軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話 一人消えれば盤面は軽くなる

――死んだらしい。

その報せは、あまりにもあっさりと届いた。

紅茶の香りが立ち上る午後。

メアリーはカップを持つ手を止めることなく、その言葉を聞いた。

「本日、帝都中央広場にて――」

侍女が淡々と読み上げる。

罪状。

国家反逆。

そして、公開処刑。

「……以上でございます」

静寂。

部屋の空気は、どこまでも穏やかだった。

まるで、何事もなかったかのように。

「そう」

メアリーは一言だけ返す。

カップを傾ける。

琥珀色の液体が揺れ、唇に触れる。

優雅な所作。

完璧な貴族令嬢。

外から見れば、それだけだ。

だが――

(終わったのね)

内側では、別の感情がゆっくりと広がっていた。

温かく。

じわりと。

「……ふふ」

わずかに漏れる笑み。

誰にも気づかれないほど小さく。

だが確かに。

歓喜だった。

(あんな終わり方、すると思わなかったけど)

リリア。

あの女。

自分と同じ“側”にいる存在。

そう思っていた。

だが実際は。

(愚かね)

最後の一線を見誤った。

情報戦までは良かった。

駆け引きも、悪くはなかった。

だが――

「暗殺」

しかも。

「敵国のスパイを使う」

そこまで踏み込めば、どうなるか。

少し考えれば分かること。

なのに。

(本当に、救いようがないわ)

メアリーは心の中で切り捨てる。

だが同時に。

冷静な思考が動く。

(……でも)

今回の件。

単なる“失敗”ではない。

もっと重要な意味がある。

それは。

(盤面の整理)

リリアという存在。

厄介だった。

読めない。

感情で動くくせに、妙に的を突く。

そして何より。

“同類”。

だからこそ、扱いづらかった。

それが――

消えた。

完全に。

メアリーはカップを置く。

音はほとんどしない。

だが、その動作一つにも意味がある。

「……下がっていいわ」

侍女に告げる。

「かしこまりました」

扉が閉まる。

完全な一人。

その瞬間。

メアリーの表情が変わる。

笑う。

はっきりと。

隠す必要もない。

「――ははっ」

小さく、だが確かな笑い。

「本当に、死んだのね」

確認するように呟く。

信じられないわけではない。

ただ。

実感が追いついていない。

(あれだけ騒がしくて、面倒だったのに)

もういない。

どこにも。

戻ってくることもない。

完全な“消滅”。

それが意味するもの。

「……一人減った」

それだけ。

罪悪感?

そんなものは、最初からない。

むしろ。

(助かった)

それが本音。

競争相手。

しかも同質の危険因子。

それが勝手に自滅してくれた。

これほど都合のいいことはない。

メアリーは椅子にもたれる。

天井を見上げる。

思考が、次へ進む。

(じゃあ……次は)

誰か。

考えるまでもない。

レスティーナ。

あの女。

すべての原因。

そして――

最大の障害。

リリアは負けた。

だがそれは。

レスティーナが強いから。

ではない。

(やり方を間違えただけ)

そう結論づける。

自分は違う。

もっと上手くやれる。

もっと確実に。

もっと美しく。

「……ふふ」

再び笑みが浮かぶ。

今度は静かに。

計算された笑み。

「無駄なことはしない」

暗殺など、論外。

あんなものは。

“証拠を残すだけ”の愚策。

必要なのは。

「支配」

状況を。

人を。

流れを。

メアリーは立ち上がる。

窓の外を見る。

帝都。

巨大な都市。

無数の思惑が交差する場所。

その中で。

「勝つのは一人」

それだけは変わらない。

(リリアは脱落)

なら。

残るのは。

「私と、あの女」

単純な構図。

だが。

だからこそ。

面白い。

メアリーは静かに目を細める。

「待ってなさい」

誰に向けた言葉かは、明確。

レスティーナ。

「次は、あなたよ」

宣戦布告。

誰にも聞こえない。

だが確かに、放たれた。

そして。

彼女は再び微笑む。

何事もなかったかのように。

優雅に。

完璧に。

――貴族令嬢として。

リリアの死は、終わりではない。

それはただの。

「整理」

盤面を軽くするための。

一手に過ぎない。

そして今。

新たなゲームが始まる。

プレイヤーは二人。

勝者は一人。

敗者は――

消える。

メアリーは静かに紅茶を飲み干した。

その味は、いつもより少しだけ甘く感じられた。