作品タイトル不明
地下牢
街にも出れず、隠れ家にずっと居たのだが……やる事が特に無い。暇を潰す話し相手も居ないのだ。マーラオもバーロさんもその他の獣人さん達もこれからの行動のために大忙しである。となると後はグレイブさんなのだが……絶賛イウラさんとイチャつき中である。もう四六時中……もう寝てやる!!ふて寝してやるぅ!!うわあぁぁぁ~ん!!羨ましくなんかないんだからね!!羨ましくなんかないんだからね!!そうして俺はメアルを抱き締めたままふて寝して救出行動の開始まで時間を潰した。
「……ハオちゃん……本当にこの人は頼りになるんでしょうか……」
「………………ごめんなさい」
寝過ごしてしまった。まさかふて寝で本気寝をしてしまうとは。しかもマーラオに起こされるという始末。救出行動開始時刻は覚えてたよ。ちゃんと覚えてたんだけど……寝ちゃったら意味ないよね。ほんとごめんなさい。俺は恥ずかしさから両手で顔を覆ってしまった。
現在時刻は深夜に近いだろう。俺とグレイブさん、バーロさんは隠れ家の玄関で最終確認をしていた。まぁ特に持っていく物も無い俺は突っ立ってるだけだけど。メアルは念のためこの隠れ家に残しておいた。いざという時は逃げるように伝えている。そうしてグレイブさんとバーロさんの支度を眺めていると牛の獣人・リノさんから声を掛けられた。
「少しいいですか?」
「はい?」
そう言ってリノさんは俺に頭上から何かの粉末を降りかけた。え?何これ?
「なんなんですかこれ?」
一応確認するために体をパンパン叩いたり、手を握ったり開いたりしたが特に異常は見受けられない。
「消臭剤です。昨日バーロさんが言ってましたが獣人は匂いに敏感ですからね。強硬派に見つからないように匂いを消してるんですよ。効果は30分程なのと、これは消臭剤の残りです。これだけしかないので気を付けて下さいね」
「なるほど、わかりました」
リノさんから消臭剤が入っている袋を受け取り、周りを見るとグレイブさんはイウラさんに、バーロさんは元部下の猿の獣人・グンキさんに消臭剤を降りかけられていた。
「気を付けてね、グレイブ」
「あぁ、ちゃんと帰ってくるよ」
「お気を付けて」
「……あぁ」
なんだろう……その両極端な光景に胸が締め付けられる。ほんとリノさんで良かった。そうして準備の終えた俺達は穏健派の人達を救うため隠れ家から出た。
隠れ家から城までの距離は大した距離では無かった。ただ強硬派に見つからないように移動するため、家屋の物陰に隠れながらだったので少しばかり時間はかかった。また、正直に城の門からの侵入も出来ず、裏手に回るため更に時間はかかった。裏手に回る頃には30分近くかかっているため、バーロさんの指示でもう1度消臭剤を降りかけておく。普段こんな行動はしないため俺の心臓はバクバクしているのを感じる。同時に気分はワクワクもしていた。ちょっと楽しくなってきた。城の中に入ったらどんな事があるんだろうなぁ。
普通城には外敵からの侵入を防ぐため城壁がある。この国の城にも普通に城壁があり、裏手に回ろうが抜け穴等もちろん無い。その上、城壁には見張りの兵が巡回しており俺達は城壁のすぐ近くにある林の影に今は隠れている状態だ。俺なら一発で壁を壊せそうだがそれをすると俺達の存在がバレてしまうので一体どうするつもりなのかバーロさんに尋ねる。
「それでこれからどうするんですか?」
「まぁ待て。城の中にも少ないが穏健派はまだ居る。朝の内に渡りをつけておいた」
その言葉を証明するように城壁の上から縄梯子が投げ下ろされた。出所を確認するように視線を城壁の上へと向けると投げ下ろしたであろう人物が見回りの巡回に戻っていく姿が見て取れた。俺達は即座に縄梯子の元へ行き登っていく。城壁の上へと全員が到着すると見つからないように身を低くしてバーロさんの案内の元こそこそと移動していった。バーロさんはさすが元近衛兵長であったと言うべきか、的確に指示を出しぐんぐんと城の中を進んでいく。途中何人かの見回りの兵士にも遭遇しかけたが、消臭剤のおかげか見つからずに隠れてやり過ごす事が出来た。少しずつ進み地下牢へと続く階段まで辿り着く。なんというかあっけない。手ごたえが無いというべきか。これ俺達が必要だったのだろうか?そんな考えも浮かんでくるぐらい何の障害もなく俺達は先を進んでいく。
そうして俺達は穏健派の人質達が捕らえられている部屋の前まで辿り着いた。地下牢じゃないの?と思ったのだが、顔に出てたのだろうか、バーロさんが答えてくれた。
「他の穏健派は地下牢なのだが、王であるギオ様はこの部屋で軟禁されているのだ。まずは穏健派の旗頭であるグラブ様を救出する。一気に部屋の中へ突入するぞ」
バーロさんのその言葉に嫌な予感がした。ここまで来るのが簡単だった事も疑念に拍車をかけた。何故ここで存在を示すように一気に突入するのか?王が居る部屋という割には何故部屋の外に見張りが居ないのか?グレイブさんも同じ考えなのだろう。嫌そうな表情を見せる。だがバーロさんは疑念を問おうとする前に部屋の中へと突入してしまった。その行動に俺とグレイブさんも舌打ちをしながら仕方なく着いていく。
ただ前だけを見据え進み、部屋の中へと入るとそこは真っ暗闇で何も見えなかった。グレイブさんの気配は感じるのだがバーロさんの気配が感じられない。そう思った瞬間、後ろからガチャリと甲高い音が聞こえた。その音が聞こえた方へ顔を向けると不意に部屋の中が明るくなり一瞬視界を奪われる。徐々に明るさに慣れ、見えるようになった視界にはまるで鉄格子のような鉄の棒が等間隔に置かれており、その鉄の棒の先には悲痛な表情を浮かべるバーロさんと、その横には屈強な体つきをしたマーラオと同じ金色の猫耳を持つ獣人の男性が居た。そして、軽く周りを見回すとやはり鉄の棒は鉄格子の物であり、俺とグレイブさんはその中に居る。つまり罠に嵌められて捕まったという訳だ。俺達を罠に嵌めた人物であろう鉄格子の外に居るバーロさんへ視線を送ると悲痛な面持ちでたった一言だけ吐いた。
「……すまない」