軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 家族の夜

帝都の宮殿での茶会を終えた頃には、すでに夕暮れが近づいていた。

西の空は赤く染まり、帝都の白い石造りの建物が柔らかな橙色に包まれている。

高い塔。

広い大通り。

人々の往来。

帝国の中心都市だけあって、夕方になっても街は賑わっていた。

レスティーナは馬車の窓から外を眺めながら、小さく息を吐いた。

(疲れた……)

心の中で呟く。

帝都の茶会。

王子との会話。

皇帝の突然の登場。

十歳の少女には、なかなか重い一日だった。

(ググル先生)

『はい』

(精神疲労レベルは?)

『高めです』

(でしょうね……)

レスティーナは苦笑した。

しかし、今日はもう一つやることがある。

久しぶりに帝都へ来たのだ。

当然、家にも寄る。

帝都の屋敷。

そこには家族がいる。

妹のマリアンヌ。

弟のアスラン。

北方領の開拓が忙しく、ここ最近はなかなか顔を見せられていなかった。

だから今日は寄ることにしたのだ。

しかも――

ちゃんとお土産もある。

レスティーナは膝の上に置いた包みを見た。

中身は一冊の本。

**新作の絵本。**

もちろん、この世界の本ではない。

ネットショップで購入した地球の絵本だ。

色鮮やかな挿絵。

かわいい動物。

優しい物語。

子供向けとしては非常に完成度が高い。

帝国では、まだここまでの絵本は存在していない。

だから二人はきっと喜ぶ。

馬車は大通りを曲がり、貴族街へ入った。

帝都でも特に静かな区域。

高い塀。

広い庭。

立派な屋敷が並ぶ。

やがて馬車は止まった。

レスティーナの実家。

スー公爵家の帝都屋敷だ。

門が開き、馬車が中へ入る。

使用人たちが慌ただしく動き始めた。

レスティーナが馬車から降りると、執事が頭を下げる。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま」

久しぶりの屋敷。

懐かしい匂い。

廊下の床も、壁の装飾も変わっていない。

その時だった。

遠くから足音が聞こえた。

「お姉様!」

元気な声。

小さな少女が廊下を走ってくる。

金色の髪を揺らしながら。

レスティーナは思わず笑った。

「マリアンヌ」

妹はそのまま抱きついてきた。

「お姉様! お帰りなさい!」

レスティーナは軽く頭を撫でた。

「ただいま」

続いて少年が歩いてくる。

落ち着いた様子の男の子。

弟のアスランだ。

「姉上、お帰りなさい」

少し大人びた挨拶。

レスティーナは笑った。

「久しぶりね、アスラン」

マリアンヌが目を輝かせる。

「北の領地はどうなの?」

「お姉様、お城作った?」

レスティーナは苦笑した。

「城じゃないわよ」

「町よ」

アスランが興味深そうに聞く。

「本当に町を作っているのですか?」

「人が住んでる?」

レスティーナは頷いた。

「今は六百人くらい」

二人が同時に驚く。

「六百!?」

「すごい!」

レスティーナは笑いながら言った。

「まだ小さい町よ」

そして、持ってきた包みを取り出した。

「それより、お土産」

マリアンヌの目が輝く。

「ほんと!?」

レスティーナは包みを渡した。

マリアンヌが急いで開く。

中から出てきたのは美しい本。

鮮やかな色の表紙。

かわいい動物の絵。

「わぁぁ!」

マリアンヌが歓声を上げた。

「すごい絵!」

アスランも覗き込む。

「綺麗だ……」

帝国の本とは明らかに違う。

色彩。

紙質。

印刷。

どれも高度だ。

マリアンヌはすぐにページをめくり始めた。

「お姉様! 読んで!」

レスティーナは笑った。

「いいわよ」

そのまま三人は居間へ移動した。

暖炉の前。

ソファに座る。

レスティーナは本を開いた。

そして読み始める。

森に住む小さな動物たちの物語。

優しいストーリー。

マリアンヌは目を輝かせて聞いている。

アスランも真剣な顔だ。

読み終えると、マリアンヌが言った。

「もう一回!」

レスティーナは笑った。

「はいはい」

その様子を見ながら、レスティーナは思った。

帝都の政治。

皇帝。

王子。

貴族の思惑。

いろいろある。

でも――

こういう時間は嫌いじゃない。

むしろ好きだ。

(ググル先生)

『はい』

(絵本、もう少し買っておこうかな)

『良い判断です』

暖炉の火が静かに揺れる。

帝都の夜が静かに始まろうとしていた。

そしてレスティーナの周囲では、少しずつ――

新しい物語が動き始めていた。