作品タイトル不明
第111話 堕ちてもなお掴み取る者
終わったはずだった。
すべてが。
王太子のお茶会。
あの場で、リリアは確実に“切り捨てられた”。
不敬。
その一言で、彼女の立場は地に落ちた。
「……ふざけないで」
部屋の中。
リリアは鏡を睨みつけていた。
そこに映るのは、変わらぬ自分。
美しく、整い、完璧なはずの存在。
なのに――
(どうして私が負けるのよ)
理解できない。
いや、理解したくない。
自分はヒロイン。
選ばれる側。
それが“前提”だった。
なのに。
現実は、それを否定した。
「……違う」
ぽつりと呟く。
「これは、まだ途中」
終わりではない。
終わらせない。
◇
数日後。
男爵邸。
「リリア!」
鋭い声が響く。
男爵は机を叩き、怒りを露わにしていた。
「お前、自分が何をしたか分かっているのか!」
リリアは頭を下げる。
「……申し訳ありません」
その声は、完璧にしおらしい。
だが内心では。
(うるさい)
苛立ちが渦巻いていた。
「王族に対して不敬だぞ! 家の名に泥を塗りおって!」
当然の反応。
だがリリアにとっては――
どうでもいい。
重要なのは。
「……次どうするか」
それだけ。
◇
その夜。
リリアは一人、外套を羽織っていた。
貴族令嬢としてはあり得ない行動。
だが、彼女は迷わない。
「……ここね」
帝都の外れ。
薄暗い路地。
人目を避けるように進む。
そして――
古びた扉の前で止まる。
コン、コン、コン。
一定のリズムで叩く。
しばらくして、扉がわずかに開く。
「……誰だ」
低い声。
リリアは微笑む。
「お仕事の依頼ですわ」
◇
中は薄暗かった。
酒と煙の匂い。
粗暴な男たち。
そして――
「嬢ちゃんが依頼主か?」
鋭い目の男。
明らかに“まともではない”。
だがリリアは怯まない。
「ええ」
堂々とした態度。
それが逆に、場の空気を変える。
「……面白ぇな」
男は笑う。
「で、何をさせたい?」
リリアは一瞬だけ考える。
そして。
「一人、排除していただきたいのです」
静かな言葉。
だが、その意味は重い。
◇
男は目を細める。
「名前は?」
リリアは答える。
「……レスティーナ」
その瞬間、空気が変わる。
「……は?」
男が顔をしかめる。
「貴族、それも有力な相手だぞ?」
「ええ」
リリアは微笑む。
「だからこそ、お願いするのです」
◇
沈黙。
やがて男は低く笑う。
「いい度胸だ」
「報酬は?」
その問いに、リリアは迷わず答える。
「いくらでも」
金。
権力。
未来。
すべてを賭ける覚悟。
それが伝わる。
「……本気か」
「もちろんですわ」
その目には、一切の迷いがない。
◇
交渉は成立した。
だが――
リリアは知らない。
その一手が、どれほど危険か。
◇
一方で。
私は報告を受けていた。
「……接触を確認しました」
静かな声。
「対象は裏組織の一派」
私は目を閉じる。
「そう」
予想通り。
リリアは“越えた”。
情報戦の枠を。
そして――
法を。
「……愚かね」
小さく呟く。
だが同時に。
「これで終わりにできる」
理由ができた。
正当な排除の。
◇
私はゆっくりと立ち上がる。
「証拠は?」
「確保済みです」
「いいわ」
これで十分。
彼女は自ら、首を差し出した。
◇
その頃。
リリアは満足していた。
「これで……終わる」
レスティーナさえ消えれば。
すべてが戻る。
そう信じている。
だが。
その認識こそが――
致命的だった。
◇
夜。
風が吹く。
静かな闇の中で、何かが動き始める。
暗殺者たち。
それは確かに放たれた。
だが――
同時に。
別の“網”もまた、張られていた。
◇
私は窓の外を見る。
夜の静寂。
だが、その裏ではすでに決着が見えている。
「……終わりね」
リリアは気づいていない。
自分が仕掛けたはずの一手が。
そのまま“証拠”となり。
自分を縛る鎖になることに。
◇
物語は、次の段階へ進む。
これはもう、ただの競争ではない。
犯罪。
そして――
断罪。
リリアは堕ちた。
だがそれでもなお、足掻く。
その先に待つのが救いか破滅かは――
まだ、誰にも分からない。