軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第105話 最初の一手は静かに潰す

創世神の信託を受けてから、三日。

私は行動に移っていた。

「……やはり、動いたわね」

机の上に並べられた報告書を見ながら、小さく呟く。

対象はメアリー・スー。

彼女は学園内で、すでに小さな経済圏を築こうとしていた。

表向きは――

「新入生のための便利商会」

だが、その実態は違う。

(囲い込み……)

文具、軽食、日用品。

学園生活に必要な物資を低価格で提供し、徐々に依存させる。

そして最終的に価格を引き上げ、支配する。

単純だが、効果的な手法。

過去に何度も失敗している彼女だが――

「学園という閉鎖環境では、有効ね」

外部との流通が限られるこの場所では、小規模でも独占は成立する。

私は紙を一枚めくる。

そこには、仕入れ先と流通経路の推測が記されていた。

「……粗い」

思わず呟く。

コスト管理が甘い。

在庫回転率の計算も不十分。

だが――

「勢いだけはある」

それが厄介だ。

勢いは人を引き寄せる。

特に、判断力の未熟な新入生を。

私は椅子から立ち上がる。

「……最初の介入は、これで十分」

直接排除はしない。

まずは――

“失敗させる”。

それも、徹底的に。

翌日。

学園の中庭では、小さな人だかりができていた。

「いらっしゃいませ! こちら安くなっておりますわ!」

メアリー・スーが声を張り上げている。

その表情は自信に満ちていた。

「今ならまとめ買いでさらにお得ですの!」

生徒たちは興味を示し、商品を手に取る。

順調。

そう見える。

だが――

(始まっているわ)

私は少し離れた場所から、それを見ていた。

すでに手は打ってある。

「……三、二、一」

心の中で数えた、その瞬間。

「え?」

一人の生徒が首を傾げる。

「これ、昨日より高くない?」

ざわめき。

「確かに……」

「なんで値段変わってるの?」

メアリーの表情が一瞬だけ揺らぐ。

「い、いえ! 仕入れの都合でして――」

その言い訳は、完全ではない。

なぜなら――

「でも別のところで安く売ってたよ?」

その一言で、空気が変わる。

メアリーの目が見開かれる。

「……は?」

当然だ。

彼女の知らない“供給”が、すでに始まっているのだから。

「在庫は?」

私は別の場所で報告を受ける。

「予定通りです。市場外ルートで供給を拡大しました」

頷く。

学園の外――

正確には、学園周辺の商人たちに働きかけた。

「同価格、もしくはそれ以下で流通させなさい」

その指示はすでに実行されている。

メアリーの商会は“安さ”が武器。

ならば、それを潰す。

さらに――

「品質は?」

「同等以上を確保しています」

「いいわ」

これで条件は揃った。

安さでも、品質でも勝てない。

残るのは――

信用だけ。

「な、なんで……!?」

メアリーは明らかに動揺していた。

売れ行きが、急激に落ちている。

さっきまでの人だかりは消え、客はまばら。

「どうしてよ……!」

彼女は歯を食いしばる。

本来なら成功するはずだった。

計画は完璧ではないが、成立する範囲だった。

なのに――

「……邪魔されてる?」

その結論に至るのは、早かった。

だが。

誰が?

どうやって?

それが分からない。

「……まさか」

ふと、脳裏に浮かぶ。

あの少女。

全属性。

入学主席。

レスティーナ。

「……あいつ?」

だが証拠はない。

確証もない。

それでも――

「……ふざけないでよ」

怒りが込み上げる。

その日の夕方。

私は結果を確認していた。

「売上、三割減……」

十分だ。

致命傷ではない。

だが、確実に効いている。

「これで理解するはず」

自分の立ち位置を。

そして――

自分より上がいることを。

私は窓の外を見る。

夕焼けに染まる学園。

そのどこかで、メアリーは歯を食いしばっているだろう。

「……これが最初の一手」

排除ではない。

だが、確実な“削り”。

彼女の影響力を抑え、成長を遅らせる。

そして――

限界まで追い込む。

「次は、どう出るかしら」

挑発ではない。

観察だ。

反応を見ることで、次の手が決まる。

私は静かに微笑む。

観測者は、すでに盤面に手を入れた。

ゲームは動き始めた。

そしてその先にあるのは――

排除か。

それとも、別の結末か。

「……どちらでもいいわ」

世界が生き残るなら、それでいい。

十五歳の私は、静かに次の一手を思考する。

最初の介入は成功した。

だが――

これはまだ、序章に過ぎない。