作品タイトル不明
第84話 我が家の雑用係として雇おう
カルザーが十五歳になったとき、魔法の才能を判定する「鏡の審判」が行われた。
ここで最も強力な赤魔法の才能を引くことができれば、自分を凡才と断じた周囲を見返すことができるかもしれない。
『カルザー様の魔法の才能は「緑魔法」です』
だが現実は無情だった。
もちろん緑魔法は決して弱い魔法などではないのだが、エグゼール伯爵家においては可もなく不可もなくといったもので。
『まぁ元々あまり期待されていませんでしたからねぇ』
『緑魔法であれば次期当主様のサポートとしては適当でしょう』
『二年後のライル様の審判が楽しみですね。きっと赤魔法の才能をお持ちでしょうし、もしかしたら多重才能かもしれません』
やはり自分は凡人で、天才として生まれてきた弟の引き立て役でしかないのか。
そう落胆するカルザーだったが、二年後、誰もが想像していなかった事態が起こる。
『ライル様の魔法の才能は……「生活魔法」だと……考えられます……』
神童のはずの弟が、実は誰よりも無能だったことが判明したのだ。
これはカルザーにとって大きな慰めとなった。
「はははははははっ! 誰が天才で、誰が凡人だ! お前こそ、エグゼール家に生まれたことが不思議なほどの凡人だったじゃないか!」
期待していた分、父であるガウス=エグゼールの怒りは凄まじく、すぐに弟は実家を勘当され、追放されることになった。
当然ながら弟が無能だと分かったところで、カルザー自身の才能には何の影響もない。
それでも彼はせいせいした気持ちだった。
けれど、ライルが去ってしばらくした頃。
急に父ガウスから呼び出されたのである。
「ライルを連れ戻せ、ですか……?」
「……そうだ」
「ははは、やはり父上も人の子でしたか。さすがに不憫になって、せめてアイツを我が家の雑用係として雇おうというのですね」
「いや、そうではない」
「え?」
「やはりあいつは、神童であったかもしれぬということだ」
「なっ……なぜですか!? アイツの才能は生活魔法! 魔法使いとしては雑用しかできない無能中の無能ですよ!?」
父の突然の心変わりに戸惑うカルザー。
そんな彼をガウスは一蹴した。
「ええい、黙れ! お前はただ言われた通り、あいつを連れ帰ってくればいいのだ!」
「っ……わ、分かりました」
有無を言わさぬ父の圧力に、カルザーは唯々諾々と頷くしかない。
しかし内心では、凄まじい憎悪が渦巻いていた。
「(ライルめ……ようやくいなくなったと思ったら、戻ってくるだと……? しかもなぜこのオレがわざわざ……っ、そうだ……これはむしろチャンスかもしれない……アイツを見つけて、オレの手で……)」
◇ ◇ ◇
その場に倒れ込んだ兄上を、リーゼさんたちが素早く取り囲んだ。
「少しでも動いたら刺します」
「っ……」
「拙者も右に同じでござるよ!」
「がははははっ! いかに魔法の発動が早くとも、ここまで接近されてはどうにもなるまい!」
「……油断するな。凄腕の魔法使いの中には、斬撃よりも早く魔法を放てる者もいる」
完全に包囲された兄上は、忌々しく僕を睨みつけながら叫ぶ。
「ライルっ……さっきからお前のその魔法は何なんだっ!?」
「何って……もちろん生活魔法ですけど?」
「あんな生活魔法があって堪るか!?」
そんなこと言われても、間違いなく生活魔法なんだけどなぁ。
ちょっと普通よりも込めている魔力量が多いだけで。
「その意見には同意せざるを得ないですね……」
「拙者もでござる」
「がはははっ! わしもだ!」
「……誰もがそう思っている」
えっ、リーゼさんたちまで!?
「お前はいつもいつもそうだっ……毎度毎度、兄であるこのオレを易々と超えていく……っ! オレはこれまでに幾度、屈辱を味わったことか……っ! お前が家から追い出されて、ようやく苦痛の日々から解放されたと思ったのにっ……またお前はこのオレを辱めるつもりなのかっ!?」
兄上がどこか泣きそうな顔になりながら訴えてくるけれど、残念ながらあまりピンとこなかった。
「あの、言ってる意味がよく分からないんですが……?」
助けを求めるようにリーゼさんたちを見ると、何かを悟ったような目をしていて、
「なるほど……確かに弟がライル君だと、物凄い劣等感に苛まれそうですね……」
「拙者、少しこの男に同情したくなったでござる」
「がはははっ、他人と自分を比べる必要などないのだがな!」
「……名の知れた貴族の家ともなると、家督争いも激しいはずだ……そんなことも言ってられぬだろう」
おかしいな?
なぜか僕よりもリーゼさんたちの方が理解しているような……。
と、そのときだった。
「〈リバーフォール〉!」
いきなり空から滝のような水が降ってくる。
あっという間に視界不良になる中、聞こえた叫び声は兄上の配下と思われる男のものだった。
「カルザー様っ! 今のうちに!」
「っ……〈トルネードストーム〉!」
「「「~~~~っ!?」」」
兄上の魔法で、リーゼさんたちが再び吹き飛ばされてしまう。
「ライル、今日のところは見逃してやろう……っ!」
「兄上……」
「だがこれで終わりだと思うなっ? 次こそは必ずお前を仕留めてみせる……っ! 首を洗って待ってやがれっ!」
そう言い残し、逃げていく兄上。
水飛沫の向こうに消えていく後ろ姿を見ながら、僕は思わず呟くのだった。
「なんてベタな捨て台詞……」