軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 皇子視察の一日

北方都市グランテの朝は、澄んだ空気とともに目覚めた。

城門の外では、町人たちが早朝から活動している。家畜の鳴き声、荷車の軋む音、鍛冶場の金属音。三年間で築き上げた都市は、もう小さな村の面影を完全に失っていた。

今日は特別な日だ。帝国第一皇子アルヴェルトの北方視察が行われる。三年前、王命によって任命されたレスティーナ・フォン・グランテは、今日この日を迎えるために都市の隅々まで準備を進めてきた。

「領主様、準備は整っています」

エルガルトがそう告げる。ジェイも横で頷く。

ジェイはもう十五歳。レスティーナより五つ年上で、北方開拓時代は現地にはいなかったが、彼女の指示で都市建設計画の管理や物流整備のサポートを行っていた。

「それなら安心ね」

レスティーナは深呼吸をひとつした。三年間で築き上げた都市の全てを見せる相手は、帝国の未来を背負う第一皇子だ。緊張は避けられない。

遠くの街道に、砂煙が立ち上る。馬の蹄の音が近づき、鎧をまとった騎士団が列をなして進んでくる。中央の馬車が門の前で止まり、扉が開かれる。黄金色の髪に澄んだ青い瞳――アルヴェルトが姿を現した。

「久しぶりだね、レスティーナ」

文通では何度もやり取りしていたが、直接会うのは久しぶりだった。レスティーナは一歩前に出て、礼をする。

「北方都市グランテへようこそ、アルヴェルト殿下」

アルヴェルトは周囲を見渡す。石畳の道路、整然とした倉庫街、遠くまで広がる市場の屋台。

「噂以上だ……本当に都市になっているな」

レスティーナは微笑んだ。

「三年間、都市の基礎から人と資源を整えてきました」

ジェイが付け加える。

「物流の動線も計算済みです。倉庫から市場、農地、食堂まで効率良く運べるように組みました」

アルヴェルトは頷く。

「なるほど、単なる町ではなく、経済都市になっている」

最初に案内されたのは倉庫街。木造の大きな倉庫が整然と並び、荷車が行き交っている。木材、穀物、毛皮、鉄鉱石――すべて分類され、管理されていた。

「ここから帝都へ物資が送られるわけですね」

レスティーナの説明に、アルヴェルトは目を輝かせる。

「そして人々も働きやすそうだ」

次に案内されたのは市場。中央広場には野菜、果物、布、香辛料などの商品が並ぶ。商人は声を張り上げ、子供たちが走り回っている。人の活気が、都市の息吹を示していた。

「都市は人がいてこそです。だからまず人口を増やしました」

レスティーナは説明する。農奴を受け入れ、開拓民として登録。短期間で人口は五百を超え、商業施設や学校も整備済みだ。

アルヴェルトはしばらく黙って周囲を見渡し、静かに言った。

「……北方の未来が見えた気がする」

視察は続く。西区の宿屋街、新しい食堂、工房街、そして農地。広大な畑には灌漑水路が整備され、農民たちが働いていた。

「水路を作るだけで収穫量が格段に上がるのですね」

アルヴェルトは感心する。

「効率を上げるために、倉庫や市場の配置、荷車の動線も計算しました」

ジェイが付け加える。

「都市の運営は、商会の経営と同じです。資源、物流、人材、すべてを最適化しないと回りません」

アルヴェルトは微笑んだ。

「君の都市経営の才能は、私の想像以上だ」

レスティーナは少し照れくさそうに肩をすくめる。

「王命による統治ですから、失敗は許されません」

アルヴェルトは真剣な顔でレスティーナを見つめた。

「……レスティーナ」

「はい」

「この都市の発展は、私が自分の目で確認しておきたい」

レスティーナは頷く。

「いつでも歓迎します」

昼が近づくころ、視察は都市の中心部の広場に移る。ここには学校が設置され、子供たちが学ぶ姿が見える。教育施設も整備されていることを確認してほしいとの思いで、レスティーナは王子を案内したのだ。

「学問も都市の基盤です」

レスティーナが説明する。

「子供たちに教育を与えることで、この都市は長く繁栄するでしょう」

アルヴェルトは頷いた。

「都市としての完成度が高いな。人口だけでなく、教育や商業、物流まで整備されている」

レスティーナは微笑む。

「北方領を再建するのが、任務ですから」

アルヴェルトは小さく笑った。

「次は夜に宿泊も兼ねて、詳細な都市計画を見せてくれ」

「承知しました」

そして、視察は夜まで続いた。

倉庫の整理状況、商人の取引状況、学校での授業風景、宿屋の運営――レスティーナは都市の全てを案内した。

夜、灯りが点る都市を見下ろす丘の上で、アルヴェルトは言った。

「レスティーナ、君の手腕は素晴らしい。私の期待以上だ」

レスティーナは少しだけ微笑む。

「ありがとうございます、殿下」

アルヴェルトは遠くの街並みを見つめる。

「この北方都市、そして君の成長を、私も支えていきたい」

レスティーナは胸の奥で小さく頷いた。

王命で任された都市の統治者として、彼女は都市を築き上げ、今、帝国の皇子に認められたのだ。

北方の都市は、三年の歳月を経て、王命に応えた少女の努力と知恵によって、帝国に名を轟かせる都市へと成長していた。そして、その都市の灯は、これからも多くの人々の生活を照らし続けるだろう。

――レスティーナ・フォン・グランテの北方都市の物語は、ここからさらに始まるのだった。