作品タイトル不明
第112話 王座に仇なす者の末路
帝都の空は、異様なほど澄んでいた。
まるで――
これから行われる出来事が、すべて“正しいもの”であるかのように。
◇
王城・大広間。
すでに判決が下された後であった。
リリア・ダレン男爵令嬢。
爵位剥奪。
財産没収。
国外追放。
本来ならば、それで終わるはずだった。
だが――
「追加の報告がございます」
宰相の声が、再び場を緊張で満たす。
皇帝の視線が動く。
「申せ」
◇
宰相は一枚の書簡を掲げる。
「捕縛した実行犯について、詳細な調査を行った結果――」
その言葉に、空気が張り詰める。
「当該人物は、隣国の諜報員であることが判明しました」
ざわめき。
だがそれは、先ほどまでとは質が違う。
恐怖。
国家規模の問題へと、一気に跳ね上がったからだ。
◇
「……確かか」
皇帝の声は低い。
「はい。複数の証拠が一致しております」
偽装された身分。
通信経路。
暗号文。
それらはすべて、ひとつの事実を指していた。
――敵国の手。
◇
広間の視線が、再び向く。
リリア・ダレン男爵令嬢へ。
彼女は理解できていなかった。
「……は?」
思考が追いつかない。
(なに、それ……)
自分はただ、排除したかっただけ。
邪魔な存在を。
それだけだったはず。
なのに。
◇
「さらに」
宰相が続ける。
「被告は王太子妃の座を狙い、その立場を利用する意図があったと見られます」
ざわめきが、今度は抑えきれず広がる。
「もし実現していれば――」
その言葉の続きを、誰もが理解していた。
王族の中枢に、敵国の影が入り込む。
それは――
国家の崩壊を意味する。
◇
リリアの顔から血の気が引く。
「違う……!」
初めて、声が崩れる。
「私はそんなつもりじゃ……!」
だが。
その言葉は、もう意味を持たない。
意図ではない。
結果がすべて。
◇
皇帝が、ゆっくりと口を開く。
「リリア・ダレン男爵令嬢」
その名が呼ばれる。
それはもはや、個人への呼びかけではない。
国家に対する罪人としての呼称。
「汝の行いは、単なる私怨の域を超えた」
静かに。
だが確実に。
「敵国と結び、王家へ刃を向けたに等しい」
断定。
逃げ道はない。
◇
「よって」
その一言で、すべてが決まる。
「先の裁定を破棄する」
空気が凍る。
そして。
「改めて判決を下す」
誰も息をしない。
「リリア・ダレン男爵令嬢」
「並びにダレン男爵家」
その名が、家ごと呼ばれる。
それが意味するもの。
それは――
連座。
◇
「国家反逆の嫌疑により」
一語一語が、重く落ちる。
「一族全員」
「公開処刑とする」
絶対の宣告。
◇
時間が止まる。
リリアの思考も、感情も。
すべてが。
「……え?」
声が出る。
それは理解ではない。
拒絶。
「そんな……嘘……」
だが現実は変わらない。
◇
貴族たちは、誰も異議を唱えない。
なぜなら。
これは“見せしめ”だから。
国家に仇なす者の末路。
それを示すための。
◇
私は静かにその光景を見ていた。
リリアの崩れ落ちる様を。
かつて、あれほど強く、計算高く、他者を操っていた少女が。
今はただ――
現実に押し潰されている。
「……なんでよ……」
かすれた声。
涙。
震え。
だが。
それはもう、何も変えない。
◇
数日後。
帝都中央広場。
人が集まる。
いや――
集められていた。
貴族も、平民も。
すべてが見届けるために。
◇
壇上。
リリア・ダレン。
そしてその家族。
誰もが蒼白だった。
ただ一人。
リリアだけが、まだ何かを探していた。
(違う……こんなの……)
自分はヒロイン。
選ばれる存在。
こんな終わり方は――
あり得ない。
◇
だが。
現実は変わらない。
宣告が読み上げられる。
罪状。
国家反逆。
そして――
刑の執行。
◇
その瞬間。
リリアは最後に顔を上げた。
視線の先。
遠く。
見えないはずの場所。
だが彼女は、確かに“見た”。
レスティーナを。
「……まだ……終わってない……」
小さな呟き。
執念だけが残る。
◇
そして。
すべてが終わった。
◇
帝都に静寂が戻る。
だが、それは以前とは違う。
誰もが理解したからだ。
越えてはならない線を。
そして――
越えた者の末路を。
◇
私は静かに空を見上げる。
ひとつの脅威は消えた。
完全に。
だが。
「……まだ足りない」
世界は、まだ歪んでいる。
メアリー。
そして、未来。
すべてを終わらせるまで。
私は止まらない。