作品タイトル不明
第114話 国家を動かす者の決着
帝都は、静かに狂い始めていた。
それは目に見える混乱ではない。
だが確実に、深く、逃れようのない形で――
「侵食」されていた。
◇
最初は微細な違和感。
物資がわずかに滞る。
価格が理由なく揺れる。
人の配置が、意図的にずらされる。
そして。
「……複数の貴族家が、不可解な連携を取っています」
報告を受け、私は静かに目を閉じた。
「中心は?」
「スー公爵家です」
◇
――確定。
メアリー。
そして、その後ろ盾。
スー公爵家。
帝国の上層に深く食い込んだ存在。
それが今、国家そのものを歪めている。
◇
「……皇子へ」
「すでに」
短いやり取りで、すべてが伝わる。
今回の戦いは、個人では終わらない。
国家を巻き込む。
否。
国家そのものの“意思”として処理する必要がある。
◇
王城。
執務室。
皇子は窓辺に立っていた。
「来たか」
振り返るその目は、すでに覚悟を決めている。
◇
「状況は」
「内部侵食。経済・人事・情報、すべてに干渉」
「黒は」
「メアリー、及びスー公爵家」
沈黙。
重い。
だが迷いはない。
◇
「……証拠は揃っているか」
「十分に」
だが、それを出せば。
「国家は揺らぎます」
◇
皇子はゆっくりと息を吐く。
「ならば」
顔を上げる。
「揺らぐ前に叩き潰す」
決断。
王としての。
◇
数日後。
帝都に布告が走る。
王家直轄監査。
対象――全貴族。
例外なし。
◇
ざわめきが広がる。
だが拒否はできない。
それが王権。
絶対の命令。
◇
メアリーはその報を聞いて、微笑んだ。
「……ついに来たのね」
恐れはない。
むしろ歓迎。
なぜなら。
彼女もまた、国家を掌握する準備を終えていたから。
◇
「正面からなら、潰せる」
自信。
揺るがない確信。
◇
そして。
王城・大広間。
貴族たちが集められる。
前回とは違う。
これは裁判ではない。
「国家の選別」
◇
皇子が前に立つ。
その一歩だけで、場が静まり返る。
「本日、国家に対する重大な背信行為について処理を行う」
宣言。
◇
「メアリー・スー公爵令嬢」
名が呼ばれる。
彼女は優雅に前へ出る。
完璧な所作。
崩れない笑み。
◇
「何かしら?」
余裕の声音。
◇
私は前に出る。
「あなたの構築した影響網、すべて把握しています」
空気が変わる。
◇
「証明を」
当然の要求。
◇
「あります」
合図。
扉が開く。
次々と入ってくる人影。
貴族。
商人。
官僚。
そして。
――スー公爵家の関係者。
◇
「……なぜ」
メアリーの目が揺れる。
あり得ない。
完全に掌握していたはずの駒たち。
◇
「恐怖は、支配を長続きさせない」
私は静かに告げる。
「裏切りを生むだけです」
◇
皇子が前へ出る。
その声は、絶対。
「王家の名において断ずる」
空気が凍る。
「メアリー・スー公爵令嬢」
「並びにスー公爵家」
家名ごと呼ばれる。
それが意味するもの。
――連座。
◇
「国家権力の不正掌握、及び内政攪乱」
「さらに国家転覆未遂の罪により」
一語一語が重く落ちる。
◇
「爵位剥奪」
「全財産没収」
そして。
一瞬の静寂。
◇
「一族、公開処刑とする」
絶対の宣告。
◇
時間が止まる。
メアリーの思考が、崩れる。
「……は?」
理解が追いつかない。
◇
「そんな……」
声が震える。
初めて。
明確に。
◇
「私は……完璧にやったはず……」
崩れた理論。
崩れた支配。
◇
私は答える。
「国家は、一人で支配できるほど単純じゃない」
◇
衛兵が動く。
メアリーは抵抗しない。
できない。
すべてを失ったから。
◇
数日後。
帝都中央広場。
人が集まる。
貴族も平民も。
すべてが見届けるために。
◇
壇上。
メアリー。
そしてスー公爵家。
その顔は蒼白。
だが。
メアリーだけは違った。
◇
最後まで、諦めていない。
「……まだ」
小さく呟く。
◇
だが現実は変わらない。
罪状が読み上げられる。
国家反逆。
そして。
刑の執行。
◇
その瞬間。
メアリーは顔を上げる。
視線の先。
レスティーナ。
「……あなた、だけは」
言葉は最後まで続かない。
◇
すべてが終わる。
◇
帝都に静寂が戻る。
歪みは消えた。
完全に。
◇
皇子が隣に立つ。
「これで終わりだ」
「ええ」
短い言葉。
だが十分。
◇
これは個人の勝利ではない。
国家の勝利。
秩序の勝利。
そして。
「統治する者の責任」
その結末。
◇
私は静かに空を見上げる。
世界は、続く。
守られたまま。
これからも。