軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第112話 王座に仇なす者の末路

帝都の空は、異様なほど澄んでいた。

まるで――

これから行われる出来事が、すべて“正しいもの”であるかのように。

王城・大広間。

すでに判決が下された後であった。

リリア・ダレン男爵令嬢。

爵位剥奪。

財産没収。

国外追放。

本来ならば、それで終わるはずだった。

だが――

「追加の報告がございます」

宰相の声が、再び場を緊張で満たす。

皇帝の視線が動く。

「申せ」

宰相は一枚の書簡を掲げる。

「捕縛した実行犯について、詳細な調査を行った結果――」

その言葉に、空気が張り詰める。

「当該人物は、隣国の諜報員であることが判明しました」

ざわめき。

だがそれは、先ほどまでとは質が違う。

恐怖。

国家規模の問題へと、一気に跳ね上がったからだ。

「……確かか」

皇帝の声は低い。

「はい。複数の証拠が一致しております」

偽装された身分。

通信経路。

暗号文。

それらはすべて、ひとつの事実を指していた。

――敵国の手。

広間の視線が、再び向く。

リリア・ダレン男爵令嬢へ。

彼女は理解できていなかった。

「……は?」

思考が追いつかない。

(なに、それ……)

自分はただ、排除したかっただけ。

邪魔な存在を。

それだけだったはず。

なのに。

「さらに」

宰相が続ける。

「被告は王太子妃の座を狙い、その立場を利用する意図があったと見られます」

ざわめきが、今度は抑えきれず広がる。

「もし実現していれば――」

その言葉の続きを、誰もが理解していた。

王族の中枢に、敵国の影が入り込む。

それは――

国家の崩壊を意味する。

リリアの顔から血の気が引く。

「違う……!」

初めて、声が崩れる。

「私はそんなつもりじゃ……!」

だが。

その言葉は、もう意味を持たない。

意図ではない。

結果がすべて。

皇帝が、ゆっくりと口を開く。

「リリア・ダレン男爵令嬢」

その名が呼ばれる。

それはもはや、個人への呼びかけではない。

国家に対する罪人としての呼称。

「汝の行いは、単なる私怨の域を超えた」

静かに。

だが確実に。

「敵国と結び、王家へ刃を向けたに等しい」

断定。

逃げ道はない。

「よって」

その一言で、すべてが決まる。

「先の裁定を破棄する」

空気が凍る。

そして。

「改めて判決を下す」

誰も息をしない。

「リリア・ダレン男爵令嬢」

「並びにダレン男爵家」

その名が、家ごと呼ばれる。

それが意味するもの。

それは――

連座。

「国家反逆の嫌疑により」

一語一語が、重く落ちる。

「一族全員」

「公開処刑とする」

絶対の宣告。

時間が止まる。

リリアの思考も、感情も。

すべてが。

「……え?」

声が出る。

それは理解ではない。

拒絶。

「そんな……嘘……」

だが現実は変わらない。

貴族たちは、誰も異議を唱えない。

なぜなら。

これは“見せしめ”だから。

国家に仇なす者の末路。

それを示すための。

私は静かにその光景を見ていた。

リリアの崩れ落ちる様を。

かつて、あれほど強く、計算高く、他者を操っていた少女が。

今はただ――

現実に押し潰されている。

「……なんでよ……」

かすれた声。

涙。

震え。

だが。

それはもう、何も変えない。

数日後。

帝都中央広場。

人が集まる。

いや――

集められていた。

貴族も、平民も。

すべてが見届けるために。

壇上。

リリア・ダレン。

そしてその家族。

誰もが蒼白だった。

ただ一人。

リリアだけが、まだ何かを探していた。

(違う……こんなの……)

自分はヒロイン。

選ばれる存在。

こんな終わり方は――

あり得ない。

だが。

現実は変わらない。

宣告が読み上げられる。

罪状。

国家反逆。

そして――

刑の執行。

その瞬間。

リリアは最後に顔を上げた。

視線の先。

遠く。

見えないはずの場所。

だが彼女は、確かに“見た”。

レスティーナを。

「……まだ……終わってない……」

小さな呟き。

執念だけが残る。

そして。

すべてが終わった。

帝都に静寂が戻る。

だが、それは以前とは違う。

誰もが理解したからだ。

越えてはならない線を。

そして――

越えた者の末路を。

私は静かに空を見上げる。

ひとつの脅威は消えた。

完全に。

だが。

「……まだ足りない」

世界は、まだ歪んでいる。

メアリー。

そして、未来。

すべてを終わらせるまで。

私は止まらない。