軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 やってないの!?と神は叫ぶ

夜は静かだった。

王立学園の寮、その一室。

私は机に向かい、淡々と書類を整理していた。

魔法適性検査の結果。

各生徒の属性傾向。

教師陣の反応。

そして――

リリアとメアリー。

(……やはり、兆候は出ている)

リリアの影響力は、すでに一部の生徒に偏りを生んでいる。

メアリーは強引な主張で、小規模ながら支持者を作り始めている。

どちらもまだ“致命的”ではない。

だが――

「時間の問題ね」

そう結論づけ、私はペンを置いた。

そして、目を閉じる。

来る。

今夜は、来る。

確信に近い予感。

次の瞬間――

空間が凍りついた。

音が消え、時間が止まる。

そして。

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

……うるさい。

私はゆっくりと目を開けた。

白い空間。

そして、バタバタと慌てている光の塊。

「なんでやってないのぉぉぉぉぉ!!?」

開口一番、それだった。

私は無言で額に手を当てる。

「……久しぶりですね、創世神ガイア」

「久しぶりじゃないよ!? 問題そこじゃないよ!?」

光が激しく明滅する。

「なんで!? なんで!? なんでまだ生きてるのあの二人!?」

「……落ち着いてください」

「落ち着けるわけないでしょぉぉぉ!!?」

叫びが反響する。

私はため息をついた。

「あなたが言ったのは覚えています」

「ほんとに!?」

「ええ。一回目――転生の時に」

あの白い空間。

あの軽すぎる説明。

そして――

“あの二人を殺さないと、この星は滅びる”

という、あまりにも重い前提。

「じゃあなんでやってないのぉぉぉぉ!!?」

ガイアは半泣きで叫ぶ。

「もうだいぶ経ってるよね!? 成長したよね!? チャンスいっぱいあったよね!?」

「ありましたね」

「じゃあなんで!? なんで!? なんでぇぇぇぇ!!?」

私は静かに目を細める。

「……理由は単純です」

「なに!?」

「最適ではないからです」

沈黙。

ガイアが固まる。

「……え?」

「現時点での排除は、リスクが高い」

私は淡々と続ける。

「二人はまだ未完成。影響範囲も限定的」

「でもでも!! 放置したらドーン!!だよ!?」

「知っています」

「じゃあなんでぇぇぇぇ!!?」

私は一歩、光に近づく。

「確実性が足りない」

「確実性?」

「排除によって、別の歪みが発生する可能性」

「えっ、そんなのあるの!?」

「あなた、本当に何も考えていませんね」

「えへっ」

「笑わないでください」

私はため息をつく。

「……あなたは“バグだから消せばいい”と言った」

「うん!」

「ですが世界は単純ではない」

「うん?」

「原因を取り除いたことで、別の形で崩壊が加速する可能性もある」

ガイアはしばらく黙る。

そして――

「……むずかしい話してる?」

「ええ」

「わかんない!!」

「でしょうね」

だが、私は止まらない。

「だから観察している」

「観察?」

「限界点を測るために」

リリアがどこまで影響を広げるのか。

メアリーがどこで破綻するのか。

その臨界を見極める。

そして――

最も効率的に、確実に排除する。

それが、最適解。

「……冷たくない?」

ガイアがぽつりと呟く。

「合理的です」

私は即答する。

「感情で動けば、世界が終わる」

「うっ……それはそう……」

ガイアはしょんぼりと光を弱める。

だが次の瞬間――

「でもでもでも!! やっぱり早くして!! 怖いの!! 最近ちょっと揺れてるの!!」

「揺れている?」

「うん!! 世界のバランスがグラグラしてる!! なんかヤバい感じ!!」

……それは重要な情報だ。

私は目を細める。

「具体的には?」

「えっとね!! なんかね!! 運命がね!! ぐにゃって!!」

「抽象的すぎます」

「だって説明できないんだもん!!」

私は小さく息を吐く。

だが、十分だ。

兆候は出ている。

加速も始まっている。

「……分かりました」

私の言葉に、ガイアがぱっと明るくなる。

「ほんと!?」

「段階を進めます」

「段階?」

「観察から、介入へ」

直接的な排除ではない。

まずは――

制御。

誘導。

分断。

そして必要なら――

排除。

「おおー!! なんかそれっぽい!! かっこいい!!」

「……軽いですね」

「だってよく分かんないけどすごそう!!」

私は最後に一つだけ言う。

「急ぐ必要があるのは理解しています」

「うん!!」

「ですが、焦って失敗すれば終わりです」

「うん!!」

「だから――黙って見ていてください」

ガイアはしばらく黙る。

そして、ぽつりと。

「……ほんとに大丈夫?」

私は迷わない。

「ええ」

短く、確実に答える。

「必ず終わらせます」

その言葉に、光はゆっくりと揺れた。

「……じゃあ、任せた!!」

相変わらず軽い。

だが、その裏にあるのは“世界の命運”。

次の瞬間、空間が元に戻る。

静かな夜。

だが、もう止まれない。

私はペンを取り、書き出す。

リリア。

メアリー。

その行動パターン。

影響範囲。

弱点。

すべてを整理し――

「……そろそろ、動くわよ」

十五歳の私は、静かに立ち上がる。

観測者から、介入者へ。

世界を救うための戦いが、いま本格的に始まった。