作品タイトル不明
第103話 全属性という異端
入学式から数日後――王立学園では、新入生にとって最初の大きな試練とも言える行事が始まった。
魔法適性検査。
それは、生徒一人ひとりが持つ属性を測定し、今後の教育方針やクラス分けに大きく影響する重要な儀式である。
私は静かに列に並びながら、その様子を観察していた。
検査場は広大な石造りのホールで、中央には大きな水晶球が設置されている。魔力を流し込むことで、その者の属性が光として現れる仕組みだ。
「では、順番に進みなさい」
教師の声が響き、生徒たちが一人ずつ前に出ていく。
最初の数名は、火属性、水属性といった一般的な結果だった。
中には二属性を持つ者もおり、周囲からは感嘆の声が上がる。
やがて――
「次、リリア」
名前を呼ばれた彼女は、いつもの柔らかな笑みを浮かべながら前に出る。
水晶に手を触れ、ゆっくりと魔力を流す。
次の瞬間――
眩い白光がホール全体を包み込んだ。
「……聖属性だ」
教師の声がわずかに揺れる。
聖属性――極めて希少であり、王族や高位貴族に多い特別な属性。
周囲の生徒たちはざわめき、尊敬と驚きの視線がリリアへと集まる。
「すごい……」
「やっぱりただ者じゃない……」
リリアは少し困ったように微笑みながらも、その視線を受け入れている。
だが、その瞳の奥は違った。
(これで一歩リード……周囲の評価は確保できたわね)
計算された内心。
私はそれを見逃さない。
次に呼ばれたのは、メアリー・スー。
彼女は堂々と前へ進み、水晶に手を置く。
「見てなさい……」
小さく呟いたその瞬間――
激しい炎のような赤い光が爆ぜた。
「火属性……しかも強いな」
教師の声が響く。
メアリーは満足げに笑う。
「当然よ。私は選ばれた存在なのだから」
その言葉に、周囲は圧倒されるが、同時に距離を取る空気も生まれる。
だが彼女は気にしない。
むしろ、自分が中心であることに満足している。
(聖属性なんて関係ないわ。私は私で頂点に立つ)
その自信。
だが、その裏には焦りの芽がわずかに存在している。
そして――
「次、アルヴェルト殿下」
会場の空気が一変する。
皇子である彼は静かに前に進み、水晶に手を置く。
次の瞬間――
白、赤、青、緑、黄――
五色の光が同時に輝き、空間を満たした。
「……聖属性に加え、火・風・水・土の五属性」
教師が言葉を失いかけながらも告げる。
会場は騒然となる。
「五属性……!?」
「そんなことが……」
私は静かにその光景を見つめる。
(やはり……)
皇子の力は、予想通り規格外だ。
だが――
「次、レスティーナ」
私の番が来た。
私は一歩前へ出る。
ざわめきはまだ収まらない。
だが、私は気にせず水晶の前に立つ。
手を置き、ゆっくりと魔力を流す。
――その瞬間。
水晶が、爆発するように輝いた。
白、赤、青、緑、黄――
さらにその奥に、別の色の揺らぎ。
すべての属性が同時に発現する。
「……全属性……だと?」
教師の声が完全に止まる。
沈黙。
そして、次の瞬間――
会場が一気にざわめいた。
「全属性……!?」
「そんなの聞いたことがない……!」
私は静かに手を離す。
その場の空気が一変しているのを感じながら。
そして――
リリアとメアリーの視線が、同時に私へ突き刺さった。
(……なんでよ!!?)
二人の内心が、まるで重なるように響く。
リリアは表情こそ崩さないが、その瞳は激しく揺れている。
(聖属性の私より上……? ありえない……そんな設定……)
メアリーは完全に顔を歪めていた。
(ふざけないでよ……! 全属性? そんなの主人公特権じゃない!!)
その瞬間――
二人の思考が、一つの結論に到達する。
(この子……転生者……?)
私はその視線を、静かに受け止める。
何も言わず、ただ淡々と。
(気づいたのね)
だが、それを肯定することはない。
私はあくまで、観察者。
この学園で起きる全てを見極め、必要ならば介入する存在。
全属性という結果は、ただの事実に過ぎない。
重要なのは、それをどう使うか。
そして――
この結果が、学園の勢力図を大きく変えたことは間違いない。
リリアの聖属性。
メアリーの火属性。
皇子の五属性。
そして、私の全属性。
四者四様の力が、今この瞬間に明確になった。
静かに、だが確実に――
学園の均衡は崩れ始めている。
私は小さく息を吐く。
「さて……」
視線の先では、リリアとメアリーが明らかに警戒を強めている。
今までのように互いを牽制するだけでは済まない。
新たな存在――私が、二人の計算を狂わせたのだから。
「これで、面白くなってきたわね」
十五歳の私は、静かに微笑む。
ヒロインと悪役令嬢。
そして皇子。
その全てを巻き込みながら――
王立学園の本当の戦いが、今、始まろうとしていた。