作品タイトル不明
聞きたかった事
レガニールまでもう少しという所まで来た。ここに来るまでに勿論宿など無く、野宿で過ごしてきたのだが、その道程で思っている以上にマーラオが頑張ってくれた。野宿時のお約束、就寝の交代もきちんとやってくれたし、ご飯の食材もふらっと森の中に入ったかと思うと、キノコや山菜、川が近くにあったのか魚まで用意してくれた。料理の腕もよくて美味しく頂きました。そうして森の中でレガニールまでの最後の休憩を取っている時にそいつは現れた。森の中からガサガサと音を立ててながら現れた者は全身を黒いローブで身を隠し、顔も下半分しか見えず人相は分からなかった。男という事だけはその背丈なので分かるが、そいつは俺達を見るとにぃって口角を上げて嬉しそうにこちらへと声を掛けてきた。
「ケヒヒ……ようやく人に出会えた。これで実験の続きが出来る」
実験。その不穏な言葉に俺とグレイブさんは即座に動き、マーラオを自分達の後ろにやると、観察するようにその男を睨んだ。男はローブの中から痩せこけている手を出すと何やら言葉をぶつぶつと言いだした。
「盟約に従い 我が声に答えよ」
「召喚魔法か!!」
グレイブさんの言葉に対応するように男の周りに4つの大小様々な魔法陣が浮かび上がると、その魔法陣の中からそれぞれ獣達が這い出してきた。魔法陣から出てくる獣は大きさの違いはあれど全て同じであった。俗にいう「 合成獣(キマイラ) 」と呼ばれるモノで、様々な獣の部位が体に繋ぎとめられている。その獣達は俺達を敵と認識したのか「グルル……」と低く唸りながらタシタシとゆっくり動き、ローブの男を守るように前に出て立ちはだかった。
「ケヒヒ……大人しくしておれよ。大丈夫、殺しはしない。鮮度が大事じゃからなぁ」
ローブの男が自分の近くに居る1匹の獣の頭を撫でながらニヤリと気持ちの悪い笑みを俺達へと向けてくる。しかも目は見えないはずなのにそのローブの奥からは、こちらを観察するような視線を感じた。気持ち悪。
「うぇ~……実験とか言ってるし、捕まると碌な事にならなそうですね」
「あぁ……それに思い出したぜ……召喚魔法を使う実験好きの野郎。指名手配されている犯罪者だ!」
「ケヒヒ……私も有名になったなぁ」
「コイツ何やったんですか?」
「やった事はたった1つ、アイツが言ったように実験さ……ただ、新たな人類を造るなんて言って人体を切り刻んでくっつけるなんて事をやる実験だがな……その犠牲になったその数は千を超える……最低のくそったれ野郎さ」
「ケヒヒ……私が新たな人類を造り神になるための犠牲なのだ。むしろその事を誉れと思ってもらわんとな」
その物言いは本当に最低だな。さっさと終わらせてやる、とぶん殴りに行く態勢をとった所で後ろからマーラオが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「あ、あの……こんな時に聞くのもなんなんですけど……」
「ん?どうした?」
「物語とか読んでていっつも思うんですけど……」
「ふんふん……」
「……なんでああいう人っていつも1人なんですか?お友達居ないのかな?」
マ、マーラオ……それを聞くか。聞いちゃうか。マーラオの疑問に俺とグレイブさんも実に困った顔を浮かべてしまった。ど、どう答えたもんかなぁ。こんな事をやるから友達が居ないのか、友達が居ないからこんな事をやるのか……俺とグレイブさんがどう答えるべきかを悩んでいると、ローブの男の方から大きな声で
「居ますぅ~!!友達ぐらい居ますぅ~~!!ほんと何言ってんの、その小娘」
と言ってきた。その反応は逆に居ない事の証明ではないだろうか……その証拠にローブの男は近くに居る獣をより一層愛で始めた。
「ほんとあの小娘急になに何言っちゃってんのかねぇ?ここにこんなに友達が居るっていうのに、見えないんですかねぇ?馬鹿なんですかねぇ?ほんと失礼しちゃうよねぇ?ねぇ!ねぇ!」
やめて!!ほんとやめて!!その姿は何か泣けてくるからやめてぇ!!愛でられてる獣も何か嫌そうにしているから、ほんとやめたげてぇ!!しかし、馬鹿呼ばわりされても特に気にした様子もなくマーラオは更に追求した。
「いや、そうじゃなくて……もちろん、ペットを友達というのは素敵な事だとも思いますけど、普通に人の友達は居ないのかなって?」
「「「……」」」
へこたれないねマーラオは……俺とグレイブさん、ローブの男もマーラオの言葉に返す言葉も無く沈黙してしまった。獣達もどうしたらいいいのかわからないのか、キョロキョロとローブの男と俺達を交互に見てくる。俺とグレイブさん、ローブの男も互いを見てどうする?みたいな空気が出来てしまった。このままどうしようかと悩んでいると、ローブの男から今度は提案が飛んできた。
「……えっと……じゃあ、次回……友達を連れてくるって事で……1度解散?するっていうのは……どうかな?……答えはまた出会ったその時にでも……」
「あっ……あぁ……うん……いや、けど犯罪者をこのまま見過ごすってのも……ねぇ?」
「まぁ……はい……そう……ですよね?……見逃す……訳にはいきません……よねぇ?」
「ハッキリしない人達だなぁ!!ズバっと答えを言えば終わる話なのに」
マーラオはズバズバ来すぎです!!デリケートな問題なの、これは!!心に傷が出来る問題なの!!
「……じゃあ……大人しく捕まりますので……そこで新たに友達を作ってそいつに聞くって事なら?」
「それならまぁ……いいんじゃないかなぁ?」
「……です……かねぇ」
「もういいからさっさと行こ!!どうせ今答えてくれないんでしょ?」
落ち着いて!!マーラオ落ち着いて!!行くから!!もう行くから!!ローブの男は獣達を召喚魔法でこの場から消すと大人しく捕縛された。俺達は近くにある街道脇の木にローブの男を縛る。
「えっと……大丈夫ですか?きつくないですか?」
「大丈夫だ。ありがとう」
「いえ……友達……出来ますよ、きっと……」
「あぁ……必ずお披露目するよ」
「頑張って下さい」
そうして俺達は再びレガニールに向け進みだした。ローブの男は確かに犯罪者だが、友達が居ない事には同情してしまう。俺も人に会いたくて山を降りたから……だから俺はどうか彼に友達が出来ますようにと密かに願っておいた。