軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 堕ちてもなお掴み取る者

終わったはずだった。

すべてが。

王太子のお茶会。

あの場で、リリアは確実に“切り捨てられた”。

不敬。

その一言で、彼女の立場は地に落ちた。

「……ふざけないで」

部屋の中。

リリアは鏡を睨みつけていた。

そこに映るのは、変わらぬ自分。

美しく、整い、完璧なはずの存在。

なのに――

(どうして私が負けるのよ)

理解できない。

いや、理解したくない。

自分はヒロイン。

選ばれる側。

それが“前提”だった。

なのに。

現実は、それを否定した。

「……違う」

ぽつりと呟く。

「これは、まだ途中」

終わりではない。

終わらせない。

数日後。

男爵邸。

「リリア!」

鋭い声が響く。

男爵は机を叩き、怒りを露わにしていた。

「お前、自分が何をしたか分かっているのか!」

リリアは頭を下げる。

「……申し訳ありません」

その声は、完璧にしおらしい。

だが内心では。

(うるさい)

苛立ちが渦巻いていた。

「王族に対して不敬だぞ! 家の名に泥を塗りおって!」

当然の反応。

だがリリアにとっては――

どうでもいい。

重要なのは。

「……次どうするか」

それだけ。

その夜。

リリアは一人、外套を羽織っていた。

貴族令嬢としてはあり得ない行動。

だが、彼女は迷わない。

「……ここね」

帝都の外れ。

薄暗い路地。

人目を避けるように進む。

そして――

古びた扉の前で止まる。

コン、コン、コン。

一定のリズムで叩く。

しばらくして、扉がわずかに開く。

「……誰だ」

低い声。

リリアは微笑む。

「お仕事の依頼ですわ」

中は薄暗かった。

酒と煙の匂い。

粗暴な男たち。

そして――

「嬢ちゃんが依頼主か?」

鋭い目の男。

明らかに“まともではない”。

だがリリアは怯まない。

「ええ」

堂々とした態度。

それが逆に、場の空気を変える。

「……面白ぇな」

男は笑う。

「で、何をさせたい?」

リリアは一瞬だけ考える。

そして。

「一人、排除していただきたいのです」

静かな言葉。

だが、その意味は重い。

男は目を細める。

「名前は?」

リリアは答える。

「……レスティーナ」

その瞬間、空気が変わる。

「……は?」

男が顔をしかめる。

「貴族、それも有力な相手だぞ?」

「ええ」

リリアは微笑む。

「だからこそ、お願いするのです」

沈黙。

やがて男は低く笑う。

「いい度胸だ」

「報酬は?」

その問いに、リリアは迷わず答える。

「いくらでも」

金。

権力。

未来。

すべてを賭ける覚悟。

それが伝わる。

「……本気か」

「もちろんですわ」

その目には、一切の迷いがない。

交渉は成立した。

だが――

リリアは知らない。

その一手が、どれほど危険か。

一方で。

私は報告を受けていた。

「……接触を確認しました」

静かな声。

「対象は裏組織の一派」

私は目を閉じる。

「そう」

予想通り。

リリアは“越えた”。

情報戦の枠を。

そして――

法を。

「……愚かね」

小さく呟く。

だが同時に。

「これで終わりにできる」

理由ができた。

正当な排除の。

私はゆっくりと立ち上がる。

「証拠は?」

「確保済みです」

「いいわ」

これで十分。

彼女は自ら、首を差し出した。

その頃。

リリアは満足していた。

「これで……終わる」

レスティーナさえ消えれば。

すべてが戻る。

そう信じている。

だが。

その認識こそが――

致命的だった。

夜。

風が吹く。

静かな闇の中で、何かが動き始める。

暗殺者たち。

それは確かに放たれた。

だが――

同時に。

別の“網”もまた、張られていた。

私は窓の外を見る。

夜の静寂。

だが、その裏ではすでに決着が見えている。

「……終わりね」

リリアは気づいていない。

自分が仕掛けたはずの一手が。

そのまま“証拠”となり。

自分を縛る鎖になることに。

物語は、次の段階へ進む。

これはもう、ただの競争ではない。

犯罪。

そして――

断罪。

リリアは堕ちた。

だがそれでもなお、足掻く。

その先に待つのが救いか破滅かは――

まだ、誰にも分からない。