作品タイトル不明
第41話 北方交易都市
北方領の朝は、以前よりずっと賑やかになっていた。
まだ太陽が完全に昇りきる前から、町の通りでは人の声が響いている。
木造の家々の煙突からは煙が上がり、パンを焼く香ばしい匂いが漂っていた。
中央広場では市場が開き始めている。
野菜を並べる農民。
肉を捌く肉屋。
布を広げる商人。
さらにその周囲には、帝都から来た商人の馬車が並んでいた。
ほんの数年前まで、ここは荒れた土地だった。
人もいない。
畑もない。
道もない。
それが今では――
**人口七百人を超える町**になっていた。
そしてその中心。
領主館の会議室で、レスティーナは地図を見ていた。
「……増えてる」
机の上の紙には、町の人口と建物の数が書かれている。
エルガルトが隣で頷いた。
「ええ、移民が止まりません」
理由は単純だった。
北方領は**仕事がある町**になったからだ。
北方商会。
その存在が町を変えた。
馬車隊が毎週帝都へ向かう。
商品を売る。
そして帝都の商品を持ち帰る。
物流が生まれたことで、商人たちも集まり始めた。
さらに。
農地も広がっている。
農奴たちは土地を与えられ、畑を耕していた。
収穫された作物は市場へ流れる。
町の経済は確実に回り始めていた。
レスティーナは地図を指さした。
「倉庫が足りない」
エルガルトがため息をつく。
「またですか」
「だって足りないもの」
現在、北方商会の倉庫は三つある。
しかしすでに満杯だった。
石鹸。
紙。
鉄工具。
布。
ガラス製品。
ネットショップから仕入れた商品が増え続けているのだ。
エルガルトは言った。
「新しい倉庫を建てる場所は?」
レスティーナは地図を見ながら答える。
「市場の北側」
「そこは空き地ですね」
「道路も広げる」
物流が増えると、道も必要になる。
馬車がすれ違える幅。
荷物を積み降ろしできる広場。
レスティーナはペンで線を引いた。
「ここを交易広場にする」
エルガルトは驚いた。
「交易広場?」
「商人専用の場所」
馬車が止まり、荷物を下ろし、取引をする。
つまり――
**交易都市の中心**になる場所だ。
エルガルトは腕を組んだ。
「本気で都市にするつもりですか」
レスティーナは笑った。
「最初からそのつもりよ」
農村では終わらない。
この町は。
**都市になる。**
その夜。
レスティーナは自室で一人、椅子に座っていた。
机の上には紙が広がっている。
そこには都市計画が書かれていた。
住宅区。
農地。
市場。
商人宿。
倉庫街。
さらに――
「工房も必要ね」
レスティーナは呟いた。
今の北方商会は商品を売るだけ。
だが将来は違う。
**生産**も必要になる。
その時。
(ググル先生)
脳内で呼ぶ。
『はい』
「北方領で作れそうな商品は?」
少し間があって答えが返る。
『羊毛製品が有望です』
「羊毛?」
『北方は寒冷地です』
『羊の飼育に向いています』
レスティーナは頷いた。
「なるほど」
羊を飼う。
毛を刈る。
糸を作る。
布を織る。
つまり――
**産業が生まれる。**
レスティーナは紙に書き込んだ。
「牧場」
「紡績工房」
「織物工房」
都市の骨格が少しずつ出来ていく。
その頃。
町の外では。
一台の馬車が到着していた。
帝都から来た商人だった。
「ここが北方商会か……」
男は町を見渡す。
まだ小さな町。
しかし活気がある。
市場には人が多い。
馬車も多い。
そして倉庫の前には商品が山積みだった。
商人は呟いた。
「噂は本当だったな」
北方商会の商品は良い。
そして安い。
帝都でも話題になり始めている。
商人は決めた。
「取引しよう」
その決断が、また一人商人を呼び込む。
そして町はさらに大きくなる。
レスティーナはまだ知らない。
この小さな北方領が、将来――
帝国最大級の交易都市になることを。
そして帝都では。
ある少女がまた机を叩いていた。
「どうして売れないのよ!」
金髪の少女。
**メアリー・スー。**
彼女の新しい商会もまた破産していた。
だが彼女はまだ気づいていない。
自分が競おうとしている相手が。
すでに――
**都市を作り始めている**ことを。