抗するためには、兵士を一方向に集中するしかなかったのだ。

側面には弓が苦手な兵士を集めて、盾を構えさせている。鉄製の 巨大盾(グレートシールド) だ。

魔物を町へと侵入させないための壁にするためだったが、それでどこまで通じるか──

『ギィガアアアアア!!』

ドォン。

西側にまわりこんだグリフォンの後足が、城壁を蹴った。

城壁全体が震え、兵士たちが悲鳴を上げる。

巨大グリフォンはそのまま──

『…………キィエエ』

身をひるがえし、町から離れた。

「……え」

呆然と兵士たちが見守る中、巨大グリフォンは飛び去っていく。

まっすぐ(・・・・) 、 王都の方向へ(・・・・・・) 。

「逃げた……のか」

「我々の、我々の勝利だ!」

「待て! 奴は王都の方向に向かっている。すぐに伝令を!」

兵士たちは武器をおろして、口々に叫ぶ。

全員、魔物を撃退したよろこびに沸き立っている。

だから彼らは城壁の近くの街道──グリフォンが暴れていたのとは逆側をこっそりと通り抜けていった騎兵がいたことには、気がつかなかったのだった。

「最後の町をクリアした。残るは王都のみだ」

先頭を走る騎兵は言った。

兜の内側に「了解」の回答が響き渡る。まわりにいるものたちも、すでに作戦は理解している。

彼らがまとっている鎧は『 王騎(ロード) 』のレプリカだ。

ただし、瞬間的な戦闘能力よりも持続力・耐久力・通信能力に特化している。

そのおかげで、彼らは国境から短期間でここまで来ることができたのだ。

「 あの方(・・・) と別行動になったのが気になるが……あの方は帝室の人間だ。われら『聖域教会』の 崇高(すうこう) な考え方は理解できまい」

『──ですが、あの方の「 王騎(ロード) 」を奪われる危険性は?』

「それもまた問題ない。『霊王騎』『獣王騎』などの初期型では、あの『王騎』には敵うまい」

『──確かに』

「せいぜい派手に動いてくれればいい。『あの方』はただ、強者と戦いたいだけなのだから。我らには理解できないことだがな……」

騎兵たちは巨大グリフォンを見上げた。

帝国から持ち込んだポーションは、見事に効果を発揮してくれたようだ。

200年前に『 古代魔術文明(エリュシオン) 』を支配していた『聖域教会』は、地下第5階層で、魔物を強化するためのポーションを見つけた。

それを体内に取り入れた魔物は、身体が巨大化して、ポーションを与えた者の指示に従うようになるのだ。これは200年前の『八王戦争』でも使われていた。

もちろん、今でも使われている。

『トーリアス領』や国境地帯に現れた魔物たちも、このポーションで強化したものだ。

だが、在庫はすでに使い切っている。あのグリフォンに飲ませたのが、最後のひとつだ。

「だから、我々はなんとしてでも王都に侵入して、地下第5階層にたどり着かねばならぬ。あの場所にはまだあるはずだ。ポーションの残りと、それを作り出すためのシステムが……」

『──わかっております』

『──我々には運が向いております』

『──そうです。気づかれずに町の側を通過できたのですし、あのグリフォンも手に入ったのだから』

「ああ。そうだな」

部下の言葉に、騎兵隊長はうなずき返す。

『──しかし、疑問があります』

『──そうです。どうして、あんな森にグリフォンがいたのでしょうか?』

「それには心当たりがある。確か『聖域教会』の配下であったカッヘル=ミーゲンという男が、グリフォンを使い魔にしていたそうだ。何匹か使い魔として飼っていたらしい。それが逃げ出して、あそこに棲みついていたのだろう」

カッヘル=ミーゲンは、今は牢獄にいるらしい。王女を誘拐しようとして失敗し、その上、分不相応の魔術を使ったために身体中の魔力の流れがズタズタになり、意識不明で 牢獄(ろうごく) 送りになったと聞いている。

無様だと思うが、それでも騎兵隊長はカッヘル=ミーゲンに感謝をささげる。

奴のおかげで、巨大なグリフォンを手に入れることができたのだ、と。

「我々はこのまま王都に向かう。衛兵がグリフォンに気を取られている間に、王都に侵入するのだ。手はずはわかっているな?」

『──承知しております』

『──王都が近づいたら、リースティア王国の衛兵の鎧を着る、ですね』

『──その後、グリフォンが王都で暴れ回っている間に、「魔術ギルド」に突入。地図の通りに、第5階層に向かう──』

部下の言葉に、騎兵隊長は満足そうにうなずく。

彼はいたわるように馬をなでる。途中、十分な休みを与えてきた馬たちには、まだ余裕がある。

誰かひとりが『エリュシオン』の第5階層にたどりつけばいい。

気づかれずにあのダンジョンに入る方法も、出る方法もわかっている。

「200年近く管理しているというのに、リースティア王国も魔術ギルドとやらも、あの『古代魔術文明』の本質がわかっていない。あのダンジョンは 生きて(・・・) いるのだ(・・・・) 」

騎兵隊長はつぶやく。

部下からの返事はない。彼らもまだ、本質を理解していないのだろう。

当然だ。騎兵隊長が口にしているのは、『聖域教会』の上位者にしか伝えられていない情報なのだから。

巨大ダンジョン『エリュシオン』は、彼らと同じように生きている。

だから変化もする。それを知っている者には、入り込む余地があるのだ。

「見ていろ。我ら『聖域教会』から『エリュシオン』を奪った者どもよ」

騎兵隊長は歯がみしながら馬を走らせる。

街道の先には、かすかに王都が見えてくる。

近くには森がある。情報では『黒い森』と言ったはず。巨大グリフォンはその近くを飛んでいる。

周囲に敵の姿はない。異常もない。

強いていえば、 妙に(・・) コウモリが(・・・・・) 多い(・・) くらいだ。

「──なにを遊んでいるのだ。グリフォンよ」

巨大グリフォンの周囲に、コウモリがまとわりついている。

距離を取り、挑発するように鳴いている。

「コウモリなど、とっとと追い散らしてしまえばよかろう!」

『キィエエエエエエエエエエ!!』

隊長の声が聞こえたのか、グリフォンがコウモリに向かって降下する。

怯えたコウモリたちは散開して、森の中へと逃げて行く。

グリフォンは森の手前で止まる。あの巨体では、森の中へは入れない。

というよりも、追いかける必要もないだろう──隊長がそう判断した──とき、

どぉん。

森の中から飛び出した岩の槍が、グリフォンの翼を貫いた。

「──なに!?」

続いて火球が、 石礫(いしつぶて) が、氷の槍が──ありとあらゆる攻撃魔術が、巨大グリフォンに殺到する。

『ギィィイエエエエエエエエ!?』

グリフォンが悲鳴を上げる。

騎兵隊長は気づく。森の中に、魔術師の軍団が隠れていたのだと。

「……だが、どうして我々の進路がわかったのだ」

対応が早すぎる。

グリフォンはさっきの町の近くで捕まえて、薬で巨大化させている。

『魔術ギルド』がその存在に気づいたとしても、ここまでやってくることはできないはずだ。

あの森で、 偶然(・・) 、 魔術の実験(・・・・・) でも(・・) していない(・・・・・) 限り(・・) ──

『ギヤァ! ギィアアアアアアアア!!』

「ああ……グリフォンが……」

翼をズタズタにされたグリフォンが、落ちていく。

グリフォンはなんとか着地に成功するが、もう飛べない。

「まだ終わりではない! と、とにかく、あの森へ向かうのだ。あの場所にひそんでいる魔術師どもを倒せ!」

『『『おおおおおおおっ!』』』

騎兵たちが黒い森へとコースを変える。

敵が魔術師なら、勝算はある。彼らの鎧は『王騎』のレプリカだ。オリジナルには劣るが、多少の魔術耐性はある。『古代魔術』を防ぐこともできるはず。

「敵は魔術師だ。 容赦(ようしゃ) はするな。ただし数名だけ残せ。人質にするのだ!」

騎兵隊長の言葉に、『了解』の声が返ってくる。

森が近くなる。地上に落ちたグリフォンは、魔術の乱打を受けて虫の息だ。

さらに、魔術師たちが森から出てきている。

「──こちらはリースティア王国『魔術ギルド』、A級魔術師カータス=ザメルである!!」

不意に、声が響いた。

『古代魔術』で、音声を拡大しているようだった。

「──昨日、国境より謎の騎兵が侵入したとの連絡を受けている。それは貴公らのことか? あるいは、貴公らはリースティア王国の騎兵か? 答えよ! 答えなければ攻撃する!!」

「構うな! 踏み潰せ!!」

『『『うおおおおおおおぉ!!』』』

騎兵たちが速度を上げる。

先方にいた魔術師──白いローブを着た老人が、呆れたように肩をすくめる。

距離は近づいている。

あと少しで、奴らを踏み潰すことが──

「お、おぉ……本当に敵じゃったか。オデット=スレイよ。お主の言葉は正しかった」

老人が声をあげた。

「ならば、その 鎧(よろい) の全能力を使うことを許す。 援護(えんご) するゆえ思う存分やってみるがいい!!」

『ありがとうございます。ザメルさま』

声がした。

その直後、森の中から飛び出した 灰色の光線が(・・・・・) 、 騎兵たちを(・・・・・) 薙ぎ払った(・・・・・) 。

「──なに!?」

『ぐぅおおおおおおおおおああああ!?』

『な、なんだこの脱力感は……からだが……動かない!?』

『魔力だ。魔力を吸われているんだ。だから、レプリカロードが……機能を……』

「 魔力を(・・・) 喰らう光線(・・・・・) だと、まさか!?」

騎兵隊長の背筋に寒気が走る。

『まったく……おちおちダンジョンの探索もしていられませんわ。あの人が戻る前に成果を上げてびっくりさせようと思ったのに』

ゆっくりと、森の中から、灰色の 鎧(よろい) が現れる。

大きさは、大人の身長の2倍程度。

特徴的なのは長い腕と、背中に生えた2本の細い腕。

かつてはただの腕だったその場所には、今は巨大な盾がついている。あれは魔術を無効化する盾だ。騎兵隊長も、それはよく知っている。

元々あの『王騎』は、自分たちの組織の所有物なのだから。

「そんな──あれは魔力消費が激しくて使い物にならないはずだ。まさか……封印を解いたとでもいうのか!?」

『そんなこと、知るものですか』

灰色の鎧が、騎兵隊長を見た。

その瞬間、彼は作戦の難易度が跳ね上がったことを知った。

彼らは恐怖した。

このオリジナルの『王騎』──『 霊王(ロード=オブ=) 騎(ファントム) 』を倒さなければ、王都には行けないのだ。

『できれば降伏してくださいませんか』

『霊王騎』が、背中の補助腕を動かす。

その腕は魔力を奪う光線の発射口だ。すでに騎兵たちすべてが、その効果範囲内にいる。

騎兵たちの身体が震えだす。

そんな彼らを見ながら、『霊王騎』の中の者は──

『今日は友人のメイドさんたちとお茶の約束がありますの。できれば早く済ませたいのです』

──場違いなくらい優しい口調で、そんなことをつぶやいたのだった。